159話 発動した古代兵器の威力!

 発掘されたホワイトゴーレムを巡り、西部ルーンランド連合と中央スローン連合は一触即発の状況になっていた。


 そして11月6日、ついに皇帝カルロス率いる中央政府軍が侵攻を開始したのだ。対するルーンランド軍は、領境の丘に陣を張り迎え撃つ態勢を整えたのである。


「マリナカリーンさま、敵は十万の大軍です。わが軍は三万ですし、ゴーレムも中型を百体しか連れて来ていません」


「アムル、心配するでない」


 マリナカリーンは笑顔で言うが、ルーラン侯アムルの顔は曇ったままだ。


「アムルの心配はもっともです。これだけ戦力に差があれば、ゴーレムといえど危ないのではありませんか?」


 マリも心配そうにたずねる。

 そんな話をしていると、偵察に行ったファムとハリルが戻って来た。


「師匠、これは不味いかもしれん。政府軍はゴーレム対策をしておる」


「ええ、そうです。網やロープを大量に用意していました。ゴーレムを絡めとるつもりでしょう。それに加えて本陣を沼地に作っています」


 報告を聞くと、マリナカリーンは口の端を持ち上げ獰猛な笑みを浮かべた。


「よい、よい、最高の舞台じゃ。ゴーレム対策すらできぬ無能に勝っても意味がないからの。自信満々の敵を打倒してこそ価値がある」


「お祖母さま、その自信はどこから来るのです? 人海戦術で攻められたらゴーレムといえど苦戦しますし、あの重さでは沼地で動けません」


「わしもマリに賛成じゃ。敵は地形を巧みに利用しておる。ゴーレムで戦うのは止めた方がよい」


 その会話を聞いてアムルは真っ青になった。


「あの……本当に大丈夫ですか?」


「ふふふ、可愛い少年をこれ以上怖がらせるのも気の毒じゃ。さっさと決着をつけるとしよう」


 彼女はゴーレムの前まで行き命令する。


「よいか! 目的は皇帝カルロスの捕獲じゃ。捕らえたら全力で帰還せよ。敵兵はできるだけ殺さぬように。お前たちが人を殺めればアムルが悲しむ」


 ゴーレムが力強くうなずく。


「ファムとハリルは軍監として同行せよ。特にハリル、ゴーレムの性能を頭に叩き込むのじゃぞ」


「わかった、師匠!」


「了解です」


 そして彼女は敵陣を指し示した。


「行けっ! わが母の僕たちよ! その力を存分に見せつけるのじゃ!!」




 ゴーレムが走りだした!

 そのあとをファムとハリルが追う。


「何という速さじゃ! 石の巨体でどうしてこれだけの速度が出せる」


「ホントに凄い速さだね。ついて行くのがやっとだよ。僕たちはステータス上昇魔法を使ってるのに信じられない」


 ゴーレムの速度は時速百キロを超えていた。あまりのスピードに敵は包囲することすらできず、網やロープを使うチャンスがない。


「おかしい?」


「どうしたの、ファム?」


「ここらには落とし穴がたくさんある。じゃが、ゴーレムは一体も落ちてないではないか」


「そういえばそうだね。僕たちは避けて走ってるけど、ゴーレムも罠を察知できるのかな」


 二人の疑問はすぐ解けることになる。ゴーレムの一団が沼地に近づいたのだ。


「えっ? ゴーレムが進路を変えないよ!」


「いかん! このままでは沼に沈んでしまう!」


 だがゴーレムは沈まなかった。沼地を真っ直ぐ走り抜けて行く。逆に、ファムとハリルが沼にハマってしまった。


「どうなっておるのじゃ?」


「よくわからないけど、ゴーレムは水の上を走ってるみたい」


「水の上?」


 ファムが注意深くゴーレムを見れば、足が水につかってないのだ。


「なるほど、あやつらは大地を蹴っておるのではない。地表すれすれに膜のようなものを張り、その上を走っておるのじゃ」


「ああ、それで落とし穴にも落ちないのか」


 追跡をあきらめた二人は、その場で立ち止まった。そして、走り去るゴーレムの背中を見送ったのだ。


「軍監失格だね」


「仕方あるまい。ホワイトゴーレムを監視するのは不可能じゃ。師匠はそれをわかった上で、わしらに軍監を命じたのじゃろう。今ごろ笑っておるわ」


 ファムとハリルがずぶ濡れになって本陣に帰還すると、案の定、マリナカリーンは大笑いして二人を出迎えた。


「師匠、人が悪いにもほどがあろう!」


「すまぬ。ゴーレムの性能を理解して欲しくて命じたのじゃ。ハリルよ、奴らは凄まじかったであろう」


「驚きました。ブラックゴーレムなら見たことがありますが、どれも動きが鈍く怖くありません。でも、あれは水の上を走るんですね。敵でなくてよかったです」


「うむ。それがわかれば上等じゃ。この経験をもとに、これからもマリアンヌを守るのじゃぞ」


 うなずくハリルを見て、彼女は満足そうに微笑んだのである。



 ◇*◇*◇



 ルーンランド軍と中央政府軍の勝敗は瞬時に決した。

 ―――というか戦争にならなかった。


 ホワイトゴーレムに捕虜にされた皇帝は、ルーンランドの和平案を受け入れ、二度と軍事侵攻しないと誓約した。怯え切ったカルロスを見て、それが守られると誰もが確信したのだ。


 政府軍は首都スローニアに撤退し、ルーンランド軍もルーランに帰還した。両軍ともに戦死者、けが人はいない。戦争の結末を見届けたマリとマリナカリーンも、アムルと一緒にルーラン城に引き上げたのだ。


「お祖母さまは、最初からこうなるのがわかっていたのですね」


「ああ。口で言っても信じられぬと思い、あえて説明しなかったのじゃ」


「ホワイトゴーレム、とんでもない性能でした」


「あれはルーン帝国末期の最高傑作でな。ブラックゴーレムとは使われている技術が違う。母が親衛隊に採用したほどじゃ」


 マリナカリーンが自慢する。


「ですがー、そんな高性能のゴーレムをルーンランドに置いておくのは危険ではありませんかー」


「それは大丈夫じゃ。最高性能はマスターのわしにか出せん。普段は安全装置が掛かっておってブラックゴーレムと大差ない。それに、いざとなればわしが止める」


 ローラとマリは揃って胸をなでおろした。


「それで、お祖母さま。最後に一つ」


「何じゃ?」


「どうしてホワイトゴーレムをハリルくんに見せようと思ったのです?」


 マリの質問に彼女は答える。


「もしあやつらが敵に回れば、対抗できるのはハリル一人じゃろう。おそらくエリックやファムでは勝てぬ」


「敵になる可能性があるのですか?」


「わからぬ……それにホワイトゴーレムだけではない。あれに匹敵する古代兵器がまだ眠っておるやもしれん。大崩壊のあとルーン帝国の技術がどうなったか、わしにも見当がつかぬのじゃ」


「それを調べに行くときは、ハリルくんを同行させろということですね」


「そうじゃ。あやつは賢い。今回のことはよい経験になったじゃろう」


 祖母の話を聞き、マリは深くうなずいたのだ。

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