158話 ホワイトゴーレムの秘密

 マリとウェグは体を洗い続け、体に染みついた悪臭をようやく落とした。


「あ~っはっはっはっはっ!」


「ぷっ、クスクスクス……」


 げっそりした二人を見て、笑っているのはマリナカリーンとマリーローラだ。


「お祖母さま! お母さま! わたしたちは酷い侮辱を受けたのですよ」


「そう怒るな、マリアンヌ。スローン帝国は昔からそんな国じゃ。謀略に暗殺、それに戦争が大好きな連中じゃからな」


 それを聞いたローラも同意する。


「わたしもお母さまもー、スローンをどうにかしようと頑張ったのです。善政を行いそうな領主に政権を取らせたり、神殿を支援して竜神教を広めてみたり、あらゆる手を使ったのですよー」


「そのとおりじゃ。改革すると十年ほど平和になるが、やがて政治が腐りだして戦争が始まる。何度やっても同じことの繰り返しじゃった」


 二人はスローンに愛想を尽かし、ルーンシアへ移住したのだ。


「ルーンシア建国は上手く行ったな。王家は見事な千年王国を作り上げおった」


「そうですねー。わたしがアーセナルさまと結婚したのがよかったのでしょう。竜神と王家が一つという想いが、国を強固にしたのだと思います」


「ローラよ。コマリが大きくなったらスローンで婿を取らせようと思っておる。あの子なら、広大な帝国をまとめ上げることができるじゃろう」


「それはいい考えですねー。コマリはゴブリアード建国で経験を積んでいます。それを活かして、スローンも素晴らしい国にすると思いますよー」


 嬉しそうに語り合う二人をマリは見ていた。


(コマリも大変ね。こんなに期待されちゃって。まあ、あの子ならやり遂げそうだけど)


 そして複雑な笑みを浮かべたのだ。


「お二人とも未来の話はそれくらいで。コマリが結婚するのは数百年から数千年先のことです。今は内戦をどう収めるか考えませんと」


「なんじゃ、また戦争になりそうなのか?」


「そうなのです」


 マリは、ルーンランド連合でホワイトゴーレムが発掘されたこと、それが原因で内戦が起きそうだと話した。


「ホワイトゴーレムか、これは懐かしい」


 マリナカリーンが微笑む。


「お祖母さまは知っているのですか?」


「知っているも何も、あれはわしの所有物じゃ」


 そしてホワイトゴーレムについて説明した。


 ルーン帝国が大崩壊したとき、当時の竜神だったニーナマリアは本拠地をスローンに移した。そして、その地をルーンランドと命名したのだ。


 ホワイトゴーレムはニーナマリアの親衛隊で、彼女が他界したあとすべての権限を娘のマリナカリーンが受け継いでいる。


「それでは、お祖母さまが現在のマスターなのですね。でも、ルーラン侯はゴーレムに命令できていましたよ」


「ルーラン家はわしの父の血筋に当たる。そういうわけで、ゴーレムの命令権の一部を付与してあるのじゃ。その家の当主なら動かせて当然じゃろう」


 説明を聞き終えマリはうなずいた。


「ホワイトゴーレムの正体はわかりました。でも内戦はどうしましょう? ゴーレムと人間が戦えば、たくさんの戦死者が出てしまいます」


「それは心配いらん。わしに考えがある」


 そう言って、マリナカリーンは獰猛な笑みを浮かべたのだ。



 ◇*◇*◇



 それから二日経ち、マリとウェグは再びルーンランド連合を訪れた。今回はマリナカリーンが一緒で、ファムとハリルも同行している。


「お祖母さま、どうしてファムとハリルくんを連れて来たのです?」


 マリは小首をかしげた。


「うむ。ファムはどうでもよいが、今回のことをハリルに見せたいと思ってな」


「僕にですか?」


 ハリルも不思議そうにしている。


「そうじゃ。わしが思うに、おぬしがいちばん見所がある。経験を積ませておきたいのよ」


 その言葉に反応したのはファムだ。


「師匠! まさかと思うが、ハリルに惚れたのではあるまいな。こやつはわしのものじゃ。師匠でも絶対に譲らぬ!!」


「たわけ! まったくもって不詳の弟子じゃ。わしがハリルを誘惑しているように見えるのか」


「見える! いまの師匠はいやらしい目をしておる。その証拠にアローラを連れておらぬではないか。浮気する気満々じゃろう!」


 言い合う二人をマリが仲裁する。


「まぁ、まぁ、まぁ、ファムも落ち着きなさい。お祖母さまがハリルくんを高く評価しているってことだから。あなたも鼻が高いでしょう」


「それはそうじゃが……」


 ファムは不満そうに口ごもるのだった。




 そんな話をしていると、ルーラン侯アムルが部屋に入って来た。そして、マリナカリーンの前でひざまずく。


「初めまして、マリナカリーンさま。あなたのことは歴史の授業で教わりました。ルーラン家の縁戚に当たられるのですね。祖先が大変お世話になったとか」


「それは何千年も昔のことじゃ。気にする必要はない。今日はホワイトゴーレムを見に来た。案内してくれるかな?」


「はい、喜んで!」


 嬉しそうなアムルの横に並んでマリナカリーンは歩き出した。彼女の左手は少年の肩をしっかり抱いている。


「マリ、見てのとおりよ。師匠は美少年キラーとして有名なのじゃ。わしが心配するのもわかるじゃろう」


(ははは……お祖母さまがショタコンだとは知らなかったわ)


 仲良く歩く二人を見つめながら、マリは心の中で冷や汗を流すのだった。

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