二章 転生聖女と降臨した竜神
42話 いざ、共和国へ!
魔王ブーエルが討伐され、ルーンシア王国は本来の姿に戻った。アルベルト殿下が新国王に即位し、今は戴冠式の準備が行われている。
マリは、すぐにでも王国へ行き竜神について調べるつもりだった。しかし、新王になったばかりで王宮が慌ただしく、しばらく訪問できそうにない。そこで彼女は、王国の受け入れ準備が整うまで家族旅行に出かけることにしたのだ。
「お姉さま! どこへ行かれるのです?」
サラは興奮してたずね、コマリも大喜びだ。
「イブルーシ共和国へ行きます!」
「共和国には海があるのですよね。わたし、まだ見たことがありません!」
「そうよ、輝く太陽にエメラルドグリーンの海! もう最高なんだから」
「うみ~、うみ~」
コマリはとうとう踊りだした。
「共和国か、あそこには俺の別荘がある」
「ありましたね、ご主人。わたし、あそこが気に入っています」
ガルとサンドラも嬉しそうだ。
「お二人は共和国へ行ったことがあるのですね」
「あそこの狩場は美味しくてな。金が必要になると共和国へ行って稼ぐのさ」
「わかります! ゲームの話ですが、わたしもよく行ってました。あそこは狩りの単価がびっくりするくらい高いですから」
旅行の話はとんとん拍子にまとまり、マリ一家は二か月ほど共和国にあるガルの別荘に滞在することになったのだ。
◇*◇*◇
イブルーシ共和国。この国は冒険者と商人の聖地だ。王国のさらに南にある国で、ルーン海に面していて青い海と空が美しい。
ガルの話していた別荘は、首都ルーシーの下町にあった。しかし到着して早々、サラとサンドラが寝込んでしまったのだ。
「体調はどうです?」
「はい、大丈夫です」
「わたしも何とか」
ベッドで横たわる二人をマリは介抱する。
「それにしても、コマリがあんなに速く飛ぶとは知りませんでした」
「そうですね、サンドラさま。ミスリーからここまで八百キロ以上あります。その距離を、コマリは三時間足らずで移動しましたから」
「時速三百キロですか。聖女の恵みがなければ死んでいましたね」
コマリを抱きかかえながら、マリは笑顔を引きつらせた。
「ママ……ごめんなさい」
「ママやガルさんは平気だけど、サラお姉ちゃんやサンドラさんはそうじゃないからね。もっと考えてあげないと」
「かんがえたの、だからゆっくりとんだの……でも、でも」
コマリは今にも泣きだしそうだ。
「気にしなくていいですよ。初めての家族旅行で嬉しかったのでしょう。はしゃいじゃったのね」
サンドラが笑いかけると、彼女はようやく笑顔になった。
「それより、ご主人はどうしました? 姿が見えませんが」
「冒険者ギルドへ行きました。お金をいっぱい稼ぐって張り切っていましたよ」
「そういうのが好きですから、ご主人は」
「わたしも明日から狩りに出かけます。コマリの世話をよろしくね、サラ」
「はい、お姉さま」
◇*◇*◇
翌朝、マリは冒険者ギルド・ルーシー本部を訪れた。アルデシア各地にある冒険者ギルドを統括する組織で、ミスリー支部の五倍はある立派な建物だ。
扉を開けて中へ入れば、フロアは仕事へ行く前の冒険者でごった返している。
「これよ! この雰囲気が堪らないのよ」
彼女は興奮して掲示板を見て回った。
「う~ん、条件が合う仕事が見つからないわね。
―――って言うか、低ランク神官募集って男だけじゃない!」
受付に行って相談すると、共和国のパーティーは攻撃重視で、前衛で戦えない女神官は歓迎されないそうだ。
「不人気職の悲哀はゲームも現実も同じなのね」
仕方ないので酒場のカウンターに座り飲み物を注文した。こうしていれば誘ってもらえることが多いのだ。
そうやって午前8時を回ったころ、一人の少女がマリの前にやって来た。
「あんた、仕事にあぶれてるの?」
見ればまだ幼い子だ。
「ええ、そうだけど。お嬢ちゃんは?」
「お嬢ちゃんと呼ばれるほど世間知らずじゃないわ! あたいの名はミア、覚えておいて」
ミアは凄むが、その姿はめちゃくちゃ可愛い。ハリルに似た雰囲気の少女で、髪はブルネットでボサボサのショートカットだ。
「ごめんなさい、ミア」
「わかればいいのよ。それで、暇ならあたいたちのパーティーに入らない。荷物持ちがいなくて困ってたところなの」
彼女に案内されて広場へ行くと、そこには十歳くらいの子供たちがいた。全部で八人。剣士が二人、盾持ち戦士が二人、魔術師が三人、神官はミア一人だ。
「なるほど、神官が足りないのね」
「あんた何を言ってるのよ。あたいは優秀だから神官は一人で十分なの。さっき言ったでしょう、足りないのは荷物運びだって!」
「すいません、妹が迷惑をかけちゃって」
十歳くらいの少年が話しかけてきた。
「僕がリーダーのニール。西の森へ行くんだけどポーターがいないんです」
見ればキャリーが置いてあり、山のような荷物が括られている。
「人数が増えすぎ、荷物をまとめると誰も担ぐことができなくなっちゃって」
少年はポリポリと頭をかく。ミアの兄だけあって外見は彼女そっくりだ。
マリは、キャリーに近寄り大量の荷物をひょいと担いだ。男でも持ち上がりそうもない重さだが、魔法で強化してあるので楽に担ぐことができる。
「いい、お給金は銅貨一枚だからね」
「構わないわ。今はお金より経験だから」
「ふん、いい心掛けじゃない。そうして
「妹が失礼でごめんなさい……ええっと」
「マリよ、呼び捨てで構わないから」
「じゃ、マリ。さっそく出発するから」
ミアはリーダーのように声をかける。
こうして、マリは小さな冒険者たちと一緒に狩りに出かけたのだ。
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