125話 魔王オセの陰謀

 マリたちの日本訪問も無事に終わり、いつもの日常が戻ってきた。


 レスリー、ファム、ハリル、ユーリの四人は、魔の森の自衛隊基地で次元の門の監視とモンスター駆除をしている。


 マリは武蔵野の実家に戻り、コマリと一緒に居間でTVを見る毎日だ。




「マリ! ゴロゴロしないの。アルデシアでは責任ある立場なんでしょう。仕事をしなさい」


 ソファで寝そべる彼女に向かい、母ユリのお小言が飛んでくる。


「ちゃんとしてるって。武蔵野ゲートの様子をTVでチェックしてるんだから。

 ―――コマリ、ニュースが始まるからチャンネルを変えてちょうだい」


 コマリはリモコンを使い、アニメからニュース番組にした。


「あなたお母さんでしょう! コマリちゃんはこっちが見たいのよ」


 そしてアニメに戻したのだ。


「ブ――、ブ――」


 マリの猛抗議にユリはため息をつく。


「見た目は大人っぽくなっても、中身は以前のまんまなんだから!」




 母とコマリにチャンネル権を奪われ、マリは仕方なくサタンの住むアパートへ向かった。


 訪ねてみれば、彼は6畳間でTVゲームに熱中している。その姿はすっかり日本の青年で、とても魔の森で覇権を争っていた魔王には見えない。


「やっぱり懐かしいですか、日本の生活が」


「ええ、最高です! ゲームをやりながらコンビニ弁当やスナック菓子を食べる。一万年生きてきて本当に良かったと思いますよ」


「わかります! どうしても食べたくなっちゃうんですよね」


 二人は顔を見合わせて笑う。


「そういえば見ました。聖女と竜神さまが日本を訪問した特別番組」


 サタンはゲームを止め録画した映像を見せた。そこには満面の笑みでピースサインをする竜のコマリと、その横で冷や汗を流すマリが映っている。


「マリが面白いのは知っていましたが、竜神さまも面白いですね。さすが母娘おやこだと感心しました」


 彼は愉快そうに笑う。その顔は、どう見ても感心しているようには見えない。


「色々とあった日本訪問ですが、本当に楽しかったです。コマリもいい勉強になりましたし」


「異世界を自分の目でみるのは、最高の経験になりますからね」


 二人とも転生した経験があり、異世界で生活することの大切をしみじみ語り合ったのだ。




「そういえば、聖女。次元の門はいつまで開けておくのです?」


「実はこれ、わたしたちが開けたものではありません」


 マリはこれまでの経緯を説明した。


「なるほど。私が返した神具を、再び何者かに奪われてしまったと」


「そうです。その犯人が次元の門を開けました。サタンさまには犯人の心当たりがないでしょうか? 瞬間移動を使える者です」


「う~ん、私が知っている魔族にそのような能力者はいませんね。まあ、全員の能力を把握しているわけではないが」


「そうですか」


「ただ、犯人に心当たりはあります」


「誰です?」


「オセとバフォメットです。私は竜の力を研究していましたが、実際に調査していたのは彼らでした。竜の力についてかなりの知識を持っています」


「どういう方です、お二人は?」


「オセは、私が竜神の剣を使い人間と融合させた合成魔王です。バフォメットは、エマニュエル卿、ゼビウス卿の二人が合成した魔王ですが、オセの手引きで我が陣営に引き入れました」


「仮にその方たちが犯人だとして、竜の力をどのように使うと思います?」


「そうですね。魔の森の支配でしょうか。アルデシア全土の支配は考えないと思いますよ。そんなことをすれば竜神さまに敵対してしまう」


 マリも同じ考えだ。三大神具が竜の力を宿しているとはいえ、竜体が持つ力に比べ遥かに小さい。


「そうですね。コマリに挑むような愚かな真似はしないでしょう」


 そう言って微笑んだマリだが、胸の奥底でわき上がる不安をどうしても消せないのだった。



 ◇*◇*◇



 ここは魔の森の西方にある巨大な城だ。かつて、魔王サタンが住んでいたタナトス城である。


 その城の一角で、オセとバフォメットが三大神具を弄っていた。


「オセ。竜元素の分離はできそうか?」


「ああ、杖と剣の処置は終わった」


 作業の様子をのぞき込むバフォメットに、オセは二つの小さな玉を見せた。それは不老玉によく似た金色の玉だが、輝きの強さはその比でない。


「この玉に竜元素が封印されている」


「なるほど。見ているだけでも力の巨大さを感じるな」


「基本的に竜神と同じものだ。まだ二つなので不完全だが」


 オセは不気味に笑いながら話を続ける。


「竜神の弓の中にある竜元素も取り出し、三つ揃えばそれらを依り代に移植する。そうすれば竜元素は徐々に成長し、やがて第二の竜神になるのだ」


「三大神具にそんな使い方があるとは知らなかった。よくそこまで調べたな」


「俺は、サタンの命令で五千年前から竜の力を探し求めた。だが、集まった情報をすべてサタンに渡したわけではない。自慢になるが、竜の力に関してアルデシアでいちばん詳しいのは俺だろう」


 素晴らしい! バフォメットが拍手する。


「ところでオセ。本当に俺が竜神になっていいのだな?」


「本当は俺自身がなりたいさ。だが、竜元素の移植は俺にしかできない。こればかりはどうにもならん」


「そうか。俺がアルデシアを征服した暁には、お前に十分な利益を約束しよう」


「期待してるぞ」


 二人の魔王は互いに笑い、がっしりと握手したのだった。

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