126話 出現した第二の竜神!
三大神具を持ち去った犯人がオセとバフォメットではないかというサタンの情報を元に、マリナカリーンはタナトス城を捜索した。だがすでに遅く、彼らは逃亡したあとだったのだ。
このことについてセントエルヴス城で会議が開かれた。出席者は彼女をはじめ、アルナミス、フレイア、玉藻前といういつもの面々だ。
「城の魔族に聞いたところ、オセとバフォメットは奇妙な行動をしていたらしい。突然いなくなっておるし、犯人は彼らで間違いないじゃろう」
マリナカリーンが話を続ける。
「彼らが開けた次元の門だが、マリアンヌの報告では問題ないそうじゃ。安定しておるし、門の向こう側から攻めて来ることもない」
「まずは一安心といったところか」
アルミナスが安堵の吐息をもらした。
「しかし、彼らは三大神具を持っています。油断できません」
「フレイアよ、神具が持つ竜の力は小さい。滅ぼすのは簡単じゃ。居場所さえわかれば、コマリを使って一気に片をつける」
「竜神さまが協力してくれるのであれば心配ないであろう。わらわたちは、彼らが見つかるのを待っておればよい」
「捜査網をアルデシア中に張り巡らせた。動けば報せが届くよう手配済みじゃ」
「問題は、彼らがまったく動かない場合ですね」
「それがいちばん困るのじゃ。長期戦を覚悟せねばなるまい」
難しい顔をするマリナカリーンだったが、それは
◇*◇*◇
マリナカリーンたちが話し合っているちょうど同じころ、タナトス城でも会議が開かれていた。五人の有力な魔王が集まり、サタンがいなくなった領地を誰が治めるかで議論していたのだ。
「俺たちは武闘派だ。戦って勝敗を決めるのが後腐れなくていいだろう」
「賛成だ。この中で誰がいちばん強いのか、確かめたくてウズウズしていた」
「殺し合うのは決定として戦力が減るのは困る。このあと、ベリアルやアザゼルとも戦わなくてはならないからな」
物騒な発言をしているのは、魔王ザン、魔王サマエル、魔王バラン、魔王セトで、彼らがサタン陣営の魔王序列、一位から四位である。
「ではこうしよう。戦争でなく希望する魔王で決闘を行う。それで生き残った者がサタンの後継者だ」
発言したのは魔王ゼノだ。序列五位だが最長老で強い発言力を持っている。彼の意見に異議がないのか全員がうなずいた。
―――その時だった!
「その決闘、俺も参加させてもらうとしよう」
五人の魔王が振り向けば、部屋の入口に一人の魔族が立っている。
「誰だ! お前は?」
「見忘れるとは薄情な連中だな」
「もしかして、お前はバフォメットか?」
「そうだ。改造して体の色が変わっているが、間違いなくバフォメットだ」
その言葉通り、彼の体は黄金に輝いていた。
「バフォメットよ、お前は一人の魔族も従えていないではないか。名ばかりの魔王に参加する資格はないぞ!」
ゼノが言い放つ。
「フハハハ、くだらんことを!」
バフォメットは高笑いをすると戦闘態勢を取ったのだ。
それから五分後、会議室には四人の魔王の死体が転がっていた。
「ゼノよ、これでも俺に資格がないと?」
「信じられん。どうしてお前ごときがこれほどの力を持っている!?」
「それは俺が教えてやろう」
部屋に入って来たのは魔王オセだ。
「バフォメットは竜の力を手に入れたのだ」
そう言いつつ、四人の魔王の死体を確認する。
「ザン、サマエル、バラン、セト、これほどの実力者でさえ一瞬で倒してしまう。予想を遥かに超えた力だな」
「ああ、竜の力は本当に素晴らしい!」
「この調子でベリアルやアザゼルも滅ぼしてしまおう。そうすれば、俺たちが魔の森の支配者だ」
嬉しそうに笑う二人に向かいゼノが言う。
「バフォメット、オセ、調子に乗るなよ。竜の力を手に入れたそうだが、そんなことをすれば竜神が黙っていない。滅ぼされるのはお前たちの方だ!」
しかしオセは余裕だ。
「残念だな、ゼノ。竜神はバフォメットに手を出せない。そういう仕組みになっているのさ」
そして、口の端を持ち上げたのである。
◇*◇*◇
竜体になったバフォメットがタナトス城を制圧した。その報せはすぐに聖都に伝わり、マリとマリナカリーンは現地へ急行する。
黄金の竜がタナトス城の屋根に舞い降りると、数百の魔族が現れマリたちを取り囲んだ。
「コマリ! 雑魚は相手にしなくていい、目標はバフォメットだけよ。見つけたら神聖ブレスで滅ぼしなさい!」
マリの命令にうなずくように、竜は激しい咆哮を上げる。
「マリ、捜索は任せろ!」
そう叫んだのは魔王ベリアル。兄さまと呼ばれる男の姿だ。
「マリアンヌ! わしがベリアルに同行し瞬間転移しながら探す。わしが合図したら、迷わずコマリに攻撃させるのじゃ!」
「わかりました! お祖母さま、ベリアル、お願いします!」
そして、ベリアルがマリナカリーンを抱きかかえ瞬間移動しようとした、まさにそのときだった!
「俺を探す必要はないぞ!」
声のする方を向けば、城のテラスにバフォメットがいる。彼の体は黄金に輝き、かもしだす雰囲気は竜神そのものだ。
(報告で聞いてたけど、本当に竜体になってる。これは不味いわね)
そして、ためらうことなく命令した!
「コマリ! ブレス!!」
しかし、コマリはブレスを吐かない。
「どうしたの、コマリ? 早くバフォメットを滅ぼしなさい!」
それでもブレスを吐こうとしない。ただバフォメットを見つめ、盛んに首を捻っている。その様子を見ていたマリナカリーンが、あることに気がついた。
「なるほど、そうであったか! コマリ、一度引くのじゃ。聖都へ帰還する!」
彼女の声と同時に竜は大空へ羽ばたいた。そして城の上空を旋回し、そのまま飛び去ったのである。
遠ざかる竜神をバフォメットが眺めていると、オセがテラスにやって来た。
「な、言ったとおりだろう」
「ああ、確かに竜神は俺を攻撃しなかった。いったいどういうわけなのだ?」
「今から話すさ」
そして、その理由を説明したのである。
◇*◇*◇
「どういうことだ、マリナカリーン!」
ベリアルが
「すまぬ! 助力してもらったのにこの体たらくじゃ。詫びようもない」
「お祖母さま、事情を聞かせてください。どうしてコマリは言うことを聞かなかったのですか?」
コマリを抱きかかえ、マリもたずねた。
「マリアンヌよ、わしが三大神具を破壊できない、と言ったのを覚えておるか」
「はい。神具は危険なので壊してしまおう、という意見が出たとき、お祖母さまがそう言われました」
「そうじゃ。わしが竜神だったころ神具を破壊しようとした。しかし、どうしても破壊できなかったのじゃ」
「なぜです?」
「わからないのじゃ。神具に向かって神聖ブレスを放とうとすると、そうしてはならぬと心理的なブレーキが掛かってしまう」
「ママ、ばふぉめとをばりばりごーしちゃだめ」
「どうしてなの、コマリ?」
「う~ん、よくわかんない」
コマリも首をかしげる。
「とにかく、竜神がバフォメットを攻撃できないのは確実なようだ」
ベリアルは落胆の色を隠せない。
「もうお前たちには頼らない。あとは俺たち魔族で決着をつける」
「待って、ベリアル……」
マリが引き止めるのも聞かず、ベリアルは瞬間移動してしまったのだ。
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