127話 集結するマリの仲間たち
竜神はバフォメットを滅ぼせない。その事実はマリたちに衝撃を走らせた!
「ソフィのときと同じです。世界樹の実を食べた彼女に暗黒樹は攻撃しませんでした。暗黒樹は世界樹から株分けした兄弟樹、同族に手を出さないのでしょう」
「おそらくそうであろう。神具の中にあった竜元素は竜神の体の一部。それを取り込んだバフォメットに対して、無意識に攻撃が抑制されるのじゃ」
マリの説明にマリナカリーンも同意した。
「お母さまにマリアンヌ。理由はともかく、このままだとバフォメットは、わたしたちを無視して好き勝手に暴れ回りますよー」
そう言うのはマリーローラだ。
「今回はコマリを当てにできぬ。わしらだけでどうにかしなくてはならないのじゃが、果たしてそんなことができるかどうか……」
「そうですね、お祖母さま。バフォメットは竜体になっていました。戦って勝てる相手ではありません」
竜体が滅びることはない。灼熱の溶岩の中や宇宙空間にいても平気なのだ。
「お母さまにマリアンヌー、確かに竜体は不滅ですが打つ手はあります。コマリは三百年のあいだ封印されていましたー。それと同じことをすればいいのです」
「おお、なるほど! 滅ぼせなくても封印することはできそうじゃな」
大きくうなずいたマリナカリーンに、ローラが作戦を説明する。
「まずバフォメットを行動不能にします。そして闇結晶を使って闇魔力中毒を起こさせ、妖精王さまの力で封印すればいいのですよー」
「お母さま、いい考えだと思います。妖精王さまの力であれば可能でしょう。問題はどうやって行動不能にするか、ですね」
「バフォメットは竜体になったばかりじゃ。成長してないから発生できる魔力も限られておる。長期戦に持ち込めば、必ずエネルギー切れを起こすじゃろう」
ローラとマリナカリーンの意見をもとに、マリは頭の中で作戦を立ててみた。
(かなり難しいけどできないことはないわ。でも相手は竜神と同じ能力、長時間戦えば多くの犠牲がでるでしょうね)
蘇生魔法とて絶対ではない。損傷が大きければ復活できないのだ。
(暴竜討伐のとき、わたしの作戦で三人の英雄が帰らぬ人になってしまった。同じ過ちは繰り返さないようにしないと)
「お祖母さま、お母さま。作戦はわたしに任せてください。必ず成功させてみせます!」
「うむ。おぬしにならできるじゃろう」
「ええ、マリアンヌなら大丈夫ですよー」
二人に励まされ、マリは作戦の立案に取りかったのである。
◇*◇*◇
それから一週間後。
竜神宮にある人物がやって来た。それは獅子の顔を持つ王、ナラフだ。
「ナラフ、わたしの依頼を引き受けてくれてありがとう。それで、マレル島の後継者は決まった?」
「ああ、ルナン侯なら島を任せられる。俺の部下にも信頼できる者が多いし、後を託しても大丈夫だ。
―――それはそうと、今回の敵は遺言を残さねばならないほど危険なのか?」
「うん、能力は竜神と同じなの。威力はコマリほどじゃないけど」
マリは詳しく説明する。
「ナラフの役目がいちばん危険だし、嫌なら辞退しても構わないわ」
「俺が抜けたらどうなる?」
「困る」
「次善の策はないのか」
「色々と検討したけど……なかった」
「何だ、話にならんではないか」
ナラフは獅子の顔をゆがめ豪快に笑ったのだ。
マリとナラフが打ち合わせをしていると、ローラが話しかけてきた。
「あのー、ナラフさんは小さなころどこで暮らしていましたー?」
彼女の横にはメイもいる。
「マリの母上さまだな。俺の子供のころに興味があるのか?」
「はい。よければ教えてください」
「もう、千年以上昔の話でよく覚えてない。小さなころは孤児で色々な人のところを転々としていた」
「ライオン丸、という名前に心当たりはありませんかー?」
「うっすらとだが覚えている。俺の恩人がそう呼んでいたような気がするな」
それを聞いたローラは顔を輝かせ、ナラフに抱きついた!
「やっぱりライオン丸ちゃんだったのですねー! こんなに立派になってー」
「わたしも再会できて嬉しいです!」
メイも飛びつき抱きしめる。
突然のことに目をパチクリしていたナラフだが、少しづつ昔を思い出した。
「おお、そうだった! 子供のころだ。殺されそうになったところを美しい女に助けられた。あれはローラさまだったのか」
「いや、それはわしじゃ」
話に加わったのはマリナカリーンだ。
「おぬしが魔族の抗争に巻きこまれ死にかけていたのを、わしが助けた。すっかり忘れておったわ」
「マリリンではないか。どうしてお前が竜神宮にいるのだ?」
「ナラフさん。マリナカリーンはわたしの母ですよー」
それから、ナラフ、マリナカリーン、ローラ、メイの四人で盛り上がった。
「助けたまではよかったが、ローラがおぬしを実験のモルモットにしおったのよ。神聖結晶を与えて金色に輝くのを面白がるものだから、わしが知り合いのところに預けたのじゃ」
「お母さまー、神聖結晶を受けつける魔族は貴重です。わたしはライオン丸ちゃんに期待していたのですよー。それを勝手に里子になんか出して!」
「たわけ! あれほど命で実験するなと言ったであろう。魔族に神聖結晶を使うなど、一歩間違えば死ぬのじゃぞ!」
マリは、その会話を聞きながら笑顔を引きつらせていた。
(ピーが無事に育って本当によかった)
彼女の横では、ナラフも額から冷や汗を流していたのである。
◇*◇*◇
竜神宮には、ナラフの他にも大勢の仲間がやって来た。
魔の森の魔王ベリアル、魔王アザゼル。
神秘の森から、魔王イフリータ。
連合国から、神聖王ヨルムンガンド。
神界の女王、玉藻前。
妖精王オベロンとシルフィ。
マリナカリーンの弟子、アローラ。
それにマリの子分、ウェグ。
「ほぉ、これは豪華な顔ぶれじゃな。アルデシアでもトップの
集まった面々を見てマリナカリーンが微笑んだ。
彼女の横にはファムとハリルもいる。
「ねぇ、ファム」
「何じゃ」
「人間は参加できないんだよね。グレンさんも、ソフィーアさまも不参加だし」
「ベリアルとアザゼルが、どうしても人間に借りを作りたくない、と言うものじゃからな」
「なら、どうして僕とファムは参加するの?」
「はて? そう言われればそうじゃ」
「ハリルさま。それは、ファムが人間扱いされてないからですよ」
説明したのはイフリータだ。
「イフリータさん、確かにファムは人間離れしていますが、僕は違いますよ」
「あら、あら、自覚がないのですね。魔族はハリルさまを仲間だと思っています。わたしも、そんなあなたが好きになったのですから」
イフリータに告白され、ハリルは全身が真っ赤になった。それを見たファムは特大のため息をもらす。
「ハリルよ、ソフィーアにルイスにユーリ、そしてイフリータか。本当におぬしは節操がないの」
ファムがジト目で見ると、彼はバツが悪そうに顔をそむける。
「まぁ、今回だけは大目にみよう。イフリータとは同じパーティーじゃし、喧嘩するわけにもいかん」
「同じパーティー?」
「マリの作戦では、ナラフが防御役を務めることになっておる。あやつは半神半魔で、神聖魔力と闇魔力、二人のヒーラーが必要になるのじゃ。闇魔力の回復をイフリータが担当する」
「それじゃ、もう一人ヒーラーがいるの?」
「はい。神聖魔力はわたしが担当することになりました。初心者ですが、よろしくお願いします」
そう言うのは、ピーを抱きかかえたサラだ。彼女は赤いツインテールを揺らしながら、深々とお辞儀した。
こうして、バフォメットを討伐するパーティーメンバーが揃ったのだ。
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