141話 仲良し三人組の戦略

 神秘の森のゴブリアード王国は順調に発展していた。農耕は想像以上に順調で、秋にはかなりの量の収穫があるはずだ。


 環境が変わったせいか、ゴブリンたちも大きく変化した。大工や鍛冶師のような職人が誕生し、王国の生産力が飛躍的に向上したのだ。また、学校を作り教育まで始めたのである。


「お母さま。正直に言って、ここまで発展するとは思っていませんでした」


「もともと彼らは知能の高い種族ですからねー。今までは劣悪な環境で、持っている力を発揮できなかっただけですよー」


「このまま神秘の森全体に王国を広げたいです」


「そうなれば凄いことになりますねー。この森は広大ですから、数百万匹のゴブリンが楽に暮らしていけるでしょう」


 二人の夢はどんどん広がっていく。マリに抱かれたコマリも、そんな未来を予感しているのか嬉しそうだ。


「ママー、ごぶりんがいっぱい、いっぱい!」


「そうよー、コマリ。これからどんどん増えて素晴らしい王国になるんだから」


「そういえば、マリアンヌー」


「何ですか?」


「気のせいかもしれませんがー、すでにかなり増えてませんか?」


 見渡せば、どこもかしこもゴブリンだらけだ。


「確かにそうですね。この城塞は、十万匹のゴブリンが住めるように設計してあります。今は五万匹ですから、もっと余裕があるはずですが」


 マリとローラが首をかしげていると、サラが大慌てで駆けて来た。


「お姉さま、大変です! 妖精王さまがいらっしゃいました!!」


 二人は驚きつつも、大急ぎでゴブリアード城へ戻ったのだ。




 謁見の間に入ると、オベロンとシルフィが控えていた。応対しているのは玉座に座るゴン、彼の右隣りにはピーがいる。そしてそれを見たコマリは、マリの腕を離れゴンの左に座った。


 マリが様子をながめていと、コマリが厳かな声で話しだした。


「ようせいおう、きょうはごくろうさまでした。ゴンこくおうはやくそくをまもりました。たしかめましたか?」


「はい、竜神さま。オベルの森に住んでいた五万匹のゴブリンですが、すべて退去したのを確認しております」


「かれらはすでにごぶりあーどこくみんとなり、このじょうさいにすんでいます。それで、やくそくはまもってもらえますね」


「もちろんです。神秘の森のダンジョンに結界を張り人間の手から守って差し上げましょう。この王国にも結界を張るつもりです」


 コマリとオベロンの会話がしばらく続き、最後にゴンとオベロンが固い握手をして謁見は終了した。




「妖精王さま! これはどういうことです?」


 部屋から出たオベロンを引き止め、マリは説明を求めた。


「なんだ、聖女は知らなかったのか?」


「さっぱり事情が呑みこめません!」


「では、わたしが説明しましょう」


 シルフィが笑いながら話す。


「ひと月ほど前のことです。竜神さま、ゴン陛下、ピーさまがオベロンさまを訪ねて来られました。そして取引を持ちかけたのです」


 取引の内容は、オベルの森に住むゴブリンを退去させる。その見返りにゴブリアード王国に協力して欲しいというものだ。そして、ゴンはゴブリンを説得し王国に移住させるのに成功した。そういうわけで、今のゴブリアードは十万匹に増えている。


「ゴン陛下が約束を守られたので、オベロンさまも契約を果たしにここを訪れたというわけです」


「これから予が結界を張ってやろう。闇魔力が濃い森なので完璧には働かないが、それでも予の結界だ。十分、目的は達成できるだろう」


「ありがとうございます、妖精王さま!」


 マリは深々と頭を下げた。


「聖女よ。礼を言うなら竜神さまとその臣下たちだろう。彼らの申し出がなければ、予は結界など張るつもりはなかったのだからな」


「はい、そうですね」


 マリは振り返り、コマリ、ゴン、ピーをきつく抱きしめた。


「ありがとう、あなたたち。これでゴブリアード王国は救われたわ!」


 彼女の目に嬉し涙があふれる。


「でも、どうして妖精王さまがゴブリンに手を焼いているとわかったの?」


「マリアンヌ、簡単ですよー。コマリはあなたの心を感じ取れるのですから」


 ローラの言葉を聞きコマリがうなずいた。


「ああ、そうでしたね。本当にそうでした」


 マリのこぼれそうな笑顔を見て、コマリ、ゴン、ピーも笑う。その顔はちょっぴり得意げだった。




 このあとドワーフも王国を訪れた。そして、ダンジョン内に数多くの罠を仕掛けてくれたのだ。


 喜ぶマリだが、ドワーフたちの表情は複雑だ。

 ときおりコマリを怯えた目で見ている。


(あの子はどんな交渉をしたのかしら?)


 心配になる彼女だが、


「結果よければすべてよし!」


 細かいことは気にしないことにしたのである。

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