142話 マリの温泉よもやま話

 妖精王オベロンの張った結界は効果抜群で、数日でダンジョンの周辺から人間がいなくなった。


「あそこは闇魔力が濃いですから結界の効果が落ちます。その点は注意をしてください。ですが、王国に張った結界は大丈夫です。ここは山に近く神聖魔力が豊富にあります。結界の効果が高く、人間に発見されることはないでしょう」


 温泉につかったシルフィが説明してくれる。


「妖精王さまの結界だけでなく、ドワーフもダンジョンに罠を仕掛けてくれました。これで闇結晶は安全です」


「それもこれも、みんなコマリ、ゴン、ピーのおかげですねー」


 一緒に温泉に入っているいるマリとローラは、安堵の吐息をもらす。


「そういえば主役の三人がいませんが」


「彼らは仲良く子供湯に入っています。最近は、わたしといるより三人でいることが多くなりました。親より友達がいい年頃になったのでしょうね」


「大丈夫ですか? 精神年齢は高いですが、ゴン陛下とピーさまはまだ赤ちゃんですよ。溺れたりしません?」


「大丈夫です。サラとミアが見守ってますから」


 安心したのか、シルフィは大きな欠伸をする。


「そういえば、竜神さまはずいぶん大人になられましたね。前にお会いした時は、もっと幼い印象だったのですが」


「シルフィさんにもそう見えますかー? コマリはゴブリアード王国を建国することで、一気に成長したのですよー」


「そうですね、お母さま。ゴブリンとの接触は、あの子にとっていい刺激になったようです」


 ローラもマリも、コマリの成長が嬉しくて仕方ないのか、満面の笑顔だ。


「ゴブリアードは本当に素敵な王国ですね。ゴブリンって汚く荒々しい印象だったのでうが、ここでは違います。嫌な臭いがしませんし、表情も柔和にゅうわで驚きました」


「彼らも温泉が大好きで、毎日お湯につかってますからねー。世俗の垢が落ちると誰もがああなるのですよー」


 ローラが楽しそうに話していると、シルフィがいきなり振り返った!


「そこっ!!」


 そして木桶を投げつけたのだ!


 コ―――ン!!

 それは大きな音を立てて跳ね返った。


「どうしました? シルフィさん!」


「い、いえ……何でもありませんわ。しつけの悪いゴブリンがのぞこうとしていたものですから」


 ホホホ……彼女は笑ってごまかす。


(シルフィさんも、妖精王さまのことで苦労されてるのね)


 ここは武士の情け、マリは素知らぬ顔をすることにしたのだ。



 ◇*◇*◇



 それからしばらくして、ファムとハリルがゴブリアードにやって来た。


「近ごろマリの顔を見ないと思うておったが、こんなことをして遊んでおったのか。温泉を作ってゴブリンを働かせるとは、なかなかいいアイデアじゃな」


 湯につかりファムはごきげんだ。


「温泉のため彼らを集めたわけではありません」


「ハハハ、冗談じゃ。それにしても、十万匹のゴブリンで王国を作ろうなど相変わらず酔狂なことをしおる」


「それなりに苦労しているのですよ」


「わしらを次元の門の監視から呼び戻すほどだ。よほど困っておるのじゃろう」


 マリはこれまでの情報をファムに聞かせた。


「また闇の魔導士会の連中か! 本当に懲りない連中じゃな」


「彼らが何をしようとしているのか、まだわかっていません。しかし闇結晶を狙っているのは確実で、放っておけばゴブリアード王国に仇をなします」


「その前に、彼らの企みを阻止したいのじゃな」


「はい」


「わかった、一緒にスローンへ行ってやろう。わしとハリルは、合成魔王の顔と正体をしっかり見ておる。出会えばすぐにわかるじゃろう」


 そして、ファムは湯から出ようとする。


「もう上がるのですか? もっとゆっくりつかればいいのに」


「女と一緒につかってもつまらん」


「まさか、ファム! ハリルくんと入り直すつもりじゃないでしょうね?」


「マリよ、もういいじゃろう。わしらは婚約者も同然じゃ」


「ダメです! 『婚約者』と『婚約者も同然』ではまったく違います」


「ちぇっ、相変わらず融通が利かんの」


 ぶつくさと文句を言い続ける彼女を見て、マリは頭を抱えるのだった。




 こうして、ゴブリアード王国とダンジョンの安全を確保したマリは、スローン帝国南部で暗躍しているという闇の魔導士会を調査することにした。そして、ファム、ハリルと一緒にサースロンを目指して旅立ったのである。

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