143話 ハリル、エリックに手ほどきを受ける

 スローンは巨大な帝国だ。面積はルーンシア王国の三倍もある。それゆえ統治が難しい国で、内乱が絶えることがない。


 帝国は大きく五つにわけることができる。

 北部オベルランド連合。

 西部ルーンランド連合。

 中央スローン連合。

 東部湾岸連合。

 南部サースランド連合。


 マリたちが訪れたのはサースランド連合の主要都市、サースロンである。




 サースロン城塞に到着すると、彼女はすぐにマリナカリーンと合流した。街の宿屋の一室に、マリ、ファム、ハリル、マリナカリーン、アローラ、エリックが集まったのだ。


「マリアンヌよ、どうしてわしらがサースロンにおるとわかったのじゃ?」


 マリナカリーンがマリを見てたずねた。


「それは知りませんでした。ここに着いたらコマリが、お祖母ばあさまが近くにいる、と言うものですから」


「なるほど。それでコマリはどこじゃ?」


「すぐに神秘の森に戻りました。あの子はゴブリアード王国の建設に夢中になっていて、ひとときも離れたくないのでしょう」


 マリは王国のことを説明する。そして、どうして自分がサースロンを訪れたのかも話したのだ。


「う~む、ゼビウスがそんなことを言っておったのか。確かに、闇の魔導士会の真の狙いは神秘の森の闇結晶かもしれん」


「ですが、お師匠さまー。わたしたちが調べた限り、神秘の森の話はいちども出てないですよー」


「確かにそうじゃな」


 アローラとマリナカリーンは首をかしげる。


「お祖母さまは、どういった理由で闇の魔導士会を調べているのですか?」


「それはー、わたしがお話ししましょう」


 アローラが話しだす。


「サースロンは闇結晶の集積地で、神秘の森で採掘されたあとここに集められます。そしてー、アルデシア中に出荷されるのです。しかし、奇妙な現象が起きるようになりましたー」


「奇妙な?」


 マリが聞き直す。


「ええ。闇結晶がアルデシア各地からここを目指して逆流しはじめたのですよー。かなりの量がサースロンに集まっています」


「アロルンの話したとおりなのじゃ。それで原因を調べたのじゃが、どうやらサースロン侯はクーデターを企てているらしい。そのために、闇結晶を使った高性能魔導杖を大量生産しておるという噂なのじゃ」


 それを聞いたマリは、おおよそを理解したのか大きくうなずいた。


「闇結晶を使った高性能魔導杖を作れるところは二つしかありません。魔術師協会と闇の魔導士会です。それで、お祖母さまは彼らを調べていたのですね」


「そうなんじゃが、少し奇妙での。いくら調べても奴らの姿が見えてこぬ。気配断ち結界を使いサースロン候の屋敷まで調べたが、闇の魔導士会のメンバーらしき人物は確認できなかった」


 マリナカリーンはため息をもらした。


「しかし収穫がなかったわけじゃない」


 代わりに話すのはエリックだ。


「サースロン侯が、北にあるサイノス軍事基地に生産した魔導杖を保管している、という情報をつかんだ」


「うむ。もし、それが本当ならかなり厳重に守っておろうな。その中に合成魔王がおるやもしれん。わしとハリルなら奴らの顔を知っておるし、調べれば何かわかるじゃろう」


 ファムの言葉にハリルもうなずく。そして二人で席を立ち、軍事基地へ向かう準備を始めた。


「ファム、その子も連れて行く気か? 合成魔王がいるなら危険だろう」


「ふふ……エリックよ。聖女の騎士を引退してもうろくしたか? ハリルの力量を見抜けぬとは、よほど力を落としておるようじゃ」


 ファムの挑発にエリックも黙っていない。それなら、ということでエリックとハリルの試合が行われることになったのだ。




 城塞から少し離れた草原で、エリックとハリルは向かい合った。


「ハリルくん。言っておくが、俺はファムより強いからな。そのつもりでかかって来るんだ」


「わかりました、エリックさん」


 魔導刀サンスイを構えるハリルは嬉しそうだ。伝説にまでなった元祖、聖女の騎士と手合わせできる。剣士としてこんな機会はないだろう。


「まずは小手調べといくか」


 エリックはスラッシュを放った。神聖魔力が巻き起こす衝撃波がハリルに迫っていく―――しかし、彼はそれを魔導刀が放つ衝撃波で相殺そうさいしたのだ。


 いや、相殺ではなかった! 

 エリックの衝撃波を飲み込み、そのまま彼に襲いかかったのである!!


「こっ、これは!?」


 エリックは紙一重でかわすが、彼の服はズタボロに切り裂かれてしまう。


「おぉ、これは凄いのぉ!」


「そうですねー、お師匠さま。ファムが嬉しそうに自慢するわけです」


 マリナカリーンとアローラは、ニタニタしながら勝負の行方を見守っている。


「二人とも、もういいでしょう! エリックもハリルくんの実力がわかったんだから引きなさい!!」


 だがもう収まらなかった。二人は口の端をつり上げ獰猛な笑みを浮かべている。


(ソフィもそうだけど、どうして剣士って戦闘狂ばかりなのかしら!)


 マリはふーっとため息をつき、止めるのをあきらめたのだ。




 勝負は一時間ほど続き、最後は体力切れでハリルがギブアップした。


「はぁ、はぁ、はぁ……やっぱり伝説の聖女の騎士って凄いや。僕は本気なのに、ずいぶん手を抜かれちゃった」


「それがわかるのなら大したものだ。さっきは『くん』付けして済まなかったな。これからはハリルと呼ばせてもらう」


「光栄です、エリックさん」


 握手をする二人にマリが近寄る。


「どう、エリック? ハリルくんは凄いでしょう。合成魔王のゼバルでさえ一撃で倒したのよ」


「確かに、この腕前なら下級の魔王は瞬殺だな。だが、まだまだ隙が多い。そこをどうにかしないと上位魔王には勝てないぞ」


「な~に、そこはわしがカバーするから心配無用じゃ。二人で組めばアルデシアに敵などおらん! はっはっはっ」


 ファムは高笑いする。


「ファムは昔から変わっておらんの。まったくもって不詳の弟子じゃ」


「本当ですねー、お師匠さま。姉弟子として恥ずかしいです」


 マリナカリーンとアローラは、仲よくため息をもらすのだった。




 こうして、マリたち六人はサイノス軍事基地へ向かった。このとき彼らは、待ち受ける意外な展開にまだ気がついてなかったのだ。

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