155話 ルーンランドの白いゴーレム!
成人式で、ハリルは結婚を賭けてファムと試合をした。結果はファムの勝ちで結婚は成立しなかったが、一年後に再試合することになったのだ。
翌日になり、マリとファムはその話題で盛り上がっていた。
「それにしても、ハリルくんがファムを愛していたなんて驚いたわ。わたしはてっきり、あなたが一方的に言い寄ってるだけかと思ってた」
「わしも、ハリルの方からプロポーズしてきたときは信じられなかったわ。
―――というか、今でも信じられぬ」
「それは間違いないんじゃない。冗談でそんなことを言う子じゃないし」
それを聞き、ファムは嬉しそうにデレる。
「でも、どうして試合に勝っちゃったのよ。負ければ今日にも結婚できたのに」
「マリはずいぶん積極的じゃな。以前はエッチ厳禁だと言っておったじゃろう」
「相思相愛って知ってたら、あんなに厳しく言わないって。
そうだ、今からでも遅くないから試合して負けたら? わたしが立会人になってあげる」
しかしファムは首を振った。
「いや、まだ早い。今のまま試合したら、わしが勝つに決まっておる」
「正々堂々と勝負して負けたいってこと? そこまで拘らなくてもいいじゃない」
「ふふふ、剣士でない者にはわからんよ。あやつはわしを超え、エリックを超え、アルデシア最強になる。わしはそんな男に抱かれたいのじゃ」
「強くなったハリルくんと結婚したいのね」
「そうじゃ。初めは可愛ければいいと思っておったが、欲が出てきた。ハリルはいい男になるじゃろう。そのためなら二年でも三年でも、わしは待つ!」
マリは苦笑いした。いい話に聞こえるが、内容は強い男と××××したいという下品な話だ。
「そういう理由なら仕方ないけど、ファムとハリルくんが結婚して、二人で聖竜騎士団に入ればいいのにって思ったのよ。そうすれば、フェリスに頼んで王国貴族にしてあげられるし館だってもらえるわ。そこで一緒に暮らせばいいじゃない」
「貴族の身分に興味はない。それに、わしは聖女の五英雄の一人じゃ。そんなのが入団したら、団長のグレンや副長のソフィーアがやり難いじゃろう。ハリルにしても、若いうちから贅沢するのは感心せぬしな」
それを聞いたマリは満足気に微笑んだ。
「どうした? ニヤニヤして気持ち悪い」
「いえ、ファムはやっぱり偉いなと思ってね。あなたがいてくれるおかげで本当に助かる。これからもハリルくんのことをお願い」
「そうやって口先で人を丸め込むところは、昔からちっとも変わらんな。ウェグも嘆いていたぞ。いつの間にか子分にされておったと」
それを聞いてマリは笑い転げた。そんな彼女を見てファムも笑ったのだ。
ファムは、暇のあいさつをして竜神宮を後にした。すると、入れ違いで別の来客があったのだ。出迎えてみればウェグである。
「噂をすれば何とやらね。たった今、ファムとあなたの話しをしてたのよ。それで何か用? ずいぶん慌ててるようだけど」
マリがウェグを見れば、珍しく汗をかき肩で息をしている。
「いや。緊急ってほどでもないが、マリにはすぐ知らせた方がいいと思ってな」
「うん。それでなに?」
「ゴーレムが現れたんだ」
「ゴーレムなら、わたしと竜王さまが神秘の森のダンジョンに配備したわよ。あなたも知ってるでしょう」
「違う、それじゃない! 出現したの白いゴーレムで、場所はスローン帝国だ」
それからウェグに詳しい話を聞き、マリは驚いたのである。
◇*◇*◇
スローン帝国は五つの地域に分かれていて、ホワイトゴーレムが出現したのは帝国の西、ルーン山脈のふもとに広がる西部ルーンランド連合だ。そこの主要都市ルーランは、首都スローニアに並ぶ巨大城塞都市である。
数日後、マリはウェグの瞬間移動を使ってルーラン城を訪れた。前もって来訪を伝えてあり、城内では歓迎準備が整っていた。
「捧げ―――っ、剣!!」
騎士団長の号令で、騎士たちがいっせいに奉剣して二人を出迎える。
「凄いな、国賓としての扱いだ」
「ウェグ。あなたは正式にわたしの子分になったのだから、こういう式に出席すことが増えるわ。ちゃんと礼儀作法を覚えなさいよ」
「わかっている。ナラフに教えてもらい一通りの作法は身につけた」
ウェグは聖騎士の正装をしていて、以前のような冒険者の格好ではない。
「馬子にも衣装って言うけど、似合ってるわ」
彼は神族でウェアウルフの族長だ。まとうオーラが常人と違う。他の騎士と比べてもダントツで目立っていて、従えるマリも鼻が高い。
「これでもう少し目つきがよかったら、最高の聖騎士になれるのだけどね」
「ほっとけ!」
プイ、とそっぽを向いたウェグの横顔を、彼女は嬉しそうに見つめるのだった。
マリが入城するとすぐに謁見の間に通された。そこにいたのは金髪に青い瞳の美しい少年で、名前はアムル・ルリウス・ド・ルーラン。彼が現在の領主で、ルーンランド連合の盟主である。
「聖女さま、ようこそいらっしゃいました」
「お初にお目にかかります、盟主閣下」
互いに挨拶をすませると、話題はすぐにゴーレムのことになった。
「最初にホワイトゴーレムが発掘されたのは、今から一か月ほど前のことです」
「発掘された?」
「そうです。ルーン山脈で山崩れがあり、遺跡が現れました。そしてそこにゴーレムが保管されていたのです」
まだ少年のルーラン侯アムルが話す。
「興味を持った私は視察に行きました。遺跡の白いゴーレムを見て、部下に『動かないの?』と聞いたときです」
「いきなり動きだしたのですね」
「はい。あのときは本当に驚きました」
ゴーレムは誰でも動かせるものではない。命令は魔力を介して伝えられるため、高い魔力を持ってないと動かせないのだ。
「閣下、失礼します」
マリは断り、アナライズを使ってアムルの魔力を調べた。
「かなりの魔力をお持ちですね。ゴーレムはそれに反応して動いたのでしょう。閣下の他にゴーレムを動かせる者は?」
「私の他には誰もいません」
マリはアムルと一緒に城の広場へ行き、実際に動いているゴーレムを見た。それは人間サイズのホワイトゴーレムだ。
花壇の草をむしっているゴーレムに向かい、彼女は命じてみる。
「作業を止めなさい」
だが命令は無視された。
「花壇の世話はもういいから、次は植木の手入れをしてくれないか」
アムルの声を聞くと、ゴーレムは一礼して納屋へ向かって歩き出した。植木バサミを取りに行くのだろう。
「素晴らしいですね。このゴーレムは複雑な命令を理解して動いています」
「ええ、人間と同じように働いてくれます」
白いゴーレムの背中を見送りながら、アムルは嬉しそうに笑ったのだ。
二人は部屋に戻り会談を続けた。
「発掘されたゴーレムは四種類です。先ほどお見せした人間サイズの小型、背丈が三メートルの中型、五メートルの大型、十メートルの超大型。百体づついて、すべて私の命令で動きます」
「全部で四百体ですか。それだけの数のゴーレムがあれば、国を亡ぼすこともできるでしょう。それは理解されていますか?」
「はい。中央政府の使者にも同じことを言われました。そして、すべてのゴーレムを引き渡すよう皇帝陛下に命令されています」
ゴーレムの戦闘力は脅威だ。政府としても見過ごすわけにはいかない。
「陛下には『ゴーレムを戦争に使わないと誓約する』と申し入れたのですが、聞き入れてもらえませんでした」
「それで、閣下はどうするおつもりです?」
この質問にアムルは黙り込んだ。
「……わかりません」
長い沈黙のあとの哀し気な言葉を聞き、マリも深くうなだれたのである。
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