85話 リザードル襲来!(前編)

 城壁の上から辺りを見渡せば、信じられない数のリザードルに包囲されている。完全に袋のネズミだ。


「くそっ、リザードルの間隔が広い。これでは、炸裂魔法一発で一匹しか仕留められん」


「お師匠さま、前の襲撃で学習されましたね。知恵がかなり回るようです」


 マリリンは素早く計算する。炸裂魔法を撃てるのは七人、頑張れば一人五十発近く撃てる。三百匹は仕留められるだろう。


「エリック、ナラフ、ウェグ、お前たちは何匹狩れる?」


「せいぜい五十匹だ!」


「俺なら時間をかければ百匹は行ける」


「エリックもナラフも凄いな。こいつらはここへ来る途中、廃墟で出会ったモンスターだろう。エスタラルド・レプリカがあっても二十匹が限界だ」


 そう言いつつ、ウェグは別のことを考える。


(俺がウェアウルフに戻れば五十匹は……いや、神体は見せるなとマリに言われている。俺の正体を知られるわけにはいかん)


「私にもやらせてよ! 十匹くらいなら狩ってみせる!」


 発言したのはソフィだ。しかし、徹夜で練習していたのか体はボロボロだ。それを見たルリがかけ寄りヒールをかけた。


「ありがとう、ルリ。体調が戻ったわ」


「礼ならあとだよ。それよりステータス上昇魔法を使う許可を。ソフィが聖竜騎士団の副長だからね」


 ソフィがうなずくと、ルリはみなに話す。


「今からある魔法を使う! これは国家機密で公にできない魔法だけど、こんな状況だ、使わざるを得ない。できたら秘密にして欲しい」


 そして、彼女は全員に魔法をかけたのだ。


「この魔法で能力は六倍くらい上がるけど、実戦では三倍程度に考えておくれ」


「ステータス上昇魔法か! 懐かしいな。昔は聖女にかけてもらっていたものだ。これならかなりの数を狩れる!」


「だが、これでも千匹のリザードルはキツイぞ」


 ウェグの表情は相変わらず厳しい。


「いや、チャンスはある。あの丘を見ろ!」


 ナラフが指さした丘には、大きなリザードルが他のリザードルを従えるように立っていた。


「なるほど、あいつが族長か。あいつを狩れば戦闘が終わる」


「よしっ、作戦を決めた! ウェグ、おぬしの足がいちばん速い。速攻をかけて族長を刈り取れ! エリック、おぬしも足が速い。ウェグの支援だ。魔術師隊は城壁から一発必中で敵を減らす」


「マリリン、わたしは?」


「おぬしは城塞へ侵入したリザードルを狩れ。それも大事な役目だ、よいな!」


 ソフィは唇を噛みしめる。言葉を飾っても居残りは居残りだ。


「いや、ソフィは俺について来てもらう。俺が防御役でこいつが攻撃役をすれば効率がいい」


「そうか。獅子王の言葉じゃ、従おう」


「あたいもナラフと一緒に行くよ! 現代魔術は魔力が減ったときこそ威力を発揮するからね。城壁から撃つより役に立てる」


「わかった、ルリルリ。友の申し出、反対する理由もない」


「感謝するよ、マリリン」


「さぁ、準備は整った! 闘いの始まりじゃ!!」




 マリリンの叫びと共に、炸裂魔法が轟音を立てた! ウェグとエリックがリザードルの族長目がけて突進する。ナラフ、ソフィ、ルリの三人も城壁から飛び降り、リザードルの群れに突っ込んで行った!


 グゥオオォォォ―――ォオオッ!!


 ナラフの雄叫おたけびが戦場に響き渡った! すると、周囲にいたリザードルは目の色を変えて彼に向かい突進して来る。その数は軽く数十に達していたのだ。


 ナラフは盾を構え懸命に耐える。そんな中、リザードルの一匹が破裂したかと思うと、二匹、三匹と木っ端みじんに粉砕された。ルリが放つ至近距離からの炸裂魔法だ。これだけ撃っても、現代魔術なら魔力の消耗が少ない。


「内部破壊に目的を絞り、魔力消費を抑えながら炸裂魔法を使っておるのか。なかなか器用じゃな。まぁ、わしの好みではないが。炸裂魔法は大爆発させてこそ華よ!」


 マリリンは、高笑いながら炸裂魔法を撃ちまくる。一発で一匹を仕留めようと考えていたが、ナラフ、ソフィ、ルリが暴れだすとリザードルの隊列が乱れた。固まった瞬間を狙い、一発で数匹を倒していく。


 それを見ていた彼女の弟子たちも、それに倣い数匹単位でリザードルを処理し始めたのだ。


「さすが、わが弟子たちじゃ。戦いの感がいい。これならギリギリ行けるかもしれんな。しかしソフィは苦戦しておるの。やはり、いまの腕じゃとリザードル相手は荷が重いか」


 マリリンの指摘通り、ソフィは苦戦していた。それでも、ナラフが敵を引きつけているから何とかなっているのだ。もし彼がいなかったら、一匹すら狩れるかどうかわからない。そんな自分の非力さに涙が出てくる。




 ―――戦闘が始まり一時間が経った。ウェグとエリックは、リザードルの抵抗が激しく思ったように族長に近づけていない。


 ナラフは相変わらずタフだが、ルリはもうほとんど魔力が残っていないようだ。ときどき魔法が不発になることがある。それが魔術師の限界近くだとソフィも知っていた。そして、何度目かの魔法が不発に終わったとき、ルリは意識を失い膝から崩れ落ちるように倒れたのだ。


「ルリ――――――っ!!」


 ソフィはかけ寄るが、それより速くナラフがおおいかぶさりルリを守った!


 彼女は狂ったようにリザードルを切りつける。しかし威力がまるで足りない。それどころか、ナラフがルリの守りに入ったため、リザードルの攻撃が彼女自身にも向けられだした。


 それを回避防御でいなすソフィだが、それも間に合わなくなっている。数が多すぎるのだ。そしてリザードルの一撃が彼女を捉えた瞬間、不覚にも目を閉じてしまったのだ!


 ―――しかし、来るはずの攻撃がいつまで経ってもやって来ない。恐る恐る目を開けるとそこにはいたのだ。四メートルの身の丈を誇る一つ目の巨人が!


「ガルガンティス!!」


「やっと目が覚めたか聖女の騎士よ! しかし、その様は見ておれんな」


 彼は笑いながら、巨大な棍棒こんぼうでリザードルをなぎ倒して行く。


「ナラフ、ここは俺が引き受ける。その女を城塞に連れていけ!」


「すまん! 誰かは知らんが感謝する。この女を安全な場所まで連れて行けば必ず戻ってくるからな」


「王の言葉だ信じよう!」


 ナラフは、ルリを担ぐと羽を生やし城塞に向けて飛び去った。


「さて、ソフィよ。お前は本当に聖女の騎士なのか? 堂々とそうだと答えられるのか? もし、答えられるならこの剣を使って見せろ!」


 ガルガンティスは、一本の剣をソフィに投げて寄こした。


「これって!」


 彼女が抜刀すると、刃は白銀の光りを放っている。見間違えようがない。この剣こそオリジナルの聖剣エスタラルドだ!


「聖女の騎士ならその剣を持って戦え!」


 彼女は唇を噛みしめ、聖剣エスタラルドを握りリザードルの群れに飛び込んだ。しかし、レプリカより威力はあるが苦戦している状況に変化がない。


「くっ! やはり、今のわたしでは使いこなせないのか」


 やがて決心したのか、ソフィはその剣を携えてエリックの元へ駆けだした。彼ならこの剣を使いこなせる、そう信じるのだ。

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