122話 魔の森の自衛隊
次元の門が武蔵野に出現してから二か月経とうとしている。突如現れた異世界への入り口に、日本中、いや世界中が騒然としていた。すぐに先遣隊が組織され調査が始まったのだ。
その結果、重大な事実がわかった。異世界では爆発が起きない。火薬や燃料をはじめ、あらゆる物質が急激な反応を示さなくなる。自衛隊の戦車が動かなくなり、銃器が使えなかったのもこのためだ。かろうじて使えるのが電気で、自衛隊は電動機械を使い魔の森に基地を作ることに成功した。
◇*◇*◇
深夜、月明かりに照らされながら二人の人物が魔の森を歩いていた。彼らの行く手には自衛隊基地がある。
「レスリーさん、柵には近づかないでください。強力な雷撃魔法を発生させます。何匹ものモンスターが魔法で倒されました」
「それは電気というものです。マリアンヌから聞きました。陣地の中がとても明るいでしょう。それも電気を使っているのだとか」
話しているのはレスリーとハリルで、次元の門を監視するためマリが派遣したのだ。
「門は安定していますね。暴走する危険はないでしょう」
基地の中にある次元の門を注意深く観察し、レスリーが言う。
「でも不思議ですね。魔法を使う時は必ず術者がいます。ここには誰もいないのに、どうして門は消えないのですか?」
ハリルが首をかしげながらたずねた。
「竜の民が開発した画期的な魔法技術で、固定魔法というものです。出現した門が周囲の魔力を自動的に取り込み存在し続けます」
「凄いですね」
「凄いですよ、竜の民の魔法技術は。興味があればハリルに教えましょう。ユーリも学んでいますし、あなたが一緒だと彼も喜ぶ」
二人が調査していると、サーチライトの光が魔の森を照らしだした。
「視聴者の皆さま! これが初公開される異世界の森です」
魔の森の様子がTV中継されはじめ、マリは日本の家族と一緒にその放送を見ていた。
「高圧電流柵には、数体のモンスターの死骸が放置されたままになっています」
TVカメラが周囲の景色を映し出す。そして、それを見ていた彼女は「あっ!」と叫んでしまった。そこには、レスリーとハリルの姿がはっきりと映っていたのだ。
「えっ? はい、はい。ですが、そんな人物などいません」
画面の中のレポーターが、慌ただしくスタジオと連絡を取りだした。
「カメラさーん! 基地の外に人がいるのが確認できますか?」
「いえ、いないと思います」
「現地では確認できませんが……えっ、スタジオのモニターに映ってる?」
現地のTVクルーが必死になって周辺を探す。
「わかりました! 先ほどまで気がつきませんでしたが、間違いなく二人の人物が柵の向こう側に立っています!!」
レスリーとハリルは気配断ち結界を使っている。結界は魔力の中にいる者の認識を狂わせ存在を隠す。それはカメラ越しに見ても同じだが、スタジオにいるスタッフの周囲には魔力がない。それにたとえ魔力の中にいても、指摘され注意深く見れば結界は効果を失ってしまうのだ。
「民間人の保護! 急げ!!」
基地の門が開き自衛隊員が飛び出して来た。
ハリルが魔導刀に手をかける。
「ハリル! 戦ってはダメです」
「ですが!」
「見つかってしまったものは仕方ありません。彼らに従いましょう。マリアンヌの話では好戦的な集団ではないそうですから」
こうして、レスリーとハリルは基地の中へ入って行ったのだ。
◇*◇*◇
二人が保護された翌朝、マリは基地を訪れた。
「自衛隊の方に告げます! わたしは、この地に住む者でマリアンヌといいます。お話があって参りました」
彼女は入場門の前に立ち大声で叫ぶ。しばらくすると隊長と
「私は異空間調査隊の隊長、秋山3等陸佐であります。そこはたいへん危険なので基地の中へお入り願えますか」
マリはうなずき門の中に入る。
「失礼ですが、この世界の住民の方だと報告を受けました。間違いないですか?」
「はい、間違いありません」
「ここに来られた理由を教えて欲しいのですが」
「昨夜、この地の者が二名、自衛隊に連行されたそうです。引き渡してもらいたく参上しました」
「確かに二人の身柄を預かっています。ですが、事情がわからないまま引渡しできません」
「もっともです。どうしたらいいでしょう?」
「事情を伺ったあと上司に報告し、許可が下りれば引き渡せます」
「わかりました」
このあと、彼女は本部施設にある隊長室に案内された。そこで、秋山三佐との会談が行われたのだ。
隊長室といっても急造されたものらしく、プレハブの粗末な部屋だ。マリは応接用のソファに座り、対面に秋山が腰を下ろした。
「マリアンヌさん。昨夜、部下が日本の民間人と勘違いして現地の住民を二名、保護してしまいました。謝罪しましょう。この会談が終わればお返しします」
それを聞き、マリは胸をなでおろす。
「それで、お聞きしたことが山のようにあるのですが、構いませんか?」
「ええ、そのつもりで来ましたから」
秋山は微笑み、そして話しだした。
「あなたは日本語が上手ですし自衛隊のことも知っておられた。どこで学ばれたのです?」
「信じられないと思いますが、わたしの魂の半分は日本からやって来ました。とある日本人の魂が、わたしの体に入っています」
彼女は本当のことを話すことにした。下手に嘘をついてそれがバレたら、二つの世界の信頼関係が損なわれてしまう。
「あなたもそうでしたか」
秋山の意外な反応に、マリは首をかしげた。
「あなたも……とは?」
「そうですね、マリアンヌさんは正直に話してくれました。その誠意に応え、こちらも事実を伝えましょう」
秋山が電話で指示すると、三分後、レスリーとハリルが部屋へ入ってきた。それともう一人、若い自衛官が一緒だ。
「再会の挨拶はあとにしてもらうとして、まずは紹介しましょう。この自衛官は私の副官で倉田二尉といいます」
紹介された人物は敬礼し、挨拶した。
「初めまして、倉田2等陸尉です」
それを聞き、マリは思わずソファから立ち上がった。彼女が驚いたのも当然で、彼の言葉はアルデシア語だったのだ!
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