120話 出現した武蔵野ゲート
秩父の事件から数日経った。
ゴールドドラゴンの話題はまだ続いていて、コマリはすっかり人気者だ。花火を見て「ふぁつ!」と驚く彼女のイラストがネット中にあふれている。
その日の朝も、TVにコマリの映像が映し出されていた。
「コマリちゃんはすっかり有名人ね!」
マリの母、御堂ユリは、コタツに入り楽しそうに笑った。彼女の膝の上にはコマリがいて、これまた素晴らしくゴキゲンだ。
「お母さん、あまりコマリを持ち上げないでちょうだい。この子は褒めると調子に乗って、ところ構わず竜体に戻ろうとするから」
「いいじゃない、竜になっても。コマリちゃんの
「おばーちゃん。コマリ、いいりゅう?」
「そうよ~、とっても良い竜なんだから」
無邪気に笑う母とコマリは本当に幸せそうだ。
「ねぇ、お母さん」
「なに?」
「コマリを可愛がってくれて、ありがとう」
「マリの娘なら孫も同然じゃない。そりゃ可愛いわよ」
「信じてくれるんだ。わたしがマリだって」
母のユリは、しばらく考えたあと話した。
「最初に会ったとき、仕草や表情を見てすぐにマリだとわかったわ。それに感じるのよ。マリもコマリも魂が繋がってる、って。
―――変よね。今まで魂なんて信じたことなかったのに」
その言葉を聞いたマリは、母にかけ寄りきつく抱きしめる。
その時だった!
ピンポン、ピンポン!
けたたましい音がTVから発せられた!!
「臨時ニュースをお伝えします! 本日未明、入間市で空間の裂け目が発見されました! 現在、日本政府が調査をしています」
そしてニュース特番がはじまる。
「武蔵野の田中さ~ん。レポートして下さい」
「はい、はーい。わたしがいるのは、最初にゴールドドラゴンが目撃された場所のすぐ近くです。ここに異空間に通じる穴、ゲートが現れました!」
TV画面に、直径百メートルはありそうな巨大な次元の門が映し出された!
それを見たマリの顔が引きつる。
「コマリ、あの門はあなたが開けたの?」
「ちがうー。コマリがあけたのは、にかいにあるちいさいのだけー」
「じゃあ、いったい誰が?」
マリが茫然としていると画面が切り替わった。それは、カラカラキュルキュルと音を立てトレーラーから降りる戦車の映像だ。
「あ、たったいま、自衛隊の戦車中隊十三両が到着しました! ゴールドドラゴンのこともあり、政府は門の中を調査するようです」
戦車が門をくぐって行く。
「大変だわ、急いでアルデシアに戻らないと! でも、どこで次元の門を開けたのだろう? それがわからないと手の打ちようがない」
次元の門は、アルデシアのどこから開けても武蔵野につながってしまう。TVに映っている門がどこにつながっているかわからないのだ。
「お母さん、急用ができたの! いちどアルデシアに戻るね」
そう言い残し、コマリを連れて家の外へ出る。そして、気配断ち結界を使いコマリを竜体に戻した。
「コマリ、さっき見た門がわかる? あの中へ入ってちょうだい」
コマリはマリを乗せ大空に羽ばたいたのだ。
二人が次元の門の上空に到着すると、人々が騒ぎはじめた。
「大変です! ゲートの上空に、あのゴールドドラゴンが現れました!!」
数多くのTVカメラが、飛行する黄金の竜を一斉に捉える。
「しまった! ここには魔力がないから気配断ち結界が上手く働いてないんだわ。コマリが発生させる魔力だけじゃ足りていない」
自衛隊に目をやれば、彼らはゲートの中に注目していて、マリたちを攻撃できる態勢になってない。
「コマリ、今の内よ。門へ飛び込みなさい!」
竜は急降下するとそのまま門を通過した。そして次の瞬間、コマリはアルデシアの大空を舞っていたのだ。
「ここは魔の森の上空ね。北西に世界樹がある」
マリは、現在位置を確認し自衛隊の戦車を探した。幸いほとんど前進しておらず、門の近くで停止しているのが確認できる。
「変ね? 用心してるのはわかるけど動いてなさすぎるわ」
上空を旋回しながら様子を見ていると、モンスターが現れ戦車を取り囲んだ。しかし、自衛隊はまったく反撃しようとしない。それどころか、隊員が戦車から飛び降り門に向かって走りだした。
「助けてあげなさい!」
コマリのレーザーブレスが上空からモンスターを襲う。こうして自衛隊員は無事に退却したのである。
◇*◇*◇
「異空間に侵入したら森の中でした」
「森ですか?」
「はい、うっそうとした大森林が広がっていたのです。そして、すぐに戦車のエンジンが異常を起こしました。それも全車一斉に」
「エンジントラブルですか……原因は?」
「わかりません。何というか、燃料が爆発していない感じなのです。
―――そうしていると、異形の生物が我々を攻撃してきました。反撃しようとしたのですが、火器が使用できないのです」
「戦車砲も機銃も使えなかった?」
「そうです。それに気がついた中隊は戦車を放棄、隊列を組んで撤退しました」
「危険な生物がいたのによく無事でしたね」
「もうダメかと思いましたが、あのゴールドドラゴンが現れモンスターを一掃してくれました。それがなければ無事に帰還できなかったでしょう」
「ゴールドドラゴンに助けられたと?」
「ええ。しかし結果的にそうなっただけで、あの竜が我々の味方とは限りません。仮に発見しても絶対に近寄らないでください」
◇*◇*◇
マリはいったん聖都へ行き、そこから武蔵野の自宅に戻った。TVは、まだ次元の門を映し出している。
「はーい、武蔵野ゲートにいる田中です。レポートでもお伝えしましたが、異世界では車両や銃器が使えない可能性があるそうです。現在、ゲートにはバリケードが張られ、門から出ようとする危険生物を自衛隊が駆除しています。こちらの世界では銃器が使えますから、住民の安全に問題はありません」
TVを見ていた守がマリを振り返る。
「そんな目で見ないでよ、お兄ちゃん。わたしだって懸命に対応してるんだから」
「門を閉じることはできないのか?」
「コマリがやってみたけどダメだった。強引に閉じようとすれば暴走しかねないし、門を開けた術者に閉じてもらうしかないの」
次元の門は膨大な魔力を使っている。下手に扱い暴走すれば、アルデシアだけでなく日本にも被害が出かねない。
「難しいんだな―――ということは、ゲートはしばらくこのままか」
「残念だけど」
マリはそう言ってため息をついた。
(コマリでなければ、いったい誰が次元の門を開けたのだろう?)
そして何度も首を捻るのだった。
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