129話 魔王オセ vs 魔王ベリアル!

 レーザーブレスが降り注ぐ城内を、ナラフに率いられた討伐隊が疾走していた。コマリの活躍のおかげで、彼らの行く手を遮る敵は一人もいない。


「ファム、これなら楽に進めるね」


「楽なのはよいが、オセやバフォメットも逃げておるやもしれん」


「その点は大丈夫だろう。コマリが見逃すはずがないからな」


「ナラフよ、オセは瞬間移動を使う。たとえコマリでも追跡は不可能じゃ」


「いや、奴はまだ城内にいる!」


「兄さまの言うとおりです。瞬間移動は大量の魔力を使いますから、必ず痕跡が残ります。彼らはまだ動いていません」


 二体のベリアルの説明を聞きながら、討伐隊は走り続けたのだ。




 タナトス城の王の間では、バフォメットが悠然と玉座に座っていた。その横にオセが憔悴しょうすいした顔で立っている。


「やはり雑魚ざこは使えないな。こうもあっさり逃亡するとは」


「いや、この状況では仕方あるまい。俺ですら竜神の力に度肝を抜かれたほどだ」


 降り注ぐブレスの軌跡を見ながら、オセはため息をついた。


「甘く見すぎていた」


「フフフ、俺たちの野望もこれでついえたわけだ」


「余裕だな、お前は」


「竜神は俺を滅ぼせないからな。今は負けるとしても、勝てるようになるまで何千年でも待つさ」


「それもそうか。お前の中にある竜の力はこれから大きく成長する。機会を得れば竜神を倒すことができるかもしれん。

 ―――そうと決まれば、さっさとこの城から退散するとしよう」


「いや、その前にやらねばなぬことがある」


「何だ、それは?」


「ここへ向かっている連中の気配にいささか覚えがあってな。因縁のある連中で、少しばかり挨拶したいのよ」


 バフォメットの言葉が終わらぬうちに、扉が破壊され七つの人影が部屋に飛び込んで来た。


「バフォメット、ルーシーでは世話になったな。その礼を言いに来たぞ!」


 ファムが一気に突進する。


「そんな連中など放っておけ! 逃げるぞ!!」


「いいや、俺は残る! 計画を潰された腹いせもあるし、こいつらを殺さんと気が収まらん!!」


「くそっ、もう知らん! 俺は先に行く」


 そして、オセが部屋から消え去ったのだ。


「逃がしませんわ!」


 続いて、姉さまと呼ばれるベリアルの姿もかき消えたのである。



 ◇*◇*◇



 オセが瞬間移動した先は山頂だった。


「ふぅ、慌てて飛んだからずいぶん遠くまで来てしまった。これなら竜神でも追って来れないだろう」


「さぁ、それはどうかしら」


 彼が後ろを振り向くと、そこにいたのは黒髪の女魔族である。


「どうやって追跡した?」


「そうね、死にゆく土産みやげに教えてあげましょう。瞬間移動を使うと空間に跡が残るの、それを追ったわ」


「なるほど、そんな欠点があるとは知らなかった。これから瞬間移動したときは、すぐにその場から離れるとしよう」


 そう言いつつ、オセは背中に担いだ二本の長剣をスラリと抜いた。


「教えてくれたのにすまないが、お前には死んでもらう」


「あら、あなた強いのかしら?」


「ああ。サタンには及ばんが、それに近い力はあるつもりだ」


「そうか、それは楽しみだな」


 別の声にオセが驚いて振り返ると、そこにいたのは黒髪の男の魔族だ。


「くそっ、瞬間移動できる奴が二人もいたのか!」


「兄さま、二人ですって!」


 女魔族はよほど可笑しかったのか、声を立てて笑いだした。


「姉さま、仕方ないでしょう。こいつは私たちのことを知らないようです」


 男の魔族も笑いはじめる。


「そこの無知な魔族に教えてあげましょう。私たちは二体で一人ですのよ」


「二体で一人?……ま、まさかお前は!」


「ようやくわかったようだね。そう、私たちはベリアル」


 相手の正体を知ってオセは焦る。そして、最大魔力で再びジャンプしたのだ。




 オセが着いたのはアルデシアでなかった。どこかもわからない薄暗い場所で、黒い地面が果てしなく続いている。


「ここはどこだ? スローン帝国へ飛んだはずなのだが」


 そして三度目の瞬間移動をするが、そこから移動することができないのだ。


「ふふふ、落とし穴にかかりましたね」


「落とし穴だと?」


「そう、そこは次元の迷路さ。お前が飛ぶのを予想してあらかじめ開けておいた」


「あなたも聖女も誤解してますが、わたしたちの能力は瞬間移動ではありません。似たようなことはできすが」


「そうか、次元と空間を操る能力だな!」


「正解! さすが魔族一の学者ですね」


 オセの顔は苦悶の表情に変わる。


「わかった、負けを認める。だから助けてくれないか。只とは言わん。俺が集めた竜神の情報をすべて渡そう。悪い取引じゃないだろう」


 その提案を聞きベリアルは考え込んだ。


「兄さま、オセの言葉はもっともです。竜神の情報は欲しいですわ」


「確かに、このまま竜神をのさばらせるのは面白くないな」


「どうだ? 助けてくれるのか」


「わかりました、取引に応じましょう。ただ聖女の手前、勝手に出歩かれても困ります。百年ばかり次元の牢獄で暮らしてもらう、それが条件です」


 オセは考えるが、それ以外に生き延びる方法はなさそうだ。


「承知した。その条件を飲もう」


 こうしてオセはベリアルの軍門に降ったのだ。




 通常空間に戻った二体のベリアルは、互いに笑い合った。


「聖女が殺生せっしょうを嫌うことを、オセは知らなかったのですね」


「命は取るなと言われてましたから、取引せずとも殺さなかったのに」


「兄さま。これで竜神の情報はすべてわたしたちのものです」


「ですが、姉さま。情報があったとしても竜神に勝てるとは思えません」


「勝てなくとも有利な条件で関係を築くことができます。今のところはそれで我慢しましょう」


「そうですね」


 二人は肩を並べタナトス城へ戻ったのである。

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