130話 激突!

 時間が15分ほど巻き戻る―――


 場所はタナトス城の王の間、ファムがバフォメット目がけて突進したところだ。


「出し惜しみはなしじゃ!」


 ファムは大きくジャンプし、信じられない速さで抜刀した!


「奥義、乱れ桜!」


 超高速の刃が、あらゆる方向からバフォメットを切り刻む! だが、その一撃は軽くほとんど効いていない。


「ククク、素晴らしい! 以前の俺なら苦戦しただろう。ところが竜体となったこの体は痛みすら感じぬ」


「な~に、これはあいさつ代わりよ。

 ―――移し身!」


 ファムは、まとっていたマントを空中でひるがえした。そして次の瞬間、前方にいるはずの彼女がバフォメットの背後に現れたのだ!


「もらったー!!」


 渾身の力で魔刀メイスイを振り下ろす!

 だが、その攻撃もバフォメットの右腕でガードされてしまった。


「陳腐な手を使うな。これ見よがしにマントをひるがえせば、嫌でもおとりだと気がつくだろう」


「そうかな」


 ファムが獰猛に笑う。そして、空中に残っていたマントの陰からハリルが現れたのだ! 彼が持つ魔導刀サンスイの刀身は、魔力を吸収し極限まで輝いている。


 ズガッ!!!!


 だが、その一撃をバフォメットは寸前でかわし、魔導刀は大理石の床を深くえぐっただけだった。


「ふふふ、バフォメットよ。今の攻撃を避けおったな。わしの太刀はガードできても、ハリルの太刀を受けきることができないとみえる」


(なるほど、ファムが攪乱し本命は小僧か。確かに奴の魔力は底なしだ。生身で受ければ、さすがの俺でも無事では済まんだろう)


 そう考えながらも、バフォメットは余裕の表情を崩さない。


「ならば、こうするまでよ!」


 彼が雄たけびをあげると、ハリルの持つ魔導刀から魔力が抜けたのだ。


「コマリと同じじゃな。竜体は魔法を無効化する。しかしその効果は、せいぜい三メートルといったところか」


 ファムは低く姿勢を保ち刀身を水平に構えた。


「ハリル! 奥義、ツバメじゃ」


 二人は床の上をすべるように走り、バフォメットの銅を薙ぎ払う。強烈な同時攻撃にバフォメットは思わずよろめいた。


 二撃目! 三撃目! 四撃目!

 反復する斬撃がバフォメットにヒットする!


「ば、バカな! 魔法は無効化しているはず。どうしてこれだけの威力が?」


 ファムが笑う。


「種明かしをしてやろう。魔法無効化の圏外から加速しておるのよ。移動速度も剣速も極限まで高速化されておる。竜体とはいえ、この攻撃にいつまで耐えられる」


「一つアドバイスすると、高速で動く相手には魔法が有効なんだ。広範囲の火炎魔法を使われると無茶な突進はできないからね」


 ハリルも嬉しそうに解説した。


(くそっ、魔法無効化を計算に入れていたのか。無効化を解けば魔法を使えるが、それでは小僧の魔導刀にも魔力を注がれてしまう)


 うずくまったバフォメットに、ファムとハリルはツバメの五撃目を放つ!

 

 だが攻撃は不発に終わり、ファムの右手が魔刀を握ったまま宙に舞い上がった。バフォメットが神聖ブレスを放ち、突進する彼女にカウンターを浴びせたのだ!


 ハリルは、ファムの右腕をつかむと一気に後退する。それに合わせてファムも後ろへ下がろうとした。


「逃がすか!」


 光り輝く光線が止めを刺そうと襲いかかる!


 ガシュ―――ン!!


 しかし、その一撃は跳ね返されたのだ!


「何っ! 防いだだと!?」


 竜神の盾を構えながらナラフが笑う。


「フハハハ! 神聖ブレスがどれだけ強力でも、竜神のうろこで作ったこの盾を貫くことはできないようだな」


「聖女はブレス対策までしていたのか!」


 バフォメットはたじろぐが、それは一瞬だった。ナラフを見て、すぐに盾の弱点を見つけたのだ。


「その小さな盾で、どこまで俺の攻撃に耐えることができる!」


 そしてブレスを乱射しはじめた。懸命に耐えるナラフだが、すべてを防ぐことはできず、体のあちこちを貫通されている。


「ナラフ、耐えてください。あなたが倒れたらわたしたちの負けです」


 ナラフの後方でイフリータがヒールをかける。さらにその後ろでは、サラがファムの右腕を治療していた。


「さすがマリの弟子だけある。見事なヒールじゃ」


「いえ、ハリルさんが右腕を離さなかったから治療できたのです。お姉さまなら腕を失っても再生できますが、わたしにはできません」


「サラちゃん、ファムの治療が終わったらナラフの方もお願い。彼の回復には神聖魔力も必要だから」


「はい、イフリータさん。すぐに行きます」


 サラとイフリータが、傷ついたナラフにヒールをかけ続ける。しかし、バフォメットのブレス攻撃は苛烈で回復速度が追いつかない。


 鉄壁の防御を誇るナラフでさえ苦悶の表情を浮かべていたのだ。

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