36話 迫り来る魔王ブーエルの脅威!

 マリは、アルベルト殿下、フェリシア姫殿下と会談し、少しだが竜神のことを知ることができた。しかし決定的な情報はなく、彼女のモヤモヤは増すばかりだ。このことで彼女は、ガルやサンドラと話し合うことにしたのである。




「ガルさん、サンドラさん、お二人はコマリの過去を知っていますよね? 前に聞いたときは教えてもらえませんでしたが、そろそろ話してくれてもいいんじゃありませんか?」


 居間の暖炉の前で、マリは二人を問い詰めた。


「う~ん」


 ガルは困り果てた様子で、チラチラとサンドラを見ている。


「サンドラさん、教えてください! コマリは本当に竜神さまなのですか? もしそうなら、どうして暴竜になっていたのです? そしてブーエルは、なぜ暴竜を狙っているのですか?」


 マリの真剣な目を見て、サンドラは「ふぅ~」とため息をもらした。


「仕方ありません。わたしもすべて理解してるわけではありませんが、多少は知っています。それを話しましょう」


「お願いします」


「その前に―――マリは、魔王ブーエルについてどれくらい知っていますか?」


「彼はゲームの世界にいましたから、それなりに知識はありますよ。大魔王の配下で三人の副官、ガリエル、キルエル、シナエルを従えています」


「大魔王については?」


「ほとんど知りません」


「では、その辺りから説明しましょう。大魔王の名はラキトル・ラノワといい、今から三百年前に滅んでいます。魔王ブーエルは彼の参謀でした。かなりの知将で、闇落ち計画はブーエルが立案したそうです」


 サンドラの話を聞きながら、マリはゲームの中のブーエルを思い浮かべた。


(ブーエルって知略で魔王になったのか。そういえば驚くくらい弱かったものね)


 そこまで考えた時だった!

 ブーエルの映像が、マリの頭の中でフラッシュバックしたのだ。そして彼女は意識を失い、その場に倒れてしまったのである。




 マリは不思議な空間の中にいた。


(わたしはどうしたのだろう? ああそうか、ガルさんやサンドラさんと話していたんだ。ということは気を失ったのね。ここは夢の中……)


(違います。聖女はわたしのイメージ空間の中にいるのですよ)


 不意の声に彼女は意識を集中した。


(あなたは誰? わたしが転生するときに聞いた声にそっくりだけど)


(そうです、あの声はわたしです。

 ―――それより、ようやく竜神さまを復活させることができましたね)


(やっぱりコマリは竜神さまだったのね)


(はい。竜神さまは闇落ちしていました。それをあなたがお救いしたのです)


(闇落ち? サンドラさんも言っていたけど、それは何なの?)


(闇魔力の大規模な汚染のことで、三百年前に起きました。ブーエルはそれを再現しようとしています。そしてそれを起こすには『暴竜』つまり闇落ちした竜神さまが必要なのです)


(あなたは詳しいのね。よかったら教えて! どうしてコマリは暴竜になったの? あの子と聖女はどういう関係なの? そもそもわたしは聖女なの? なぜアルデシアにやって来たの?」


 この世界に転生してからの疑問が、マリの頭の中に止めどなくあふれ出た。


(残念ですが教えることはできません。それは、あなた自身で思い出さなければ意味がないのです。これから少しづつわかって来るでしょう)


 やっぱり自分で思い出すしかないのか―――マリは心の中でため息をついた。


(それより、聖女。今日は重大なことを知らせに来ました)


(重大なこと?)


(はい。先ほどブーエルが闇落ちを望んでいると言いましたが、彼はそれをあきらめていません。暴竜を躍起やっきになって探しています。そしてそのために、ある計略を実行するつもりです)


(どんな計略です)


(彼は王国を操り、神国に戦争を仕掛けようとしています。そうなれば、スケルトン襲撃とは比べものにならない被害が出るでしょう。気を付けてください)


 そう告げると声は遠ざかっていく。


(待って! きちんと話して)


(わたしが話さなくても、近いうちに情報がもたらされます)


(ならせめて、ブーエルのことだけでも詳しく教えてちょうだい)


(それはもう、あなたの記憶にあるはずです)


 そして完全に消えてしまったのだ。




「マリ! どうした?」


「しっかりしてください!」


 ガルとサンドラに呼びかけられ、マリはようやく目を覚ました。


「う~ん。わたしはどれくらいのあいだ気を失っていました?」


「三十秒ほどだが、何かあったのか?」


「ええ、ほんの少しですが過去の記憶がよみがえりました」


「何を思い出したのです?」


「ブーエルがなぜ暴竜にこだわっているのか、その理由です。彼は闇落ちを再び起こそうとしています」


 マリは不思議な空間での会話を説明した。


「なるほど。その声の主は、暴竜が闇落ちした竜神さまだと知っていたんだな」


「そうです、ガルさん」


「それで、マリ。どうして竜神さまが闇落ちしたのか、教えてもらいました?」


「いえ、そこまでは……その声が言うには、わたし自身で思い出さないと意味がないそうです」


 それを聞いて、サンドラは安堵あんどの吐息をもらした。やはり話したくない事情があるのだろう。マリもそれ以上聞かないことにしたのだ。




「そういえば、もう一つ大変なことを教えてもらいました。ブーエルは暴竜を捕獲するため、神国に戦争を仕掛けるそうです」


「どういうことだ? 暴竜はマリの魔法で竜神さまに戻っているだろう。今さら攻めて来ても意味がない」


「ご主人。暴竜討伐は極秘に行われましたし、公表もしていません。ブーエルは、そのことを知らないのです」


「そうです。彼は、暴竜がまだ神国のどこかに封印されていると考えています。そして、王国軍を使って探し出すつもりでしょう。そんなことをされたら大勢の犠牲が出てしまう。絶対に阻止しないといけません!」


「それでは、マリ」


「はい。ブーエルを滅ぼします!」

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