65話 ナラフ強襲!
ハリルは暗い牢の中でじっと考えていた。どうしてこんなことになったのか? 彼にはさっぱりわからない。
いきなり共和国軍に捕まり尋問を受けた。ファムのことを聞かれ、命の恩人だと答えた途端に投獄されたのだ。ウェグのことは話していない。聞かれなかったし、彼はマリの仲間だ。迷惑はかけられない。
「ファムに助けられ共和国に戻っただけだよな。何で捕まったんだろう?」
牢の中で
「ハリル、本当に身に覚えがないのか?」
「はい、マークさん。巨大蟻に襲われていた僕とルイスは、ファムという少女に命を救われました。そして、彼女と一緒に帰って来ただけです」
「お前は反逆罪で処刑が決まった」
「ええっ、どうして僕が処刑されるんです?」
「その理由を俺も知らんのだ。ただ、エイベル侯はファムという少女を捕まえたいらしい。お前はそれに巻き込まれたんだろう」
「ルイスはどうなりました?」
「ルイスについては情報がない。ハリルから聞くまで、生きていることすら知らなかった」
「彼女は反逆罪に問われてないのですね?」
「ああ、今のところはな。だが、状況によってはそうなるかもしれん」
マークの説明を聞きながら、ハリルにも少しづつ真相が見えてきた。
(ファムは不老玉を持っていて、それを共和国が欲しがっているんだ)
そこまで考えると結論は嫌でもわかった。
(僕はファムに対する人質にされたわけか)
◇*◇*◇
ウェグの持ち帰った竜神の盾を、ナラフはもの珍し気に触っていた。そして性能を確かめる。部下の魔術師に攻撃させたのだが、すべての攻撃魔法が盾の周囲で無効化されたのだ。
「これは凄い! さすが聖女だ。いい装備を持っている」
「魔法攻撃を弱める盾なら見たことがあるが、消滅させる盾は初めてじゃ」
盾を手にしたナラフは、ファムと一緒にハリルの救出準備に取りかかった。
「ウェグ、お前はどうする? 共和国での生活もあるし、無理に参加しなくてもいいのだぞ」
ナラフの言葉にウェグはしばらく考えた。
「いや、俺もルーシー城へ行く。俺ならハリルの居場所が匂いでわかるし、共和国の連中には貸しがある。その代わりと言っては何だが、獅子王、仮面を貸してくれないか。顔を見られたくない」
「そうじゃな、わしにも仮面を貸してくれ。その方がマリのためじゃろう」
「わかった、仮面を二つ用意させよう」
それから一時間後、ルーシー城は大混乱に陥っていた。ナラフが二人の部下を従え殴り込んで来たのだ!
パニックが収まると、共和国軍は対ナラフ用に育成した魔術師を投入した。接近戦で攻撃魔法を撃ち込む現代魔術の使い手たちだ。だが、盾を構えたナラフのそばで魔法が発動しない。それは魔剣も同じで、雷撃すら盾の周囲では意味をなさなかった。
彼は、高笑いしながら戦いを心ゆくまで楽しんだ。それに飽きると背中から翼を生やし、マレル島に帰って行ったのだ。
◇*◇*◇
ナラフが飛び去り、混乱した城内をクリフは歩いていた。そして、部下の一人を見つけるとかけ寄る。
「マーク、疲れているだろうが被害調査を頼む。大雑把でいいから大急ぎでな」
「ああ、わかった」
そう言い残し、マークは小走りで去って行く。
「クリフ、無事だったのね」
声をかけられ振り返ると、そこにいたのはアリスだ。
「俺は無事だが、お前の方こそ大丈夫か? きれいな顔が泥だらけだぞ」
「シールドを全開したけど無効化されたわ。生きているのが不思議なくらいよ」
「俺も何度か攻撃したが、すべての攻撃魔法を無効化された。くそっ、あの盾は何なんだ!」
二人は互いに息をもらした。
「でも、ナラフはどうして城を? 今まで本土へは一度も攻めて来なかったのに」
「俺にもわからん」
クリフとアリスは、ナラフ襲撃の理由を話し合っていた。そうしていると、マークが戻って状況報告を始めたのだ。
「被害にあったのは城の低層だけだ。重臣たちに被害はない。エイベル侯は不老玉を懐にしまって震えあがっていた」
「兵の被害は?」
「近衛がかなりやられた。死者は少ないが、けが人の数がもの凄い。それと……」
「それと?」
「ハリルが地下牢から姿を消している」
「ハリルが!?」
「クリフ。この騒動がハリルを助けるためだとしたら、ファムが絡んでいるわね。彼女はナラフと関係があるんじゃない」
アリスが言う。
「なるほど、そう考えれば筋が通るな。もしそうなら、俺たちは不老玉に気を取られて獅子の尻尾を踏んでいたのかもしれん」
◇*◇*◇
ハリルは、ファムとウェグに救出されマレル島へ向かう船の
「ありがとう、ファム、ウェグさん」
「
「それでも嬉しいや」
微笑む彼を見てファムは頬を染めた。
「ファム、お前マジでハリルのことを」
「ウェグ。何か言いたそうじゃが」
「はは……お、俺が悪かった」
ウェグの喉元には、当然のように魔導刀の切っ先が突きつけられていたのだ。
マレル島へ上陸すると、そこにはナラフがいて出迎えてくれた。夕陽を浴び黄金に輝く獅子王の姿を、ハリルは生涯忘れないだろう。気高い存在を前に、彼は片膝をついて礼を尽くした。
「お前がハリルか?」
獅子王はくぐもった声で問いかける。
「はい、獅子王さま。聖女が臣であり、ファム・ラヴィーンの
「聖女もファムもわが友だ。お前のことも友と呼ばせてもらおう」
「身に余る光栄です、獅子王さま」
挨拶が終わり、ナラフはマントをひるがえして宮殿へ向かって歩きだした。そのあとを、ファム、ハリル、ウェグが続くのだった。
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