71話 ルナン城塞の攻防戦!

 ルーシーを発ったルナン侯と軍師ケネスは、9月1日、二万の兵と共に侯爵の居城があるルナン城塞に到着した。


「やはり、ティエン城塞は陥落していたか」


 侯爵は厳しい表情で報告を聞いた。


「8月27日に攻防戦が始まり、翌日には連合国軍に制圧されたようです」


「それで、連合国軍の現在位置は?」


 彼はケネスにたずねる。


「ティエンとルナンの中間地点です。あと二日でここに押し寄せます」


「戦力比はどうなっている」


「連合国軍も消耗し、今は四万五千ほど。この城塞には、ティエンから撤退した兵を含めて六万が集結しています」


「それだけの兵がいれば大丈夫か」


 ルナン侯は安堵のため息を漏らした。


「だが油断できん。ルナンは第二の首都だ。ルーシー城が占拠されている現状、ここが落ちれば共和国貴族が動揺し全面崩壊してしまう可能性が高い。サザーランド卿、必ず死守するのだぞ」


「全力を尽くします!」




 ケネスはそう答えたものの、どうしても不安がつきまとう。そもそも、ティエン城塞がたった一日で陥落した理由がさっぱりわからない。


(城塞の防衛戦なら、半数の戦力でも持ち堪えられたはずだが……)


 彼は、ティエンから撤退して来た兵士から事情を聞くことにした。


「軍師閣下、敵軍の中に信じられない手練てだれが十人ほどいます。彼らがあっさりと城壁を越え、城塞門を開きました」


「手練れ? わが軍にも強化術を使える騎士がいるだろう。それより上なのか?」


「言い難いのですが、敵はそのようなレベルを遥かに超えています」


 信じられない話なので、ケネスは多数の兵に聞き取りをした。その全員が同じ証言をしたのだ。




 翌日、ルナン侯にある人物が訪ねて来た。目つきの悪い冒険者風の男だ。いつもであれば会うことなどないが、彼は獅子王の使者と名乗った。


「ウェグ殿。獅子王の使者だそうだが、それを証明できますかな」


 侯爵の不自然な匂いに気がつき、ウェグはすぐに事情を察した。


(これは警戒してる匂いだな)


「侯爵、あかしを見せるから人払いしてくれ」


 護衛の騎士が部屋を出るとウェグは変身した。侯爵の目の前に現れたのは、身の丈三メートルに達する巨大な白銀のウェアウルフだ。


「これで信用してもらえたか?」


「ああ、ウェングだったのか。お前が獅子王の盟友なのは聞いている」


 彼はすぐに人の姿に戻った。


「すまない。獅子王の使者だと偽り、私を罠にかけているのではと疑ったのだ」


「気にしちゃいないさ。ナラフを敵視してる貴族は多い。正体の知れない相手に迂闊うかつな話はできないだろう」


「理解が早くてたすかる。それでは獅子王の伝言を聞こうか」


 ウェグの語る内容を聞き、彼は驚愕した。


「本当なのか!? 連合国軍にダークヴァンパイアがいるというのは!」


「ああ、事実だ」


「そうであれば、サザーランド卿の報告とも一致する。敵軍に恐ろしく強い兵が十人ほどいるらしい。そいつらがダークヴァンパイアなのだな」


「しかも魔王級だ。一般兵士の手に負える相手ではない」


「それでは我々に勝ち目などないではないか」


 うなだれる侯爵にウェグは笑って見せる。


「安心しろ、そのために俺が来た」



 ◇*◇*◇



 二日後、連合国軍がルナンに到達した。そして城塞を包囲したのだ。


 その日の夜、ウェグは軍師ケネスと一緒に城塞の南門で待機していた。


「ウェグ殿、敵が南門から攻めるのは間違いないのですか?」


「ああ、ダークヴァンパイの匂いは独特だ。そいつらが全部で十人、南門の周囲に集まってる」


「ティエン城塞のときは、彼らが城壁を乗り越え門を解放、敵軍がなだれ込んでいます。今回も同じ戦法を使うのは確実でしょう」


「それはそうと、軍師よ。俺一人で十人の相手は厳しい。部下は手練てだれを用意したのだろうな」


「強化術の使い手を三十人ばかり集めました。私の直属で腕は確かです」


 ウェグがぐるっと見回せば、その中にクリフをはじめ黄金の三騎士がいる。


(こいつらなら大丈夫か。しかし、一緒に戦うことになるとはな)




 ウェグとケネス、騎士たちは、南門の近くの物陰に身をひそめ息を殺した。しばらくすると、城壁から十人の男が音もなく飛び降りて来たのだ。そして門に向かって走りだす。


「おっと、そこまでだ!」


 ウェグが彼らの前に立ち塞がった。


「誰だ! お前は?」


「俺は冒険者だ。ダークヴァンパイアを狩ってくれと共和国に頼まれたのさ」


 彼らは正体を見破られて動揺するが、すぐに冷静さを取り戻す。


「我々がダークヴァンパイアと知って、それでも戦いを挑むか。愚か者め!」


「それはどうかな?」


 彼が指を鳴らすと騎士たちが現れ、次々にヒール玉を潰していく。

 パチン、パチン、パチン―――ガラス玉が割れる音が響き渡った。すると、ダークヴァンパイアたちが一斉に苦しみだしたのだ。


「こ、これは……神聖魔力か?」


「そうだ、聖女の神聖魔力を込めたヒール玉を大量に潰した。ここら一帯は神聖魔力で満たされている」


「聖女だと! あいつは、またしても我々に仇をなすのか!!」


 その言葉が終わらないうちに、ウェグは風のように走りだした。抜剣して切りつけると、ダークヴァンパイアは灰になり崩れ去る。


 彼と同時に黄金の三騎士も動いた。敵の懐に飛び込みヒール玉を潰す。


「ぐわあああぁぁぁっ!!」


 神聖魔力をまともに浴びた彼らは、悲鳴を上げながら灰になった。そして、十人のダークヴァンパイはわずか数分で倒されたのだ。


「ファムが言ってたが、ダークヴァンパイアは弱点を突かれると本当に脆いのだな。聖魔戦争で聖女にボロ負けするはずだ」


 ウェグが剣を収めるとケネスが近寄って来た。


「ウェグ殿、お見事です」


「俺は、他にもダークヴァンパイアがいないか探してみる」


「わかりました。この場はお任せください」




 ケネスはある作戦を実行した。

 相手の戦法を逆手に取り、わざと南門を開いたのだ。一万の連合国軍が城塞内になだれ込むと門を閉じ、敵兵力の分断に成功。そして、待ち構えていた共和国軍で袋叩きにしたのだ。


 朝までに戦いは終わり、残った三万五千の連合国軍は退却を始めた。

 こうしてルナン城塞の攻防戦は、共和国軍の圧勝で幕を閉じたのである。

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