23話 キルエル侵入!
話が少し前後する―――マリたちがサイラスへ旅立った翌日、アルベルト殿下からヴィネス宰相に会見の申し込みがあった。
「宰相閣下、お願いがあって参りました」
「どのようなことですかな?」
「王国もアンデッドに興味を持っており、貴国が捕獲しているヴァンパイアを調査させて欲しいのです」
「我々が何度も調べましたし、その報告書もお渡ししてありますが」
「使節団にはアンデッド専門の調査官がいます。その者に調べさせたいのです」
宰相はしばらく考えてから答える。
「少々お時間をいただきたい。担当者と相談し、安全かどうか確認した上でお返事しましょう」
それから一時間ほどして、ヴァンパイアの取り調べ許可が下りた。
「感謝します、閣下。この者が王国のアンデッド調査官です」
殿下が紹介したのは、黒いローブをまとった陰気そうな魔術師の男だった。
宰相とアルベルト殿下、調査官の男は城の地下にある牢獄へ向かった。そこには三人の女神官が控えていて、他には誰もいない。牢の中には、マリを襲った女ヴァンパイアが横たわっている。
宰相らが牢に入ると、女神官たちは殿下にひざまずいて挨拶した。
「この三人は神国の神官です。牢は神聖魔法結界になっていて、この者たちが魔力を補給しています」
「神聖魔力が高いのは王国でも若い乙女です。しかもこんなにお美しい。ここで命を散らすなんて本当に残念です」
「殿下、いま何とおっしゃいましたか!?」
宰相は大きく目を見開いた。
「宰相閣下も三人のお嬢さんも、ここで死んでもらいましょう! キルエルさま、お願いします」
殿下が頭を下げた相手は調査官の男だ。
「ご苦労、あとは俺が処分する」
キルエルと呼ばれた男は姿を変えた! 肌は黒く染め上がり
「くくっ、聖女が昨日からミスリーにいないのは確かめてある。あの女の力なしで何ができるのかやってみせろ!」
「そうかい、ならお言葉に甘えさせてもらうよ!
―――リン! シス!」
「了解、ルリ!」
「あいよ、姐さん!」
彼女たちは、ルリ、リン、シスだ。そして、トライアングル神聖魔法結界を瞬時に展開した。
「ぐははっ! 人間ごときの結界で、この俺さまを拘束できるとでも……」
ヴァンパイアの表情が一変する!
「なんだ、この結界は!? くそっ、聖女が留守というのは罠だったか!」
「ふふふ、あたいたちは聖女さまの助けなど借りてないんだけどね」
グオォォ――――――オオッ!!
キルエルは咆哮を上げ、結界を破ろうと何度も突進した。だが、それは強固で破れないのだ。
「人間の魔力を
キルエルの悲痛な叫びは、それから長いあいだ牢獄中に響いていた。やがてそれは小さくなり、最後に残ったのは大量の灰だけだった。
「ば、バカな! キルエルさまは魔王ブーエルさまの腹心だぞ。そんな強大な方がどうしてこんな女神官ごときに」
殿下は逃げようとするが体が動かない。気がつくと後ろに男がいて、後ろ手に縛りあげている。その男はグレン。気配断ち結界を使い部屋の隅に潜んでいたのだ。
「殿下、色々とうかがわなければならないことがあります」
こうしてアルベルト殿下は捕縛された。彼がダークヴァンパイアの手先だと知った宰相は、顔を真っ青にして執務室へかけ込んだ。そして部下を集め、今後の対応を協議しはじめたのである。
「本当にご苦労だったな、お前たち」
「喜んでもらえて、あたいたちも気分がいいよ」
グレンとルリ、リン、シスは、控えの間でくつろいでいた。
「しかしわからんな。ステータス上昇魔法は切れてただろう。なぜそんな魔力を出せたんだ?」
「残留魔力」
リンが説明する。
「聖女さまの魔力を浴びると、その魔力の一部が体に残るんだ。あたいたちは、任務で何度も聖女さまに魔法をかけてもらってる。そのせいで素の魔力が格段に上がってるんだよ」
「聖女さまが言うには、残留魔力の影響は若い方が強いらしいけどね。あたいたち三人の中じゃ、シスがいちばん恩恵を受けてる」
「ちっ! 俺は魔法が切れると元に戻るのに、お前らだけズルくないか」
「残るのは魔力だけだからね。魔法の効果は残らないってさ」
リンがグレンを見て意地悪そうに笑う。
「それにしても気分がいいねぇ。ダークヴァンパイア、それも魔王の副官というネームドだよ。そいつをあたいたちだけで滅ぼせたんだ。残留魔力さまさまだね」
「ルリ姐さんはそうやって聖女さまを持ち上げるけどさ、あたいは面白くない。あんなポヤンとしてるのに負けてるかと思うと腹が立つんだ」
不満顔のシスにリンが言う。
「シスは正直だよね。あたいたちは全員が魔力の競争をしながら生きてきたんだ。そりゃ魔力で負けたら悔しいけどさ。でも、聖女さまはバケモノだよ。あたいはもうあきらめた」
「それに、シス。聖女さまはポヤンとしてるようで意外に鋭いよ。あたいも、ゾクゾクってすることがあるくらいさ」
「ああ、ルリの言うとおりだ。あの聖女さまは油断ならない。まあ、それでもポヤンとしてるのは間違いないけどな」
グレンが大声で笑うと、三人も「違いない」と言って笑うのだった。
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