63話 ファム vs アリス!

 ファムは、ハリルの上司である黄金の三騎士の一人、クリフの館を訪れた。だが、その訪問はあまりに乱暴で護衛の全員が叩きのめされたのだ。


「わしは交渉に来ただけと言っておろう! 何人死んだか知らんが、先に剣を向けたのはそっちじゃぞ」


 応接室のソファに座りながら、彼女はクリフと対面した。


「二人死んだ! 重症は三人だ。これで交渉も糞もあるか!!」


「仕方ないの。悪いのはそっちじゃが、ここは譲歩しよう」


 ファムは五つの魔法玉を取り出した。


「蘇生玉が二つ、ヒール玉が三つじゃ。それで勘弁せい」


 ヒール玉はともかく、蘇生玉は極めて貴重なアイテムだ。それを見たクリフは態度を変えた。


「わかった。ハリルとルイスを助けてくれたことは感謝しよう。しかし、二人は軍の機密を知っている。はいわかりました、と軍を抜けさせることはできん」


「頭が固い奴じゃの。わしは軍の機密などに興味はない。これ以上、腹の探り合いは面倒じゃ。あやつを買いたい、売ってくれ」


「だから何度も言っているだろう。そんなことはできんと!」


「これでもか?」


 ファムは別の魔法玉を取り出した。それは金色にきらめく二つの不老玉だ。


「スターニアに行っておったのじゃ。これが何か知っておろう」


 クリフは驚愕した。多く部下を犠牲にしてすら手に入らなかった不老玉を、なぜこんな少女が持っているのか?


(こいつも不老玉を使っているな。あれだけの剣腕をこんな少女が持っているわけがない)


 クリフはファムを見つめ口を開く。


「不老玉の数が少ない。五個出すなら考える」


「たわけっ! 下手に出ればつけ上がりおって。おぬしをここで殺し、すべての魔法玉を持ち帰ってもよいのじゃぞ。ハリルは共和国の手の届かん場所へ連れて行けば、それで片がつく」


「わかった、そう殺気立つな。不老玉四つではどうだ。それなら、ハリルだけでなくルイスもお前に引き渡そう」


 ファムは考える。ルイスは要らんがハリルが恩に感じるやもしれん。そう判断すると出された条件を飲むことにした。


「証文を出してくれ。それで交渉成立じゃ」


「すぐに作成するから待ってろ」


 クリフは執務室へ移動した。そして、そこにはアリスが駆けつけていたのだ。


「ふふふ、こんなところでファムに出会えるなんて幸運だわ」


「アリス、あの女を知っているのか?」


「ええ、名前はファム・ラヴィーン。あいつの仕事を手伝い不老玉を分けてもらったことがある」


「なるほど」


 クリフは腕組みをして考える。


「後をつけよう。もっと多くの不老玉を隠し持っているはずだ」


「それがいいわ。わたしが尾行する」




 交渉に成功したファムは意気揚々とクリフの館を出た。しかし、すぐにつけられていることに気がついたのだ。


「可哀想じゃが始末するか」


 そして、ひと気のない場所へ追手を誘導する。そこは港の倉庫街で、その時間は誰もいない。


「出て来い。つけているのはわかっておる」


「そう、ちょうどいいわ。わたしも尾行に飽きてたところなの」


 現れたのはアリスと四人の兵士だ。


「久しぶりじゃな、アリス。不老玉を欲しがっておったが、見つけることはできたのか? その様子だとまだのようじゃな」


「うるさい! これからお前を捕まえて不老玉の生産地を吐かせる!!

 ―――お前たち、生け捕りにするのよ。抵抗するようなら手足の一本くらい切り落としていい」


 アリスの命令で四人が一斉に襲いかかった。しかし、魔導刀の一閃で全員が切り倒されたのだ。


「狙う場所がわかれば剣筋を読まれるじゃろ。バカな指示をする女じゃ」


 兵を失ったにも関わらず、アリスは余裕の表情を崩さない。


「ほぉ、己の力によほど自信があるようじゃの」


 ファムは一気に間合いを詰め切り払った!


 ―――が、その一太刀は魔法シールドによって跳ね返された。切り口を変えながら何度も試すが、横も後ろもシールドでおおわれていて刃が通らない。


「腕を上げたな。これだけ強力な魔法シールドを張れる人間をわしは知らん」


「得意なのはシールドだけではなくってよ」


 アリスの周囲の空間が巻き上がった!


 空気が刃となり、近くにあるものに襲いかかったのだ。しかし、ファムは魔導刀の剣圧でそれを無効化する。


「防がれると思ってなかったわ」


「なーに。おぬしが放つ衝撃波は、魔導刀の発する衝撃波で相殺そうさいできるからの。特に自慢する芸当でもないわ」


膠着こうちゃく状態ね」


 そう言いながらもアリスは笑っている。


「いつまで笑っていられるかな。女は防衛本能が強い。だからシールドも強力なのじゃが、どうしても我が身を庇う癖がある」


 ファムは、剣を肩の辺りに持ち上げ突きの構えをする。


「おぬしのシールドも相殺そうさいするかも知れんぞ。渾身の突きを防ぎ切れるかな?」


 ファムは一瞬で突進した!

 だが剣先は、またもアリスのシールドで止められてしまう。


「甘いわ!!」


 彼女は隠し持っていたナイフでアリスの腹部を突き、それはシールドを破って肌に食い込んだのだ。


「ぐふっ……正面突きはフェイクか!」


「そうじゃ。ああやって挑発すれば、シールドは突きの方に重点的に展開され腹はお留守になる。やはり女じゃな、突きの怖さに冷静さを失った」


「これで勝ったと思うなっ!!」


 口から血を吐きながらアリスは叫んだ!

 そして、まとっていたシールドをそのまま衝撃波としてファムに放つ!


「愚か者! 衝撃波は相殺できると―――きゃああああっ!!」


 衝撃波とは違う別の何かが体をかけ巡り、ファムは悲鳴を上げた。


「掛かったわね。これは奥の手よ」


 アリスが見せたのは、ローブの中に隠していた一振りの短剣だ。


「これは雷撃の魔剣なの。わたしの衝撃波と魔剣が放つ雷撃、この二つを同時に相殺するのは無理だったようね」


「雷撃の魔剣? そうか、共和国は魔剣の製造に成功しておったのか」


 そう言いつつファムはヒール玉を使った。だが、傷は治せても体は麻痺したまま動かない。


(まずい、これでは逃げることもできぬ。あやつがヒール玉を持っておれば敗北が確定じゃ)


 しかし、アリスは止めを刺しに来なかった。刺された腹を押さえ、その場で倒れてしまったのだ。


「運は尽きてなかったか―――だが、このざまは敗北したのと同じじゃな」


 ファムは屈辱に顔を歪めた。そして、足をふらつかせながらその場を立ち去ったのである。

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