80話 ダンジョン攻略!

 翌朝、ダンジョンの攻略が始まった!


「諸君! 勇敢なる冒険者の諸君。今日は、ダンジョン攻略に参加してくれ感謝の言葉もない!」


 集合場所には五百人ほどの冒険者が集まり、彼らに向かって恰幅かっぷくのいい騎士が演説している。


「これから五つの班を作ってもらう。詳しいことはそこの班長に聞いてくれ。

 ―――以上だ!!」


 冒険者たちはそれぞれ集まりだした。


「マリさま、僕たちはどうしましょう?」


「わたしたちは四号入り口から入るわ。あそこが最短だからね」


 班分けが終わり第四班が移動をはじめた。マリたちはその最後尾について行く。そして『神秘の森』へ足を踏み入れたのである。


 神秘の森というのは、スローン帝国とガルリッツァ連合国の国境にまたがる森林地帯のことだ。ただの森ではなく闇魔力が恐ろしく濃い。魔の森の縮小版といった方がわかりやすいだろう。


 しばらく森の中を歩き、マリたちはダンジョンに入った。神官たちが神聖魔力を放出していて迷宮の中でも明るい。彼女も他の神官に合わせ照明魔法を使う。


「凄いですね、ダンジョンって。洞窟っていうより人が作った通路のようです。ううん、それ以上に綺麗な気がします」


 ハリルが言うように、ダンジョンは直径十数メートルのトンネルになっていて、壁面もびっくりするくらい綺麗だ。


「ハリルくん、ここは新しいし壁の処理もしてあるわ。土を高熱で溶かして崩れないように補強してるの。階段などは後で作られたものだけど」


「へぇ~、マリさまは詳しいですね」


「当然じゃろう。なにせ作った本人じゃからな」


 ファムの説明にハリルは唖然とした。


「そういえば、マリさまは先代の竜神さまですよね。コマリちゃんも城の広場に大きな穴を開けていましたし、竜神さまって穴掘りが趣味なんですか?」


 それを聞いて、マリは真っ赤になったのだ。


 通路を進んで行くと所々に小部屋がある。中では大勢の人夫が作業をしていた。


「ファム、あれって何をしてるの?」


「あれは闇魔力の結晶を掘っておるのじゃ。おぬしも魔法アイテムに闇結晶が使われているのを知っておるじゃろう」


「でも、闇結晶って強いモンスターの角とか牙に含まれてるんでしょう。だから、討伐すると高値で引き取ってもらえる」


 ハリルの疑問にマリが答える。


「そうやって採取することもできるけど、それだけじゃないの。モンスターから取れる闇結晶って、どんなに濃縮しても一つまみの砂くらいにしかならないわ。ここで掘り出される闇結晶は、魔法玉くらいの大きさのもあるのよ」


「そんなに大きな闇結晶があるのですか! 凄い魔力がありそう」


「まあ、大きいのは滅多にないし、もし見つることができれば百年は遊んで暮らせるじゃがな」


 そんな話しながら、マリたちは地下に降りて行く。しばらく歩くと、第四班は大きな地下空洞に出た。


「冒険者の諸君。ここまでが攻略済みの階層だ。ここから二階層下に大きな部屋があり、そこに魔王がいるそうだ。一時間後、そこへ向かう。武器の手入れと休憩はここで済ませてくれ」


 班長の声が迷宮にこだますると、周囲の空気が張りつめた。ハリルも緊張してるのか、顔をこわばらせている。


 そんな彼に、ファムは顔を寄せてささやいた。


(これ、勘違いするでない。わしらは戦闘などせぬからな。隅っこの方で怯える初心者のふりをしておればよい)


(えっ? それってどういう……)


 ハリルが問い返そうとした時だった!

 突然、第四班が大混乱に陥ったのだ。


 一人の魔王を先頭にして、モンスターの群れが彼らのいる部屋になだれ込んで来たのである。


 冒険者たちは立ち上がり果敢に応戦する!


(どう思う、ファム?)


 マリが小声でたずねた。


(冒険者の中に伝説級がおらん。雑魚ざこモンスターは対応できるじゃろうが、魔王は無理じゃろう)


(それじゃ、この人たちは全滅?)


 ハリルの顔が青ざめる。


(可哀想じゃが仕方ない。彼らも金と名誉を賭けて戦いを挑んだのじゃ。覚悟はできておろう)


(でも、僕たちが加勢すれば何とかなるよ)


(ハリルくん、わたしたちは中立じゃないと不味まずいの。あとで説明するから、魔王には絶対に手を出さないでね)


(わかりました、マリさま)


 冒険者たちと魔王の闘いは苛烈を極めた。すでに半数近い冒険者が戦闘不能になっているが、モンスターもほぼ駆逐されている。最後は、魔王と五十名ほどの冒険者の闘いになったのだ。


 防御役の戦士たちが盾を構えて魔王に挑むが、そいつは挑発に乗らず神官にターゲットを絞り確実に倒していく。最後の神官が戦闘不能になると、班長が撤退命令を出した。彼らは防御役に守られつつ無事に逃げ切ったのだ。


「ふぅ――っ、半数は無事みたいね」


「なんじゃ、マリ。冷たい振りをしておってもやっぱり冒険者が心配か」


 ファムはからかって笑うのだった。




 冒険者たちがいなくなり辺りが静かになると、ファムが魔王に声をかける。


「セーレよ! わしを覚えておるか?」


 セーレと呼ばれた魔王は、血がしたたる腕をなめながら振り返った。


「覚えているぞ。小さくなっているがファムだろう。今日も聖女のお守りか? ご苦労なことだ」


「魔王アマルモンに会いに来ました。取り次いでもらえるかしら?」


 マリは用件を告げる。


「ああ、長老もお前に合いたがっている」


 セーレはダンジョンの奥底へ降りて行き、マリたちも後に続いたのだ。


 数時間かけて最下層までたどり着くと、そこには巨大な空間があった。中央には宮殿が建てられ、セーレを先頭にその中に入って行く。


 王の間へ案内されると、そこには憔悴しょうすいした魔王が力なく座っていた。


「どうしたのです、アマルモン? ずいぶん元気がないようですが」


「聖女か、久しぶりだな。それにファムと……もう一人は?」


「わたしの臣下でハリルといいます」


「それで、何用で来たのだ?」


 マリはアマルモンのそばへ寄り、そっと耳打ちする。すると彼の表情はみるみる変わり、顔に喜色が浮かんだのだ。


「それは助かる! 闇結晶が減り難儀しておったのよ。最近はこそ泥がおってな。この前などごっそり持って行かれた」


「アマルモンよ。おぬしとセーレがおれば冒険者が何百人来ようと皆殺しじゃろう。上層のクズみたいな闇結晶などくれてやればよいではないか」


「いや、こそ泥というは帝国の冒険者じゃない。連合国側から侵入する連中で、奴らは魔王を使役しえきしていて厄介なのだ」


「もしかして、その魔王というのはバフォメットではあるまいな?」


「ああ、山羊顔のいけすかない奴だ」


 それを聞き、ファムの口元が吊り上がった。


「マリ、わしらはここで別れる。こそ泥を退治することに決めたのでな」


「わかったわ。わたしは聖都に帰って母に報告する。数日したらここに戻って来るから、それまでは慎重に行動してね」


 こうして、マリはダンジョンの調査を終えたのである。

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