第68話 義妹は、暗黒教団壊滅を目指す
暗黒教団アノニムス。
それは実在性も疑わしい闇の教団だが、その影は確かに存在していた。
暗殺を生業とし、聖女シフの暗殺を企む邪教の集団は、あまつさえ政治中枢にさえ、教団員が潜伏しているという。
……情報源が
それで肝心のとんでもないネタを贈ってくれたバリーはというと、アノニムスの調査をしているらしく、貴族街の方に消えていった。
あのヘボ探偵、妄想と現実の区別が付いているのかどうにも怪しいのだけれど、一応真面目に調査しているみたいね。
正義感を持つのは良いことかも知れないけど、妄想と区別がつかないなら、タダの痛い大人でしかない。
「アノニムス……聖女様はなにか知っているのかしら……ううん、知らないわね。知っていたらもっと反応は変わっていた筈」
私はこれからの行動を探る。
とりあえず一旦病院に戻りますか、ルビーに申し訳が立たないもの。
私はそう思うとその足は病院へと向かった。
§
「おまたせ」
私の宿泊している病室、すっかり空模様も茜色で、ベッドには嫌に無表情な『私』がベッドに大人しく横たわっていた。
私は病室の窓から部屋へと忍び込むと、目の前の『私』はどろどろと溶けるように変質して、銀髪の儚げな少女に変化した。
言わずもがなルビーであり、彼女は少しだけ不満そうに口元をへの字に曲げた。
「まさか身代わりをさせられるとは」
「ごめんねー? まあ今日だけだからさ?」
ルビーにしていたお願いとは、私に変身して身代わりになってもらうことだった。
私は手を合わせて謝罪すると、ルビーはため息を吐く。
「よもやあのような形でアイデンティティの喪失を怖れなければならないとは」
「そんなに変身するのは嫌だったの?」
「嫌というより、他人に変身するということは身も心も変化する必要がある……とても気を使う上、私が喪失しそうで怖かったです」
ルビーはそう言うとしょぼんと項垂れた。
他人に変身することが、自身のアイデンティティの喪失に繋がるって言われてもよく分からないけど、ルビーには深刻なのね。
いつかお詫びはしよう。私はそう誓った。
「では、私はもう帰ります」
「ああ、うん。……あ」
ルビーはベッドから立ち上がる。
私はあることを聞きたくて、ルビーの足を止めた。
「ねえルビーって、長い間魔族として生きてきたのよね?」
「当然です。魔王に仕えていたのですから」
ルビー自身は主様一筋の奉仕者、誰に仕えようと、善悪は存在しない。
魔王に仕えようが、兄さんに仕えようが、本人の思想になんの変化もないのは、まさにプロフェッショナルね。
私も冒険者のプロ意識を持っているが、ルビーには素直に感服するわ。
でも、だかこそ『もしかしたら』があるかも知れない。
私はある組織のことをルビーに聞いてみた。
「アノニムスっていう教団を知らない?」
「アノニムスですか……そういえば前の主様であるヘリオライト様が何か仰っていたような?」
「え!? ビンゴ? 何でもいいから知ってることを教えて!」
まさかの大当たりか、ルビーは思い出そうと顎に手を当てた。
私は興奮気味に食いつき、ルビーの僅かな情報を求める。
「思い出しました。邪神崇拝をする組織がアノニムス、混沌の眷属で、再び騒乱を引き起こそうとしている組織だと聞きました。ヘリオライト様はさしたる興味もありませんでしたが、敵対する可能性はあると」
邪神崇拝か……聞いててゾッとするわね。
差し詰め邪神を降臨させて、もう一度二十年前の再現をしようって?
あのヘボ探偵ではなく、ルビーからの情報なら信憑性はある。
予想以上に物事が大きくなってきたわね。
「本拠地とかは……流石に知らないわよね」
「申し訳御座いません……流石にそこまでは」
ルビーはそう言うと頭を下げた。
そこまでしなくても十分過ぎる情報を得れたんだから気にしないのに。
「ありがとうルビー、兄さんによろしくね」
私は病室を出ていくルビーにウインクすると、ルビーはペコリと丁寧に頭を下げた。
「はい、ガーネット様こそ、何かあればご用命を」
「うん。その時が来たらまた頼るかもね?」
それだけ言ってルビーは病室を出て行った。
一人になると私は貴重な情報から、これからどうするべきか考慮する。
とりあえずアノニムスという組織は潰す、シフ様だけでなく、そもそも社会を混乱させるような存在を私自身見逃すつもりもない。
「おい、
おっと、ルビーが居なくなったと思ったら、直ぐに次の来客か。
来たのはギルドマスターのザインだった。
昼にも一度顔を見せたのに、まただなんて結構ギルドマスターって暇なのかしら?
「悪いけど、もう退院するわよ? 私だってやることあるんだから」
「……それが替え玉用意して外に出ていた理由か?」
ギクリ、あれ? とっくにバレてた?
私は思わず顔に出すと、ザインは「はあ」とため息を吐いて顔面を手で抑えた。
「おかしいと思ったんだよ、さっき出て行った子、ちょっと前までいなかったし」
「なによ、幼気な少女を監視してたっての、この変態!」
「なっ!? 違うぞ! たまたまだ! そう、たまたま!」
ザインは逆に慌てて釈明する。
本当かしら? 私は半信半疑でザインがロリコン趣味でもあるんじゃないか疑ってしまう。
ザインは顔を赤くて「コホン」と咳を打つ、彼は真面目な顔をした。
「あーでだ? お前が体調管理を無駄にしてまで外に出たんだ。実りはあったんだろうな?」
「……まあね。と言っても直ぐに反撃とはいかないんだけど」
「で、何を知った? お前がタダで転ぶとは思えん」
「アノニムスって知ってる?」
私はある程度得れた情報をザインに教える。
ザインは少し驚いた顔をした。
てことは知っているのね。
「噂レベルだが知っている……だが実在するのか?」
「多分ね。聖女シフ様はアノニムスに狙われている」
ザインはそれを聞くと更に難しい顔をした。
一体彼はどれ位情報を持っているのだろう?
「ギルドマスターはどれ位ご存知なのかしら?」
「あくまでも噂だ。
「……どこかで暗殺が行われた証拠とかはあるの?」
「いいや、奴らはプロだ。ここでという所でない限り、足跡さえ残さないだろう」
私はあの森の中の襲撃、いいえそれよりも前のことを思い出した。
本来ならありえない規模のガルムの群れに遭遇した。
シフ様はあのガルム達は気が立っていると仰っていた。
まさかあの段階で既にアノニムスは暗躍していたの?
ならば、ますますやり返さないと気が収まらないわね。
「王宮にアノニムスの教団員が潜伏しているって話は?」
「いいや……だが、ありえるのか?」
やっぱりザインが知っていることは今の私とあまり変わらないか。
だけど老いてもザインは決して衰えてはいない。
「しかし、だとすればお前は嵌められたのか?」
「多分偶然だとは思うけれど」
ザインはグッと握った拳を振り下ろすと、怒りを露わにした。
ギルドの団員が狙われたのだから当然なのかも知れない。
「私はアノニムスを探す」
「……団員が狙われたなら俺も黙ってはいられないな」
私達を狙う者がいるならばギルド全体で対応する。
さあ、反撃よ!
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