第93話 義妹は、ダンジョンについて考察する
カツカツカツ、地表から伸びる真っ直ぐな石段。
周囲もブロックが敷き詰められ、ダンジョンは頑丈に造られている。
私は自らダンジョンに挑んだことなど殆ど無いから、結構勝手が分からず戸惑った。
陣形は先頭が私で、後ろにグレース君、テティス君、ロイド君だった。
ロイド君は「なんで俺が先頭じゃないんすか?」と不満を漏らしていたが、戦闘ならいざ知らず、あんな注意散漫な子に地雷原を歩かせられるものか。
私はリーダーを任された以上、パーティ全員の生還を祈る。
そしてその為に最善を尽くすのみだ。
因みにロイド君が一番後ろなのは、バックアタック対策でもある。
まあ国が管理するダンジョンにそんな危険はないと思いたいけど。
(これでも、一人でも死者を出したら責任問題よね……)
私はそう思うと緊張した。
そんな様子を気にしたのか、グレース君が声をかけてくる.
「大丈夫ですか? なにやら緊張しているようですが」
「まぁね、身震いってやつ? 皆の無事に最善尽くさなきゃだし」
「私も可能な限り補佐をさせて頂きます」
「うん、ありがと。頼りにさせてもらうわ」
やがて階段が終わると、遺跡の中は暗闇だった。
私は携帯バッグから、あるアイテムを取り出す。
「それっと」
私は中空にそれを投げ込むと、パンと音と同時に光が溢れる。
魔道具ホーリーライトの結晶は、神官が使う魔法の
松明やランタンの比べたらコスパは悪いけれど、手持ちする必要がないから重宝する。
「うわ! なにそれ!」
「まあ君たちだと縁はないかしら」
ロイド君は今回驚き役ね。
ホーリーライトの結晶はちょっと高価だ、私位だと複数購入も無理ではないけどね。
普段屋外なら夜でも星や月の光で充分見えるけど、流石に洞窟ではエルフの目を持ってしても見えない。
光源がそもそもないんだから、見えないのは当たり前だけど。
ホーリーライトの結晶の効果時間は大体三十分、ある程度の数は確保しているけど、さてどれ位の広さかしら?
「マッピングは私がします」
「魔法使い君、手慣れているわね? やっぱり君の方がリーダー向いてない?」
グレース君はどうやら
マッパーがいるなら、そこまで時間はかからないと思いたいわね。
「総合的にガーネットさんが向いていると思いますよ」
「そうかしら? あんまり自信無いわ」
私は一本道を歩く。後ろはついてきているか、足音から確認し、慎重に進んだ。
「……ッ!」
私は足を止めた。
道はただ一本道、不自然な程に。
私が停止すると、後ろから声が聞こえた。
「どうしたんです? ダルマギクさん?」
「もしかしてトラップか!?」
「さて、どうかしら……?」
私は真剣な眼差しで周囲に目を凝らす。
違和感を感じた、直感を信じるのは私の主義だ。
一体なにがおかしい? 私は何に違和感を覚えた?
「このブロック……色が違う?」
私は通路の側面に触れた。
どこまでも無限に広がるかのように錯覚しそうだ。
というよりこの構造少しおかしくないかしら。
私は念の為にグレース君に質問した。
「魔法使い君、このロクシューナ
「なんでもですか……そうですね。ここは元々真の勇者か試す為に神々が用意したと言われています」
「ふーん、てなるとトラップの可能性もあるか」
「ただ、真なる勇者は力だけでなく、知恵や勇気も求められました」
力、知恵、そして勇気か。
いかにもテンプレートって感じの文言だけど、意味はあるんでしょうね。
ダンジョンの雰囲気はどこかおどろおどろしい、これが勇気を試すということかしら?
「勇者は聖なる剣を手に入れる時、世界を救うとも言われてますね」
「二十年前もそうだったのかしら?」
兄さんが実際に体験した人魔大戦、その戦争で魔王を仕留め、戦争を終結させたのが勇者だという。
でも……私はふと疑問に思ったことをグレース君に聞いた。
「勇者は聖なる剣を手に入れたのでしょう? もうここには聖なる剣は無いんじゃ?」
「どうでしょう……聖なる剣は役目を終えると、勇者の下を去ると言います」
「なにそれ? まるで剣に意思があるみたいね」
「あるみたいじゃなくて、あるって話ですよ」
不意にグレース君の後ろ、テティス君が口を挟んだ。
意思を持つ剣、さしずめ勇者のお目付け役ってこと?
私は武器に意思が必要かと問われたら、それは不要だと思う。
兵器に善悪を判別する必要はないように、どんな使い手の剣であれ、命を奪えば、所詮は殺しの剣でしょう。
「もし戻ってくるなら、聖なる剣って言う割には、随分血塗られた剣でしょうね、一体どれだけの血を吸ったことやら」
私がそう言うと、一番後ろのロイド君が背筋を震わせた。
「おっかないは話やめてくれ!」
「そうです、聖なる剣をまるで妖刀のように!」
何故かテティス君が憤慨しているけど、テティス君はなんだか英雄に憧れでもあるのかしら。
私は正真正銘の英雄を一人だけ知っている、その英雄はどんな命であれ奪った命に、鎮魂の黙祷を捧げる人だった。
崇高なお人だったが、そのせいで彼女は権力闘争に利用され、あげく邪教集団に魂を狙われた。
英雄とて人よ、優しい英雄もいれば、残酷な英雄もいる。
時として英雄には残酷さも求められるのだから。
「なぁダルマギクさん、ところでいつまでここで足止めするんだ?」
おっと、ロイド君が痺れを切らし始めているわ。
このままじゃロイド君が暴走するかも知れないわね、さてどう判断するべきか。
「ダンジョンの広さが分からない……けれど、知恵も試すのよね?」
知恵、あるいは勇気か? 私は意を決すると、色の違うブロックに触れた。
触った感じあくまで普通のブロックだ、けれど押し込むとブロックの後ろに空間を感じる。
ビンゴかしら、私は迷わずブロックを押し込んだ。
ゴゴゴゴゴ!
ダンジョンが振動する、さて何が起きるやら?
後ろの三人は緊張しているわね、私はより一層気を引き締める。
「壁が! 隠し階段?」
色違いのブロックがあった、壁が上にスライドする。
その先にあったのは、螺旋階段だった。
「行くわよ?」
私は確信した、もう冒険者への試しは始まっていたのだ。
恐らく最初の一本道は、無限ループする通路ではないだろうか?
ダンジョンにはその多くに、今の人類には原理さえ解明出来ない技術が使われている。
神々がどんな意図を持ったか、それを想像すればここから更に試練は続くのでしょうね。
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