第92話 義妹は、ダンジョン前で準備を整える
ロクシューナ
国家が管理する国営ダンジョンの一つだ。
ピサンリ王国から馬車で一週間、私は北部に近づくにつれて肌寒さを感じていた。
「ダルマギクさん、その弓……機械式ですか?」
「えっ? ああ……うん、デビュー以来ずっと使ってるから、もう至るところにボロが出てるけどね」
最後のミーティング、ダンジョンの入口で私達は装備品の点検をしていると、テティス君が興味深そうに聞いてくる。
私が使っているのはいわゆる機械式……なんだけど、本来の照準システムが壊れている性で、マニュアルロック式なのは内緒だ。
オートボウガン系は憧れるけど、お値段が高いのよね。
一方テティス君はというと、素朴な木の弓だ。
大きさも私のより少し小振り、ショートボウとロングボウの中間だろうか。
照準器さえ付いていないそれは、正真正銘己の腕に全てを捧げた弓ね。
「私のはイチイの木に雨露蜘蛛の糸で作った弓です」
「ふーん、そんなの使うんだ」
「そんなの?」
「ああ、ごめん! 別に侮辱するつもりはないのよ?」
私は慌てて、訂正すると矢の方のチェックに移る。
古き良き伝統の森エルフだからか、私とは大分感性が違う気がして、この子と会話するの神経使うわね。
良く青年二人もこの子と組めるわ。
あ、逆か……私の方がよっぽど一匹狼だったわ。
「鉄の鏃……」
「今度は何!?」
テティス君、鉄の矢を見て、眉を
私は流石に彼女に突っ込んだ。
「い、いえ……私達誇りあるエルフは鉄を用いませんから、少し珍しくて」
「そ、そう……」
ん? その意見だと私エルフ扱いされてない?
いやいや、カビ臭い森エルフの価値観に賛同出来ないだけで、私だってエルフよ!?
そりゃ街エルフは珍しいかも知れないけどさ?
「い、良いものは良いものよ? あんまり固定観念に囚われていると、足元掬われるわよ?」
私はなるべくやんわりとそう言った。
テティス君の装備は実に簡素だ。防具も金属を用いず、布と革で済ましている。
私と違って、金属を
「テティスは
「ちょ、ちょっとロイド!」
正直あの二つ名は嫌なんだけど、彼らの夢は壊しくたくないし。
「ドラゴンを征伐し、かの聖女の身に起きた災厄を払い、王国の危機を防いだ! テティスじゃなくても憧れるっすけどねー!」
ロイド君はそう言うと、朗らかに笑った。
彼はロングソードを一振り持つだけ、盾とかは持っていないわね。
動きやすさ重視で、鎧も軽装だ。
シフ様の件はなんか尾びれがついている気がするけど、一般にはそう伝わってるの?
アノニムスの件は知られてないみたいだし、面倒な担ぎ方してるわね。
「はぁ……魔法使い君は準備できた?」
「すみません、もう少しお待ちを」
グレース君はそう言うと、魔導書を入念に確認しているようだ。
魔導書って改めて初めて見るわね。
兄さんは母上様から口伝で教わったそうだし、サファイアも特に魔導書を持っている姿は見たことがない。
そもそも魔導書ってなんの役に立つのかしら?
魔導書があれば私でも魔法って使えるの?
「グレースは慎重なんすよ、魔法のチェックもいつも時間かけるから」
「ロイドは楽観的過ぎるだけだ」
「二人共喧嘩は駄目よ」
三人の役割、なんとなく分かってきた。
真面目で冷静なグレース君に、お気楽なロイド君、そして仲裁役のテティス君ね。
私ずっと一人で仕事してきたから、結構気を使うわ。
私は矢の確認を終えると、最後に特徴的な形のサバイバルナイフの点検に入った。
それにビックリしたのはロイド君だ。
「え? なんで後衛がナイフを!?」
「……あのね? 私普段は
後衛が接近戦のリスクを無視していい理由にはならない。
私は少し厳し目にロイド君を見る。
彼は想像力が足りないかも。
「貴方達、もし周囲を囲まれたらテティス君を守りきれる?」
「そ、それは……」
「はっきり言うけどロイド君、バックラー位は装備しておきなさい、貴方しかこのパーティにタンク役はいないの」
「う、うす!」
ロイド君、素直な所は美徳よ。
楽観的だが忠告を無視する程ではなさそうだ。
兎に角彼の装備はちょっと心許ない。
勿論重装備は動きが阻害される問題もあるし、技量次第でどうとでもなるけれど。
(どこぞの剣聖は、どうせ防具は役に立たないって言い切っていたけど)
私はあの
あの化け物は、もう人の可能性を超越してるから参考には出来ないわよね。
ていうか、どこに剣の風圧だけで鉄を斬れる人間がいるのか。
間違いなく、世界で五指に入る人族でしょうね。
「それにしても、変な形状のナイフですね……?」
テティス君はナイフに興味を持ったようだ。
本人は何も接近装備はないらしいけど、まさか身のこなしに全振り?
「一様これ、投げナイフなんだけどね」
私の愛用するサバイバルナイフ、正式名称をマチェーテだっけ?
元々密林で使用されたナイフで、接近戦でも使えるし、鎌代わりも出来る。
そして投げナイフとして使っても、威力があって好みなのよね。
欠点は結構重たいんだけど。
「終わりましたダルマギク様」
「様付けなんて要らないわ、ガーネットって気軽に呼んで」
私はウインクして、フレンドリーに接する。
しかし冷静理知なグレース君はあまり動じない、ちょっとつまらないと私は思った。
「ではガーネットさん、ご采配を」
「え?」
「この中で一番等級が高いのはダルマギクさんです」
テティスに指摘されて私は「あ」と思い出した。
ついソロ専だったから、イマイチパーティのリーダーってのに慣れていない。
通常
「えーと、慣れてないけど、それじゃダンジョンに突入するわよ!」
私がそう言うと、ロイド君は元気よく「おー!」と掛け声を上げた。
テティス君も弓を手に持ち、グレース君は杖を持った。
私達はダンジョンに向かう。
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