第131話 田舎少年は、決闘に挑む

 剣術ってのは、己を高めるもんだって誰かから聞いていた。

 ただの農民の一人に過ぎなかったオラにとって、剣の道は憧れではなかった。

 学のねえオラにとって、村に孝行こうこう出来るならなんでも良かった。

 剣の腕があると騎士への叙勲じょくんが見えてくると聞いた時、自ずと道が開いた。

 勿論剣の腕があるだけじゃ、騎士にはなれねぇ、そんな甘ぇ話はねえ。

 教養や作法、学ばないといけねえ事は山程ある。

 何度も言うがオラ馬鹿だからなぁ。


 オラに小さな転機がきたのは、剣術科の授業を受けていた時だ。

 オラ……強くなるのが好きみたいだ。

 ずっとくわさ握って、荒れ地を耕す時は知らなかった。快感だった。

 そしてもう一つのこっちはきっと大きな転機がきたのはローズさん、なんだろうな。


 ローズさんは不思議な人……ううんアレはもっとトンチキな人だ。

 いつも何考えてるか訳分かんねえし、そのくせ時々核心を突いてくる。


 オラって何者になれるんだろう?

 ローズさんは勇者の資質があるって言うだ。

 勇者の資質とは諦めない意思だって。

 オラ、確かに諦めは悪いと思ってるだ。

 それでも誰かを傷つけて強くなるのはやっぱり違うと思うだ。

 けんど、オラ思い上がっていたかも知れねえ。


 オラをやたら敵視する……ライバルっつーのかな?

 リクル君っつー、同期の生徒がいるんだけど、オラリクル君と戦うのがずっと複雑だった。

 リクル君の剣はずっと憎しみが籠もってるつーか、怖い剣だった。

 けど、本当のリクル君はずっと努力家で、ちょっと意地っ張りなんだ。

 オラ、リクル君と戦うことが楽しいって思えた。

 ああ、もしかしてこれがオラなのかも。

 オラも強くなりたい、強くなるのを実感するのが嬉しい。


 オラにとって剣とはなにか――あともう少しで答えは出そうだった。




          §




 「あっ、アルト君、申し訳ありませんが体育館に来てもらえますか?」


 その日の放課後、コールン先生が突然オラを呼び出してきただ。

 変だな? といぶかしみながらも、オラは素直に従った。

 決闘の日までもうそんなに残っちゃいねえ。

 一体コールン先生は何考えてるんだろうなぁ。

 オラ考えるのはやっぱり苦手だ。

 この欠点はやっぱり解消するべきだよなあ。


 さて、コールン先生に黙ってついていくと、体育館に辿り着いた。

 普段は部活で忙しい体育館だけど、今日はちょっと不気味なくらい静かだった。


 「あのー、失礼しますだ」

 「来たかアルト君」

 「ニコル君?」


 体育館にはここ最近馴染んできた獣人族のニコル君がいた。

 そしてもう一人……リクル君は無言でオラを一瞥した。


 「えと、なんでオラ呼ばれて」

 「それなんですけどね、ニコル君と相談した結果なんですけど、アルト君、そしてリクル君を決闘に出場してもらう事に決定しました」

 「えっ!? オラが? オラより先輩たちの方がよっぽど良いんじゃないだか?」

 「一理ある……が、可能性で言えば、コールン先生の薫陶くんとうを最も受けたのは君やリクル君だろう?」

 「俺はなんでも良い、負けるつもりもない」


 思わず絶句する。

 リクル君はとんでもない大言壮語たいごんそうごを言い、オラ思わずコールン先生を見た。


 「大丈夫です、普段どおりで充分ですから」

 「先生の言うとおりだ、後はどちらが決闘に出場するか、だが」


 ニコル君はオラとリクル君を交互に見た。

 まだ決めかねているという表情だった。


 「あの……本当にオラでいいんだか? オラなんてまだまだだ」

 「当然だな、俺は勿論、先生もそんなにやわじゃないからな」

 「自分で戦えたら一番気楽なんですけどねー」


 先生の実力はよく知っている。

 普段からのほほんとした人だけど、剣を振るえば誰も敵わねえ。

 文字通り底が見えねえから、コールン先生の授業を受けるのは意義があるんだ。

 ニコル君も同様だ、一朝一夕でニコル君の強さは得られねえ。

 世の中強い人は強いんだって、本当に身近で知ることが出来た。

 だからこそ、オラでいいんだろうか?


 「本当に、本当にオラでいいだか?」

 「ち……アルト、テメェが自己評価をいさめるのは、俺の価値も下げるんだよ、いい加減にしやがれ!」


 イライラが高まったリクル君は、オラの胸ぐらを乱暴に掴んだ。

 オラビックリするが、そんな事よりリクル君は言った。


 「お前には才能がある! クソムカつくが俺よりもだ! だからテメェが卑下ひげしたら、俺は一体なんなんだ! ああん!?」

 「どぉどぉ、喧嘩は駄目ですよ」


 あんまり動じてないコールン先生は笑顔でリクル君を引き剥がした。

 リクル君は面倒そうに頭を掻く。

 オラはなんも言えなかった。

 オラが自分を卑下したら、リクル君を傷付ける?

 そんな考えたこともなかっただ。

 きっとローズさんなら、だからアルトは馬鹿なのだっとか言うんだろう。

 実際オラ馬鹿だ、オラが無意識にリクル君を傷つけているのも知らず。


 「強さってな、実感しづらい……アルト君はな、むしろ恵まれ過ぎたのかもな」

 「オラが、恵まれすぎ……え?」

 「強さに果てはない、しかしその前に大抵は増長し、己に限界を設ける……アルト君の良いところは果てを僅かでも知っているということだ」

 「ちなみに私もまだまだですよー」


 辺境の剣聖がまだまだと言うと、その上を知っているんだろうか。


 「二人の調整はニコル君に担当してもらいます」

 「先生では駄目だか?」

 「私は教師ですので、他の生徒もみないと……それに、私だと見落としがあるかもしれません。これはニコル君が適任です」

 「というわけだ。短い付き合いになるが、よろしく頼む!」


 ニコル君は爽やかな笑顔で手を差し出した。

 オラは戸惑いながらも、その手を握る。

 リクル君も同様に握手し、承諾した。

 こうしてオラ達は決闘に向けて最終調整が始まった。

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