第153話 義妹は、しばし休憩
合格者はここに
私は休憩室に入室すると、中にはすでに二人先客がいた。
その内の一人、長耳を揺らすエルフ――テティスさんは嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ガーネットさんも予選通過ですね」
「当然よ、先に通過されたのは
「ふふっ、ガーネットさんは出遅れましたから、ガーネットさんは何本当てましたか?」
「四本だけど?」
私は素直に答えると、彼女は猫のように目を細めて微笑んだ。
あら、そんな顔も出来るのね、新発見だわ。
けれどこの笑顔、つまり結果は――。
「私は五本ですっ、正確さは私のほうが上のようですね」
「
「しかし弓の正確さだけを、弓使いの実力とは思ってはいません」
テティスさんは目を閉じると、己を
彼女なりの
森の
「本戦ではさらなる実力をお見せ出来るでしょう」
「それはこっちも同じよ」
私は片目を閉じてウインクする。
あくまで
「ふふっ、楽しみです」
そう言うと彼女は近くの
私はテティスさんから、もう一人に視線を移した。
離れた
ただ少女は私達をじっと無言で見つめていた。
「ああ、ごめん。うるさくしたかしら?」
私は愛想良く謝罪すると、彼女はふるふると首を小さく横に振る。
「気にしてない、私、平気」
少女は
共通語が苦手なのかしら、宝石のような輝く青い瞳は大きく、幼そうに見えるわね。
「そう、貴方どこからきたの?」
「え、と……」
少女は困ったように
ありゃ、ちょっと失礼だったかしら。
やっぱり先に自己紹介からするべきよね。
「
私はそう言うと握手を求め、手を差し出す。
しかし少女は握手を理解出来ず、首を傾げた。
うーん? 握手が通じない異文化圏かしら?
となると、キッカ国の人とか?
「私、アーチェ、言います。よろしく、です」
アーチェという少女は、言い切ると鼻を近づけてきた。
えっ、と驚くのも束の間、彼女は私に鼻タッチした。
私は顔を真っ赤にして飛びのくと、座っていたテティスさんが
「その子、それが挨拶なんですよ」
「え? あれが? ありえないでしょ……」
「それがあり得るんです。彼女は旧ウォードル帝国出身だそうですよ」
今は
なるほど、ウォードルの忘れ形見といえる亜人の一種なら、こんな異文化コミュニケーションも納得いくわ。
「えと、アーチェさん? その挨拶こっちでは
少なくともこの娘かなりの美少女だし、男子の
少女はそれを聞くと、しょんぼり肩を落とした。
「貴方、一体どういう理由でブリンセルまで来たの?」
「姉、一緒、来ました。観光、です」
「あら、お姉さんもいるの?」
「姉、参加、勧めた、だから、ここ、いる」
ふーん、ようするに観光がてら大会に出た、と。
正に野生の天才が出てきた訳ね。
こりゃテティスさんだけじゃなく、こっちも要警戒だわ。
「観光なら、この後精一杯楽しんでね」
私はそう言うと、彼女は笑顔で何度も頷いた。
ふふっ、やっぱり可愛い子ね。ついお姉ちゃんぶっちゃう。
妹が欲しいなんて思ったことないけど、悪くはないかもね。
「…………」
だけど、そんな状況にだんまりしてしまうテティスさん。
テティスさんの視線は何度も私に注がれていた。
私にはテティスさんの想いは分からない、憧れなのか、それとも
あるいはもっと複雑なの?
森エルフの心境は
ガチャリ、不意に休憩室の扉が開かれた。
入って来たのは実行委員の女性だった。
「これより本戦を始めます、ご同行お願いします」
「たった三人で?」
テティスさんは無言で立ち上がる。
アーチェさんも、立ち上がる。
こちらも問題なさそうだ。
三人で本当に大会は盛り上がるのかしら?
やるってなったら私もやるしかない。
せめて兄さんへの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます