第84話 おっさんは、テンとルルルと談話する

 「ルルルちゃん! それどこで買ったの?」


 夕暮れ時、自由時間を思い思いに過ごす仲間達。

 おっさんはテンと一緒に行動するが、途中でルルルを発見した。

 ルルルはイカの串焼きを頬張っており、テンはそれが気になったようだ。

 たしかにそろそろ小腹も空いてくる。だが晩餐は皆集まってするつもりだからな。


 「そこの屋台でや、おっさん達も食べるか?」

 「うう、ボクお腹空いたかも……」

 「一食くらいなら構わないが、この後皆で食べるんだから、それは忘れるなよ?」

 「あっ、そうか! ううぅ……それなら我慢我慢っ」


 テンはそう言うとお腹を抑えた。

 空腹に対してある程度強いだろうテンだが、あまり我慢するのも難だな。


 「一品くらい良いんだぞ?」

 「でも我慢すれば後で美味しい物いっぱい食べられるんでしょ?」

 「あはは、そんなん楽しんだもん勝ちやろ?」


 そう言うとルルルは最後の一切れを口に入れた。

 テンは「ああぁ」ととても残念そうな声をあげ、お腹を抑える。

 よっぽど食べたかったのだろう、我慢症も程々に、だな。


 「軽く入れよう、おっさんが奢ってやる」

 「えっ? ホンマに!」

 「ルルルは別だ、あくまでテンにな!」

 「なんや残念、奢ってくれるんなら、なんでも貰ったんになあ」


 ルルルらしいというか、そのがめつさはおっさんも目くじらを立てる。

 現金主義というか、ルルルは生に執念を感じる。

 まあ家が貧乏とあれば、何にしてもハングリー精神が身につくのは当然かも知れないが。


 だが本当にどん底を知るテンは、そこまでがめつくはない。

 本当の底にいる者は案外謙虚さが身につくのだろうか?


 「ほら、行こうテン」

 「でも……良いの?

 「好意は素直に受け取るもんやで、タダより怖いもんはないけどな!」

 「どっちだよ! 全くルルルの奴」


 安請け合いはしてはいけない、確かに往々にそんなことはある。

 詐欺なんて大抵は甘い言葉の裏にあるからな。


 「うーん、それじゃ甘えちゃうね?」


 テンははにかむと、そう言った。


 「お、おう」

 「ん? どないしたんや先生?」


 思った以上にテンのはにかむ笑顔は可愛く破壊力があった。

 不覚にもおっさんは顔を赤くしてしまったのだ。

 やれやれ、ロリコンじゃないんだがな……。


 おっさんは財布を確認すると、次々とイカを鉄板で焼く屋台に近寄った。

 鉄板の上で踊るイカは足を丸ませ、そこに醤油が掛けられると、たまらなく香ばしい臭いを放っていた。

 ううむ、これはルルルでなくとも食欲をそそるな。


 「イカ焼き一つ」

 「あいよ、トッピングはどうします?」

 「どうするテン?」

 「じゃあマヨネーズ」


 屋台の店主はイカ焼きを串に刺すと、そこにマヨネーズを波模様に掛けていく。

 醤油のソースがたっぷり浴びせられたイカに鮮やかなマヨネーズは大変旨そうだ。

 おっさんは代金を支払うと、イカ焼きを受け取ってテンに差し出した。


 「ほらテン」

 「わーい、ありがとうグラル!」


 テンは余程お腹が空いていたこともあり、パクリと齧り付いた。

 イカ焼きを咀嚼するとテンは「んー」と至福の笑顔を浮かべる。

 本当に旨そうだな……。俺も買うかこれは悩むぞ。


 「うふふ、ボクマヨネーズ大好きなんだよねー」

 「へえ、せやったんか。なんでも食うてるから好き嫌いなんてないと思っとったで」

 「そんなことないよー、ボクなんでも食べるけど、野菜は苦手だし」


 獣人族には一部だが野菜を全く受け付けないという者もいる。

 狼系や猫系の獣人は大抵完全な肉食で、野菜は消化出来ない。

 全てがその限りではないが、血が濃い程完全な肉食や草食なんて性質は出るようだ。


 「せやったんか、そら知らんかったわ」

 「ルルルはどうなんだ? お前も苦手な食べ物はないのか?」

 「あらんな! 腐っとるもん以外はな!」


 そう言ってキラリと健康な歯を見せるルルル。

 綺麗な歯並びといい、流石は悪食。


 「じゃあ逆に好きは?」

 「ウチの好きなもん? 濃い味付けのもんやったらなんでも好きやで」


 なるほど、なら特濃ソースは好みの筈だ。

 ルルルは学食では食べやすさでサンドイッチを食べている機会をよく見るが、本当はカレーライスみたいなのを好んでいたものな。


 「あむあむ、本当ありがとうねグラル」

 「うん? 一体どうした?」


 突然テンが感謝しだした。

 おっさん理解出来ない、テンに感謝されるようなことをしたか?


 「ボクはグラルがいなかったら、こんな素敵な体験絶対に出来なかった。だからありがとう!」

 「逆上せるなー、なんやねんそれ、惚れとるんかーい」

 「大人をからかうなよルルル、テンも感謝する程じゃない。学生時代くらいやりたいことは、どんどんやっていけ」


 テンは「うん!」と笑顔で頷いた。

 俺はうむりとその返事に満足する。

 ルルルは散々茶化してくるが、おっさんはやっぱり教師だからな。

 子供たちの幸せは願ってしまうものさ。


 「おっシャトラとアルトがおった!」

 「え? どこ?」


 ルルルが指差した先、シャトラとアルトは仲良く談話しながら歩いていた。

 あの二人そこまで接点はなさそうだが、菜園を管理する園芸部のシャトラと、ガチ農家のアルトなら話が合うのだろう。

 聞き耳を立てると、夏は何を植えるべきか、注意すべき点や肥料選びなど、おおよそ学生の会話かこれって、内容を話していた。

 そのまま監視する訳にもいかない、ルルルは出歯亀を狙っているみたいだが。

 浮ついた話もないようだし、おっさんは後ろから声を掛けるのだった。


 「おーい、二人共」

 「え? あっ先生?」

 「それに皆だ!」


 二人は振り返る、着々合流してきたな。

 そろそろ時間だ、さて今日はどう終わるのかな?

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