第67話 義妹は、探偵と情報交換し暗黒教団を知る

 「さて、と……」


 私はシフ様と別れると、静かに聖堂を出た。

 ここからは私があの謎の暗殺者集団を追跡する番だ。

 とはいえ、まだ何者なのかさえも把握出来ていないのよね。

 とりあえず冒険者ギルドで、そういった組織に詳しい人でも探しましょうか。

 蛇の道は蛇ってね、訳あり事情なら特に冒険者ってのは御用達だもの。


 「ん? アンタ、グラルの妹の」

 「え? あ……」


 私は兄さんを知っていて、声を掛けてきた相手を見た。

 ちょっと格好良いなと思うイケメンおじさん、その顔は前に見たことがある。


 「腕っぷしは良いけど、推理力は壊滅してるヘボ探偵!」

 「言い方ぁ! それより竜殺し嬢が、ここで何しているんだ?」


 そう言うとイケおじは盛大に突っ込み、逆に質問してきた。

 確か名前はバリー、そうバリー・キルタンサスよね。

 以前赤珊瑚の一件で関わったのだけれど、酷い捜査具合が印象に残る駄目探偵だったわよ?

 なんでそんな探偵が、教会前にいるのか?

 私は胡乱うろんげにバリーを見ながら、質問に質問で返す。


 「あなたこそ、教会になんの用? 今日は一般来場客は入れないそうよ?」


 まあ、そんな教会から出てきた私はどうなんだって感じだろうけど。

 しかも教会で戦闘用の装備って、冷静に考えたら無頼漢ぶらいかんそのものね。


 「……俺は依頼だ。アンタの兄さんからな」

 「えっ? 兄さんが? それってどういうことよ!」

 「それを知りたければ、俺の質問に答えな」


 兄さんがヘボ探偵に依頼を出している?

 私はどうしても兄さんのことになると、取り乱してしまう悪癖がある。

 バリーは鋭い視線を向けると、冷静に当初の質問に戻った。

 私は難しい顔で頭を掻くと、背に腹は代えられないと質問に返答した。


 「私も依頼よ、今はちょっと宙ぶらりんな状態だけど」

 「聖女シフの護衛か」

 「……て、知ってて質問したの?」

 「本人確認は重要だ。俺の仕事はアンタの身に何が起きてるのか調べて欲しいって依頼でな? お前の兄さん相当心配してるぞ?」


 私は心配してるという兄さんの顔を思い浮かべると、胸を抑えた。

 目頭が熱くなり、兄さんが私を想ってくれていると知れただけで、私は感動してしまった。


 「ふ、ふん! お陰様で順風満帆よ!」

 「嘘つけや、何があった?」


 私は「ふん!」と鼻息荒く強がると、流石に兄さんと同期のバリー、しっかり感情を見抜いてきた。

 てか探偵ではあるものね、基本的に人の機微きびには煩いのだろう。


 「聖星祭の巡礼が今中断しているのは知っている?」

 「ああ、聖女シフが護衛を伴って、ブリンセルに避難しているってのはな」

 「その原因だけど、シフ様は命を狙われているの」


 バリーは顔を険しくする。顎髭を擦りながらバリーは沈思黙考した。


 「相手の特徴は? どうせ正体は掴んでないんだろう?」

 「黒ずくめ、全員が黒装束で姿を隠し、集団による暗殺術に長けていた……それと嫌に下卑た気持ち悪い男も」


 生憎だけど言い返せない、私はあの集団が何者かさえ知らないのだ。

 少なくともある程度集団行動の訓練が施されていたのは間違いない。

 リクルートされた場末の兵士の動きではなかった。

 バリーは再び険しい顔のまま思考する。


 「暗黒教団アノニムスかもしれんな……」

 「なにそれ? 宗教団体?」


 突然聞いたことのない教団の名前が出てきた。

 脳筋の癖に、一体どこからそういう知識を手に入れているのかしら。


 「アノニムスの正体はよく解っていない。本拠地がどこかも、それでいてなんの神を祀っているのかも……。ただ噂では聖教会と敵対していると言われ、暗殺を生業にすると噂される」

 「何よそれ……眉唾じゃないの?」

 「かもしれん。だが否定する論拠も弱い、聖女シフとなれば、暗黒の神からすれば最高の生贄になるだろうな」


 私は思わずゾッと背筋が凍らせた。

 聖教会を憎み、暗殺を生業とし、そしてシフ様を至高の生贄に?

 ふざけている! 本当にそんな組織があるの?

 私は自分の憎悪を抑えながらその実在する可能性について質問した。


 「アノニムスが実在するとして、根拠は?」

 「もし暗殺を依頼する客がいたとすれば?」

 「まさか……アンタ、シフ様の暗殺について知ってるの?」


 私はバリーに食って掛かった。

 思えばコイツ、アノニムスに妙に詳しい。

 まさかとは思うけれど、もうシフ様の暗殺を依頼した客とやらを掴んでいるのか?


 「落ちつけ、まだ捜査はそこまで進んじゃいない。だが情報ってのはふとした場所から漏れることもあるんだぜ?」


 ふとした場所? バリーはニヤリと笑うと口元に人差し指を当てた。

 そして彼は私の耳に口を近づけると、小さな声で。


 「貴族御用達の訳ありの店だってあるもんさ、噂じゃ今の王政に不満を持つ貴族もいるって話でな?」

 「国家転覆を狙っているの? でもそれとシフ様にどう関わりが?」

 「聖女シフは国の宝だ、王を糾弾するには充分な材料かも知れないぜ……? それに――」


 ゴクリ、私は喉を鳴らした。

 徐々に徐々に陰謀は色濃く影を落としていく。

 最初この依頼を引き受けた時、貧乏クジを引かされたと思った。

 けど、それは計画的で、この国ではなんらかの言えないような闇の世界が蠢いている。


 「アノニムスは……王宮に潜んでいるとしたら?」


 それは……影を射抜く一撃となるのか。

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