間章 義妹は、飛翔する
私の名前はガーネット・ダルマギク。今更説明いるのって疑問に思うけど、一応ここから読む人向けかしら?
一般的義妹と言えば私のことよ、金髪翆眼のエルフと言えばそれも私なの。
容姿端麗、優れた身体能力、欠点はちょっと胸が足りなかったかしら?
そんな私は午前中に楽な仕事をちゃっちゃと終えると、ブリンセル冒険者ギルドに訪れていた。
依頼完了、報酬もきっちり受け取るとギルドの受付嬢と軽い談笑をしていたのだ。
「そういえば、ガーネットさん、赤珊瑚って知ってます?」
「赤
赤珊瑚といえば、ブンガラヤ共和国の特産品だ。
最上級の上物と言われる赤珊瑚を更にスキュラ族の器用な手先で加工して、初めて工芸品として完成する。
誰もが、その海の宝石とさえ言われる赤い輝きには目を奪われる。それ位あれは美しかった。
……それだけに。
「あのクソジジイ……赤珊瑚でアタシを
私はとある貴族にやたらねちっこくラブコールを受けていた。
大口の依頼者としては、羽振りも良いし、そこまで悪い相手じゃないけど、女を貴重品で買えると思われるなんて心外も良いところだ。
思わず拳をプルプル怒りで震わせると、受付嬢は察して苦笑いを浮かべていた。
「そ、それでですね? 最近赤珊瑚の盗難事件が相次いでいるみたいなんです」
「ここ最近赤珊瑚の市場価格が文字通り右肩上がりだものね、その内バブルみたいに弾けるんじゃない?」
「アハハ……そんな馬鹿な」
「勿論冗談よ、クス」
アタシは冗談を言うと、微笑んだ。
それにしても赤珊瑚バブルだって、所詮一過性のブームでしょうに。
その内
しかし不健全ね、市場価格暴騰の影響で盗難事件が増えてるんじゃ、治安悪化で国家の信用にも響くわよ?
「けれどガーネットさんって、やっぱり赤珊瑚のアクセサリー似合いそうですよね?」
「エルフだからって天然素材のアクセサリーに拘るつもりはないけど、なんか成金みたいじゃない?」
「えっ?」
受付嬢が心外って顔をしていた。
あれ? 私なんか間違えた?
「あ、あの、例えばヘアアクセサリーとかで、髪留めに使うなどすれば似合うんじゃないかって思ったんですけど……」
私はそんな姿を想像すると、急に受付嬢と意識が違いすぎて顔を真っ赤にした。
とんでもない勘違いしてたっ! ついあの成金貴族の献上品が豪華過ぎて一般人と思考がずれてたなんて恥ずかしいっ!
「そ、そうねー? それ位ならまあ良いかも」
私は必死に視線を逸しながら愛想笑いを浮かべた。
冒険者ってただでさえ勘違いされやすいんだから本当に気をつけないと。
私は変な奴の仲間入りなんてしたくないの、あんなの
「アハハ……もう帰るわ」
私は自分に隙を見せるなと自戒を施すと、荷物を背負って冒険者ギルドを出た。
兄さんもう帰ってるかしら? まだ時間も早いし折角午後が丸ごと空いたんだから、またプチデートしたいな。
ザワザワ、ザワザワ!
うん、なんだか街が騒がしい。
喧騒自体に興味は無いが、私は野次馬根性でそちらに向かってしまう。
「一体なにがあったのかしら?」
私は他の野次馬の声を優れた
喧嘩? 強盗? なんだかそんな言葉が何度か繰り返されていた。
強盗……そういえば赤珊瑚の盗難事件がどうとか、受付嬢が言っていたわね。
「まあ私には関係ない――……」
そう関係ない。兄さんじゃないけど、私は事なかれ主義な方だ。
だからそれを見なければ……その場を通り過ぎていた筈だ――。
「スキラ、怪我はないか?」
「う、うん……でもママから譲り受けたのに、アタシ、アタシ……ッ!」
ゾワッと、いけないドス黒い感情が湧き上がった。
青い髪青い瞳のスキュラ娘が、兄さんに泣きながら抱きつき、それを兄さんが優しく抱きしめていたのだ。
さあ、それは俗になんという展開でしょうか?
正解はNTR展開です!
……じゃないわよ! 馬鹿じゃないの! 馬鹿でしょ!
「兄さん……その女なに?」
「アイエ! なんでガーネットがここに!」
兄さんの情けない悲鳴、そう知られたくなかったのね?
私は思わず弓に手を付けかけた、が……流石に洒落にならないので手を抑える。
兄さん殺して私も死ぬ気になってたわ、いけないけいない。
「兄さん、これどういうこと? 怒らないから教えて頂戴?」
兄さんは顔を
相変わらず兄さんは分かりやすい、兄さんのことならなんでも分かるんだから。
この顔は兄さん困ってる時、本当にしょうが無い。
「……ガーネット、冒険者のお前に依頼をしたい」
兄さんは顔を上げると、そう言った。
私はポカンと口を開けると、直ぐにキリッと仕事顔になった。
「普通仕事はギルドを通して欲しいんだけど、まあいいわ、仕事は?」
「この子の大切な物が奪われた、今バリーという俺と同い年のおっさんが強盗を追っているんだが、その手助けをしてほしい」
手助け、ね……取り返せって素直に命令すればいいのに。
きっと意地ね、プライドなんて欠片もない癖に、変に意地っ張りになってる。
「報酬は……そうね。その子の事、後で説明して貰うから!」
アタシはそう言うと、
すると、私の足場から反重力が生じて、ゴミがサークル状に浮かび上がる。
「飛べ!」
私はこの古のマジックアイテムに指令を下すと、
衝撃も、反動もなにもない。まるでそこに固定されるかのような錯覚を覚え、私は優れた視力で目当ての相手を探した。
「見つけた!」
私は大弓を構え、接近する。
一発、なんでもない矢が放たれると、いかにもな強盗の足元に突き刺さった。
その後ろに
あの人がバリーね、兄さんの知り合いってことはやっぱり戦争時代の?
私が殆ど知らない事、唯一兄さんの話で戦争のことだけは一切知らない。
聞くのもトラウマを呼び起こしそうで聞けなかったし、あの人は知ってるのかしら?
て、いけないわ。強盗が道を変えた。
私は街を空から
そして、私は強盗に次々と矢を射掛け、強盗の進路を妨害する。
やがて強盗は袋小路に誘導された。
周囲は狭く、高いブロック塀に囲まれており、ここなら逃げられないでしょう。
私はイケメンのおじさまをじっと見つめる。
するとおじさまはニヤリと笑って、右拳を振り上げた。
「そう、大丈夫だって言うんだ。兄さんとは対照的ね」
兄さんは絶対にあんな自信を自分に持てない。
兄さんは本当は凄い魔法使いなのに、いつも謙虚で卑屈で自分を信じない。
あれくらい兄さんも自分を信じれたら、きっと凄い魔導師に……は、無理か。
結局はそんなの兄さんじゃない、兄さんはいつだって絶対はないって知っている。
神様の振るサイコロはいつだって偶然を含んでいるんだから。
「まあいいや、それならお手並み拝見」
あの兄さんが珍しく
仕留めるなら簡単。肩を射抜いて、足を射抜いて、脇腹を射抜けばチェックメイト。
私はスナイパーよ。ここからなら目を瞑っても当てられるという自信のある場所に、わざわざ誘導したんだもの。
私は距離を離すと、屋根に飛び降りた。
お膳立てはもう終わった。失敗したら承知しないよ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます