第134話 おっさんは、アルトの戦いも見守る
「はぁ、はぁ、はぁ」
「良くやった、充分休むといい」
「はっ、はい」
テンは破れ、カランコエ学園は後がなくなった。
シドは結果を受け入れニヤリと悪どく笑う。
ウィルス君も実際は魔力枯渇寸前だった。
テンにあと少し魔力が残っていれば、結果は真逆だったかもしれないが、決闘の答えは出たのだ。
「テン! あほか、しっかりせえテン!」
「ルルルちゃん! テンちゃんは安静にさせるの!」
「テンは酷く疲れているだけだ、安心しろ」
戦いを見守っていたルルルは自分の小さな手を震える程握り込んでいた。
テンは勇敢に戦った、そして負けたのが衝撃的だったのだろう。
もしも自分があの場に立っていたならと、自己投影したときルルルは恐怖している。
正しい感情であり、ルルルが動転するのも無理はない。
「ゆっくり寝かせてやろう、
「おっさん……テンを頼むで」
「任せろ、その為のおっさんだ」
それよりも決闘は次に進む。
魔法科の戦いが終われば、次は剣術科だ。
おっさんはテンに
「それでは次の代表前へ!」
「やれやれおっかねーの……俺ちゃんは楽にやりたいねえ?」
「………」
アルトは前に出ながら、その顔は神妙だった。
まるで普段のアルトとは少し違い、凄みがあるように感じた。
もしかしてテンが負けたのを気負ってるのか?
アルトは優しい奴だが、優しさがどこに向くかはおっさんには分からんからなあ。
アルトの気性ならコールン先生の方が詳しいだろうが、相変わらずコールン先生はニコニコ笑顔を崩さないんだよなあ。
「俺はシューベル、君は?」
「アルトだ、よろしく頼むだ」
「アルト、ね? まぁなんでもいいや、それじゃお手柔らかに――」
アルトが剣を構えた――瞬間、アルトは踏み込んだ。
「ちょ!? いきなりかっ!」
キィン!
シューベル君は
やっべ、アルトの奴やっぱり気負ってないか?
普段のアルトをそこまで知ってる訳じゃないが、殆ど不意打ちだったぞ?
「オラ勝つだ」
「おいおいおい……随分やる気満々だねえ……もう後がないってか、嫌だねぇ」
シューベル君は
アルトと違い、防御寄りの構え、カウンター狙いか?
対してアルトは両手で剣を構え、ずっしり重心を低く構えた。
アルトは元々身長が低いから構えもこじんまりとしがちだ。
しかしアルトは見た目に似合わぬ馬鹿力がある。
甘く見ると、剣ごと持っていかれるぞ。
「てぇぇい!」
「しぃ!」
キィン!
予想通りシューベル君はカウンターを狙った。
それもこの速さでというのは驚きだったが、それでもアルトの馬鹿力を相殺しきれなかった。
「くう! なんて馬鹿力!」
「はあああ!」
アルトは止まらない、元々こういう戦いに慣れているんだろう。
力技で押し込まれればアルトはまるで暴風だ。
技はまだ未熟だが、乱戦に持ち込まれたら技なんて役に立たない。
「ちぃ! この!」
しかしシューベル君もかなりの天才か、二度三度とアルトの剣を弾く。
やはり上手い、ちょっとずつシューベル君はアルトにタイミングを合わせてきた。
このままじゃ完璧なカウンターを貰うのは時間の問題だ。
「コールン先生、まじで何を考えてるんだ?」
おっさんは思わずコールン先生を見るが、コールン先生は楽しそうに眺めているだけだった。
「ちょいちょいコールン先生? これちょっと不味い展開じゃないの?」
「あらグラル先生にはそう見えます? 私はそうは思いませんが」
「どういう根拠で? 彼上手いですよ?」
「確かに美しい剣ですね、才能があるんでしょう……ですけどアレならアルト君は負けませんよ」
「……何故?」
「まぁ見守ってみましょう、ふふふ」
おっさんにはコールン先生ほど楽観視はできやしない。
ただコールンさんには確信があるんだ。
おっさんはそんなコールンさんを信じるしかないか。
キィン! キィン! キィン!
数合剣が打ち合い、火花が散る。
シューベル君は徐々にタイミングを合わせてきた。
アルトは愚直に攻めるばかりで戦略があるようには思えない。
果たした戦っている二人にはなにが見えているのだろうか。
「ここだっ!」
剣が交差する。
シューベル君の剣はアルトの顔面に襲いかかった。
やられた……なんて顔をすると、アルトは更に信じられない動きをした。
なんと剣を強引に払って、シューベル君の剣を弾いたのだ。
なんて無茶苦茶な……なんて思っていると、コールンさんが説明を補足した。
「彼上手いけど、軽いんですよね〜。アレならアルト君余裕で返せますよ」
「つまり……どういうこと?」
「アルト君は相打ちオッケーで戦えるってことです。もっと言えば鉄剣に慣れています」
「え……ああ」
言われてみれば、コールンさんの授業って刃引きした鉄剣を使わされていたな。
王国側の生徒も触れたことはあるだろうが、その剣で人を斬ったことはないだろう。
だがアルトはその経験がある。プロテクター越しではあるが、武器に慣れているのは絶対的に有利だった。
「やっぱり軽いだ、ニコル君なら両手でも持っていかれただ」
「くう! どうなってんだよぉこいつ!」
「リクル君なら……隙なんて与えてくれなかっただ!」
ここからアルトの反撃は
アルトに
「だぁーもう! 降参だ降参! 俺ちゃんの負け!」
「えっ? もう終わりだか?」
「もうって……俺ちゃんの手を見てよ……もう剣握れないってば」
なんとシューベル君は潔く降参した。
シューベル君の手はボロボロで、皮も破れ豆だらけになっていた。
鉄剣の重みに慣れていない証だろう。
一方でアルトの方はケロッとしているが。
「カランコエ学園マジやべえよぉ、こんなやべえ剣士抱えてんのかよぉ」
「オラなんてまだまだだ、つえー生徒はもっと一杯いるだ」
「益々やべー、理事長欲しがる訳だぜい」
二人は剣を収めると、アルトはいつものように礼をした。
シューベル君は少し意外そうにしながら、品のある礼を返すのだった。
「はあああ……これでなんとか一勝一敗」
さて、この事態になんとか首の皮一枚留まったアナベル校長は深い溜め息をついた。
校長からしたらここで負けていたら文字通り学園を買収されていた訳だからなあ。
とはいえ代表はこれで出し尽くした。
決闘の結果はどうなるんだ?
「まだだ……決闘の第三戦が残っている」
一方シドは食い下がった。
あの老人なんとしてもこの決闘に勝つつもりのようだ。
「どうしても決着をつけたいと?」
アナベル校長は毅然とした態度でシドを睨みつけた。
元を辿れば親子の
カランコエ学園の存亡を賭けた決闘はどこに着地しようとしているのか。
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