第133話 おっさんは、テンの決闘を見守る

 二人の魔法使いのタマゴが舞台に上がった。

 一人は自身溢れる青髪の少年、もう一人は顔を強張らせた獣人少女。

 おっさんは、テンの背中を見守り、彼女の無事を祈った。

 どうか無事終わってくれと。


 「決闘は公正に」

 「決闘の結果はすべてを正す」

 「「決闘はじめ!」」


 二人のハナキリン氏の合図と共に決闘が始まった。

 速攻を仕掛けたのはウィルス君だった。


 「申し訳ないが手早く決めさせてもらうよ!」


 ウィルス君は掌に炎を生み出す。

 炎は丸い玉のように成形されたお手本のような……というか教科書通りの火球ファイアーボールの魔法か。


 「火球ファイアーボール!」


 火球は真っ直ぐ熱を持ってテンに襲いかかった。

 テンは慌てて魔法の障壁マジックバリアを前方に展開した。


 バァァァン!


 火球が障壁にぶつかると爆発する。

 テンの魔力では全方位を覆えない、だからおっさんはとりあえず魔法の障壁マジックバリアの最低限を教えていた。


 「よし、テンの目は良い」


 おっさんは飛び火する火球を魔法の障壁マジックバリアで防ぎながら、テンが出落ちで負けなかった事に安心した。


 「アチチ、本当に型破りなこと教えたよね〜!」


 自前で魔法の障壁マジックバリアを展開するレイナ先生は火傷したのか手を振った。

 見た限り大丈夫そうだが、念のためおっさんは魔法の障壁マジックバリアの範囲を壁状に広げた。


 「テンちゃんに魔法を教えるには圧倒的に時間が足りなかった、だからって魔法の障壁マジックバリアで扱うなんて……」

 「さしづめ要所の防護ピンポイントバリアですかね」


 テンに教えられたのは教科書の教えではなく、戦場の教えだった。

 強大な魔族や魔物の使う魔法は人族のそれを遥かに上回る。

 サファイアを見ても、非戦闘員の魔族でさえ、人族では到底扱えない魔法を扱うのだ。

 そんな馬鹿げた相手に立ち向かうには、戦場のことわりがある。

 魔力で上回る相手にバカ正直に立ち向かう魔法使いは皆死んだ。

 賢い奴だけが生き残れた……では賢い、とは?


 「そこそこやるようですね、ではこれは! 閃光レイ!」


 ウィルス君は次は光の魔法を扱った。

 無数の光線は全て正確にテンに襲う。

 だがテンはそれを極めて小さな範囲に留めた魔法の障壁マジックバリアで防いだ。

 二度封じればテンの顔も多少は自信が湧いてくる。

 逆にウィルス君は異質さを覚えたろう。


 「これも防いだ? 見たことのない魔法の使い方だ」


 賢いとはこういうことだと思う。

 相手を化かすのだ。

 おっさんにも戦場で魔法使いの戦い方を教えてくれる先輩がいた。

 その先輩いわく、魔法使いは誰よりも冷静であれって言っていたな。

 最もその先輩も戦争でくたばっちまったが、あの先輩の教えはある程度合理的だとおっさんは思っている。


 魔力で劣るテンには、取れる手が少ない。

 どれだけ化かせる? 必殺の一撃をただ虎視眈々こしたんたんと狙うのだ。


 「はぁ、はぁ! ボ、ボクやれてる?」

 「ならばこれはどうだ! 爆発フレアボム!」


 爆発の魔法、やばいと感じたおっさんは直ぐに魔法の障壁マジックバリアをフィールド全体に広げた。

 直後大爆発、ウィルス君自身も巻き込みかねない一撃だった。


 「テンちゃーん!?」


 レイナ先生が顔を真っ青にして叫んだ。

 決闘とはいえこんな強力な魔法を使うとは思わなかった。

 おっさんは爆煙に包まれたテンを見守った。

 テンは……無事だ。爆発の魔法を防ぎ切れなかったのか、制服をボロボロにしていたが。


 「つう……! す、凄い魔法……で、でも!」


 テンが動く、彼女はゆっくり前に踏み出した。

 強大な魔法の反動でウィルス君は直ぐに動けない。

 最大の好機が訪れたのだ!


 「いけー! テンちゃーん!」


 テンは全身に風を纏う。

 彼女が少ない時間で唯一習得出来た風の魔法だ。

 彼女の潜在適正と一致しており、これだけが唯一武器になる。

 テンは風を拳に集める、後は一気に解き放つだけだ。


 「反撃だーっ! 風の拳ウインドブレイク!」


 拳大に収束した風の魔法を解き放つ。

 勝利を確信した、思わずガッツポーズが出る。


 「うおおおおおお!」


 ウィルス君は吹き飛ばされた。

 ここで勝てば決闘は一気に有利になる。

 誰もが笑みが零れたろう……事実おっさんもそうだったのだから。


 だが……。


 「凄い魔法だ……見たこともない、だが!」


 ウィルス君は耐えた、魔法の障壁マジックバリアを喰らう直前に展開し、ダメージを分散させたのだ。

 対してテンは動けない、もう魔力が残っていないのだ!


 「敬意を持とう、獣人族の少女! だがこれで終わりだ! 魔法の玉エナジーバレット!」

 「あ、あ……!」


 ウィルス君が選んだ魔法は基本中の基本、魔力を弾丸にした教科書通りの魔法だった。

 テンは魔力を練ろうとしている……しかし。


 「あぐ……!」


 テンの身体を魔力の弾丸が貫いた。

 テンは力無く後ろに倒れた。

 おっさんは迷わずテンの下に駆け寄った。


 「テン! 大丈夫か!」

 「うぅ……ごめん、なさい」


 テンはそれっきり気絶した。

 俺はそんなテンを優しく抱えた。


 「テン、よく頑張ったな……花丸だ」


 おっさんはそんなテンに花丸を与える。

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