第2話 おっさんは、居酒屋は一人で飲みたい
「それじゃ、今日もお疲れ様、カンパーイ」
ここはおっさんも行きつけの大衆居酒屋、いや住んでいるところは田舎の方の地方都市だけど、洒落たパブとかもあるんだぞ? ただおっさんが入るには、あそこはなかなか居心地が悪い。
結局おっさんは仕事を秒で片付けると、コールン・イキシア教諭と酒の席を相席することに。
コールン教諭は、早速ビールを注文すると大きなジョッキで運ばれるビールを満面の笑みで持ち上げた。
おっさん悪酔いは嫌なので、ワンショットで済ましてしまおうという魂胆だ。
若いといいよねー、おっさん二日酔いになったら最悪よ? もうどれだけ生徒にボロクソ言われるか。
ただでさえ歳を経ると酒に弱くなるし、病気だって掛かりやすくなる。
歳取っても全然良い事なんてなかったし、今日もお疲れ顔で乾杯さ。
「もうー、ダルマギクさんったら、そんな小さなグラスじゃ全然
うわ、コールン教諭もう酔ってるよ。彼女は顔を艶やかに
「あんまり悪酔いしたら、明日辛いですよイキシア教諭?」
「もうー! 他人行儀ですー、コールンで良いですってばー?」
本当、残念な美人ですわ。童貞のおっさんが間違ってもファーストネームで呼べる訳ないじゃないか。
軽くだけ、そう本当に軽く彼女の悪酔いを注意するが、この酔っぱらいはどこ吹く風、おっさんは諦めて度数の低いお酒をちびちびやっとこう。
「はい、コカトリスの串焼きお待ちー!」
「待ってましたー、ヒャッホー!」
テーブルにお皿を持って来たのは獣人の若い女の子だった。言い忘れてたけど、この世界は色んな種族が暮らしているのだ。
そこそこ賑わう大衆居酒屋を見渡すと、獣人の他に、長耳のエルフや、リザードマン、色んな種族が
時折仕事の話なんかが隣の席から聞こえちゃう訳だけど、本当に酒の席で仕事って無粋でやんなる。
思わず酒も不味くなっちゃうよ、ただでさえ安酒なのに。
「はむはむ、グラルさんは食べないんですかー?」
酔っぱらいはコカトリスの串焼きを美味しそうに食べていた。
そう言われると、大皿に載った串焼きをとりあえず一本いただく。コカトリスは
これは養殖コカトリスの肉で、それもおそらくだがプロイル種かな?
養殖物のコカトリスは性格も人馴れするから大人しく、おまけに品種改良の末に様々な品種が誕生し、今じゃメジャーな食材だ。
天然物よりも美味しいのもグッドだわな。天然のコカトリス、養殖物に比べデカイから結構怖いし。
「もぐもぐ。うん、タレが少し焦げて、それが酒に合う……できれば、炭水化物が欲しくなるな、うん」
コカトリスの串焼きには、おっさんも絶賛。正にキングオブツマミ。異論は認める。
思わずその美味しさを口にしてしまうが、しかし酔っぱらいは意外と耳が良かった。
「あ、じゃあ更に頼みましょうか? えと、すいませーん!」
「いや……そんなに食べる訳じゃ」
酔っぱらいは店員を呼ぶと先程の獣人の女の子が、すぐに駆け寄ってきた。
改めて見ると可愛い子だな、アルバイトだろうか?
「えと……ビール大で!」
「あい! オーダー入りましたーっ!」
おっさん思わずズッコケる。
え? なに? 今の流れって単品頼む流れよね?
この居酒屋パン類も扱っており、ガーリックトーストが本当に絶品なのよ!? それを無視するの!?
なんておっさん心の中では盛大にツッコむが、現実はスルーだ。おっさんは荒波を求めない、ここは無言に徹する。
「アハハハ! ねえねえ! もっと愉しみましょうよグラルさーん」
そう言って腕を絡ませてくる酔っぱらいに少し苛立ちを覚えるが、おっさんは我慢を使った。
残念な美人というが、美人であることには違いなく、絡み酒とはいえ色々柔らかいモノが当たるのは、おっさんドキドキはするけど、それよりもセクハラで訴えられる方が怖い。
酔っぱらいは適度に受け流しながら、おっさんはなるべく精神を無にするのだ。
うん、だんだん雑音も気にならなくなってきた。
心を無に、おっさんが会得したこの力は、ストレス社会では役に立ってるわ。
「ちょっと! 聞こえてますかー! もしもーし?」
……ただし、物理攻撃には無意味なんだけどね!
酔っぱらいは無視していると、ガシガシ頭を叩いてきた。結構痛い。
だから嫌なんですよ、コールン教諭と一緒に飲むの。
コールン・イキシアは絡み酒に笑い上戸、記憶の方も飲んだ明日にはケロっと忘れるんだから、始末が悪い。
「聞こえてます、だから頭を叩くのを止めて?」
「アッハッハ!」
聞こえてないな? おっさんもう諦める。
こうなればコールン教諭が気持ちよく眠るのを待つのみだわ。
おっさん、人生に起伏は求めない。
ストレス溜まるお酒なんて、
コールン教諭は、結局三十分は暴れると赤子のように寝付いてしまった。
結局大ジョッキビール三杯も飲んで、酔い潰れるとか、なんて幸せそうなんでしょう。
おっさんは結局一人で代金を支払うと、これまた予定調和通り、コールン教諭をおぶって家まで送る事にした。
§
地方都市も夜になると明かりは極端に少なくなる。
おっさんは
え? おっさん魔法使えたのって? そりゃおっさんを舐めすぎですから、おっさんむしろ剣より魔法の方が得意ですから。
まあ痛いのが嫌だから魔法使いとして冒険者になるのは全力拒否した身なんで、生活に便利な魔法が殆どだけどね?
この作品バトル物じゃないんで、攻撃的な魔法は期待しちゃダメだからな?
「んふふ、……ん。グラルさん、好き、です、……よ」
「………」
背中から不穏な呟きが聞こえる。たわわなおっぱいとか、柔らかなふとももとか、もう色々アウトな部分触ってるんですから、これ以上は勘弁してほしい。
「聞かなかった事にしまーす」
おっさん、それを恋愛フラグだとは思っていない。
そもそもおっさんは出会い等求めてないのだ、おっさんは起伏のない平坦な人生が欲しいのです。
お金持ちになりたいんじゃない、貧乏になりたくもない。
おっさんは平和が一番……そう思うのです。
「うぇひひ、かんぱーい」
「……ぷ、変な笑い方。つーか夢でまで飲んでる……」
この酔っぱらい、夢の中でも幸せそうだ。
まあおっさんも悪夢は見たくないからなー。サキュバスでも勘弁。
そのまま、彼女の住む賃貸アパートに辿り着く。
彼女の住んでいるアパートはこの地方都市ではメジャーな2階建てのタイプで、主に個人向けだ。
おっさんも似たような所に住んでるけど、ちょっとこっちの方がボロいな。
「着きましたよ、お客さーん?」
「ううん?」
背中のイキシア教諭を揺すると、彼女は目を覚ました。
優しくドアの前で降ろすと、彼女は立ち上がれなかった。
「はい、鍵ー」
彼女は無造作に鍵をおっさんに差し出す。それ絶対他人に渡しちゃダメなやつだから。
て、酔っぱらいに説教しても
素直に受け取ると、鍵でドアを開け、そのままコールン教諭を部屋に運ぶ。
やや乱雑な家具の配置が目立つ彼女の部屋、俺はそれらは無視して彼女をベッドに下ろした。
無防備な姿を晒すコールン教諭、おっさんは何事もなかった事に一安心すると、その場を去るのだった。
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