第129話 おっさんは、特別訓練を始める
魔法科の授業も終わり、教材を片付ける中、レイナ先生はテンを呼びつける。
なんだろうと
「相談……というより、これは要請ね、テンちゃんにお願いがあります」
「ボクに? 一体なんのお願いなんですか?」
「テンに特別教科を受けてもらい、決闘に出てほしい」
「え………えええっ! ぼ、ボク? ボクが! 決闘!?」
当然であるが、テンは尻尾をピンと逆立てて、盛大に驚いていた。
それもそうだ。自分を半端で未熟者と思っているテンからすれば、これはクレイジーにも思えるだろう。
だがおっさん達は真面目だ、テンがまだ未完成だからこそ、この望みを
「本当にごめんなさい! でも可能性があるのはテンちゃんなの!」
「じょ、上級生だっているじゃないですか、どうしてボクが?」
「テンが未完の器だからだ。既に完成した上級生では決闘には勝てないと分析している」
はっきり言ってこの学校の魔法科のレベルは低い。
仮想敵と比べれば、それこそ月とスッポンのようなものだろう。
初めからカランコエ学園からすれば
「頼むテン……! 力を貸してくれ!」
おっさんはテンに頭を下げた。
テンの今後を左右しかねない選択を彼女に迫る。
テンは不安げに胸に手を置くと、尻尾をゆらりと振るった。
「顔、上げてグラル先生、ぼ、ボク自信ないけど、本当にいいの?」
「ああ、勿論だ。責任も取る」
「グラル……分かった、ボクやってみる」
テンには酷な選択だと思っている。
それでもテンは小さく微笑んだ。
テンは一番未熟な魔法使いだ。
だからこそ最も可能性もある。
ここからは彼女には特別教科を受けて貰う必要がある。
§
放課後、魔法科の特別室にテンを招くと、レイナ先生は魔法陣の前に手招いた。
「えと、これ……なに?」
「まずは適正の検査だ」
「適正って?」
「人にはね、得意不得意があるのよ。なぜか炎の魔法は苦手なのに、氷の魔法は得意とか」
「大抵は努力で覆せるがな」
魔族は得意を伸ばせと
今回魔族流に合わせるに当たって、まずなにが得意か知る必要があった。
「ま、危ない物じゃないから、ほら魔法陣の上に立って」
「はい……ドキドキ」
テンは恐る恐る魔法陣の上に立つと、魔法陣はほんのり燐光を放ちだす。
ビックリしてテンは尻尾を逆立てるが、なんとか踏みとどまった。
薄暗い部屋で怪しげな魔法陣があれば、さながら絵巻物に出てくる邪教の祭壇だ。
テンがビビるのも無理はないか。
さて、おっさん達は魔法陣に現れた結果を分析する。
魔法陣から徐々に溢れ出す光は次第に、色を帯びていった。
「風……かしら?」
「恐らくは、珍しい属性だ」
魔法には八大属性というものがある。
炎、水、土、風、雷、氷、光、闇がそれだ。
八大とは言ったが、その中にも発現しやすかったり、しにくかったりする属性がある。
風は人族には発現しにくいと言われている。
獣人族ならそうでもないのだろうか。
「風ってレアなの?」
「人族ではね……獣人族は魔法使いが少なすぎて資料が足りないわ」
獣人族は基本的にフィジカル特化の種族だ。
魔法なんてまごまごした物を学ぶくらいなら、拳でぶん殴るような種族だから、魔法を学ぶのは相当の物好きだという。
サンプルが極端に少ないと、この辺りはアテにならない。
テンは獣人社会ではなく、人族の社会で生まれ育ったから、価値観は人族のそれの為だろう。
「グラル先生、魔法の一元化は風でいいかしら?」
「構わないと思います。一点だけに特化すれば、万に一つの可能性もあるかと」
「ゴクリ……本当にボクが決闘に出るんだ」
改めてテンは決闘に
だがおっさんはテンの頭に手を乗せると、頭を撫でた。
「安心しろ、いざとなったらおっさんが助ける」
「う、うん……それなら安心、かも」
テンは頬を赤くすると、安心した。
それを見てレイナ先生はニンマリ微笑む。
「生徒に手を出して良いのかしらー? 責任取れるのー?」
「せ、責任!? ぼ、ボクそんなつもりは!」
「レイナ先生、タチの悪い冗談はやめてください、テンが困っているでしょう?」
「冗談、なんのことかな? うふふ」
レイナ先生の冗談は無視するとして、問題はテンだ。
「テンにはこれから特別な訓練を受けて貰う」
「う、うん! じゃなくて、よろしくお願いしますっ!」
テンは改めて
魔法の専門特化、通常人族の慣例にはない。
果たしてこの奇策に意味はあるのか……いやあると信じよう。
§
テンに
それと得意な属性をトコトンまで鍛え上げる。
最終下校時刻まで残り少ない時間、後はこれを決闘まで続けるだけ。
付け焼き刃戦術と笑われるだろうが、元々何やっても博打じゃこれしかない。
そんな時、夕暮れの校舎でおっさんはルルルと対面した。
「おっさん!」
「一体どうしたルルル」
「テンを決闘にってどないゆうことや!」
ルルルの顔は怒っているようだった。
テンのことを親友のように思っているからこそ、親身になって彼女の身を案じているのだろう。
ならば教師として説明する責任があるか。
「テンには適正がある。だから選んだ」
「せやかて一年生やで! う、ウチが言えるクチじゃないのは
ルルルは悔しかったのか。
親友を心配する気持ちと、己の
自分には魔法の才能が無い。けれど夢を諦めたくないという
「分かった。レイナ先生にも掛け合ってみよう」
「ホンマか! ウチは本気やで!」
「疑うものか、ルルルがいつも本気なのはよく理解している」
ルルルは納得のいく答えを貰うと、嬉しそうにそのまま走り去った。
きっとルルルは己の無力さを知っている。
それでも彼女は己の限界を知りたくないのだろう。
諦めない意思、それがきっと重要なんだ。
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