間章 剣聖は、寂しいからお酒求む

 カランコエ学校バーレーヌ本校に勤務するコールン・イキシア。

 誰が呼んだか二つ名は辺境の剣聖。

 剣聖って言われると、ちょっと照れるけど、辺境がつくとなんだか複雑よね?

 私コールンは言わずとしれた剣術科の教師よ。

 周りからはコールン先生と呼ばれて慕われているんだから。


 ほら、今日もキンキンと、剣戟けんげき音が体育館から響いているわ。

 生徒たちの熱心な自主練ね、向上心があるのはいいことよ。

 バーレーヌ校では少なくとも、放課後に体育館の使用が認められているから、この光景も珍しくもないわね。


 え、剣の話? そうね……私の持論なんだけど、練習生に本物の鋼の剣を振らせているわ。

 私は過去の戦争期は幼少時代で、実際の青春は戦後復興期から経済成長期にかけてだった。

 だからグラル先生みたいに、ガチで従軍してた訳じゃないけど、治安の悪かった時代も長くて、その過程で剣を学んだわ。ええもちろん実戦でよ。


 最初から強かった訳じゃない。才能は少し恵まれていたのかもしれないけど、一番は結局の所、ただの幸運だった。

 なるべく勝てない相手とは戦わない、ひいて言えばこの臆病ともいえる戦術感は、私が今日まで生きてこれた証だった。

 もちろん今はドラゴン相手だって負けないわよ? あはは、本気にしちゃった?

 鋼鉄製の軍艦位なら一刀両断したけれど、ドラゴンは流石に遭遇した事がないもの。

 鋼鉄を凌ぐなんて言われるドラゴンの鱗、是非自分の剣技、試してみたいわね。


 て、話逸れちゃってわね、ごめんなさい!

 生徒が本物の剣を持つ理由だけど、これは私の経験則に基づく物なの。

 結局長生き出来る子が強いという持論、その為には違和感のある装備は望ましくない。

 あ、勿論刃引きはしているわよ? 肉は斬らなくても、骨を折る事は出来るから、生徒にはプロテクターの装着を厳重注意しているけれど。


 はあ……なんて、私ってまだ教師としては経験も浅いから、間違いも多いのよね。

 今日に限ってグラル先生もいないし、嫌になっちゃう。

 指導方法は間違っていないか、私は本当に正しいのか。

 先生って中々憂鬱ゆううつな職業よね。

 それでも、安定した収入には変えられない。


 普段ならグラル先生に相談するんだけれど、なんで今日に限って出張なのよぉ、て恨み節が出ちゃったわね、いけないけない。

 こういう鬱憤溜め込んだ日は……そう、お酒ね!

 という訳で、一緒に付き合ってくれる人募集してまーす。

 あれ、おーい? なんで皆して逃げるんですか?


 うぅ、今日も職員の皆さんは付き合いが悪いですよ。

 あーあ、こういう時グラル先生なら、友飲み付き合ってくれるのにさー?

 恋しいよぉ……、ああ、いないといないで、私ってもしかして甘えてるのかしら?


 もうこうなればヤケ酒よーッ!



 「はあ、早く帰って来ないかなー、ダルマギクさん」

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