第81話 おっさんは、レイナ女史の意図が分からない
「ほーら、こっちこっち!」
レイナ先生の先導の下、おっさんたちは賑わいとは真逆の静かな海岸に訪れていた。
そこは小さな隠れ家のような湾で、綺麗な白浜にエメラルドブルーの美しい海を讃えていた。
何故こんな穴場を知っているのだろう。そんな風に何かと謎を持つレイナ先生を眺めるが、あのミニマム先生の謎の人脈だろうと納得する。
「それじゃー皆準備はいいなー? せーのっ!」
女性陣は今、大きめの布で全身を隠していた。
何故なら羞恥心など全く気にしなさそうなサファイアやコールンさんまで隠しているのだ。
因みにおっさんは水着の上から白い半袖のシャツを着ていた。
あまり運動は得意じゃないからな、アルトは黒いトランクスの水着だった。
因みに水着は借り物だ。ブンガラヤのビーチでは大体レンタル屋がどこでもあるらしく、気軽に借りられた。
どこでも商魂は逞しいもので、水着は購入することも出来たが、内陸国に住むおっさん達にはそこまで水着は縁がないからな、やんわり購入は断った。
「海だー!」
「おーっ!」
ババッ! と布が白砂に舞う。
太陽の下に晒された少女達は、それぞれ年相応の水着を纏って、海へと突撃した。
おっさんは一番後ろでそれを眺める、改めて見ると少女達も女なんだなと驚かされた。
ルルルのように子供っぽい少女も水着を纏えば色気のような物を持ち、意外なのはテンだ。
獣人族特有というべきか、かつては栄養失調で細々していた少女は、あっという間に成熟した女の身体をしていた。
水着という際どい格好も相まって、筆のような尻尾を振りながら強調される臀部は、男が見ちゃいけないものだった。
だが少女達はまだ良い、もっとやばいのは大人だった。
特にコールンさん、やや派手めな水着が目を引くが、一番やばいのはあの揺れまくる胸だろう。
もう顔も向けられない、おっさんはなるべくコールンさんは視線に入れないように気をつけた。
「主様、気分が優れないようでしたら木陰で休んでは?」
「あ、ああ……大丈夫、うん」
「主様?」
こういう時サファイアはありがたかった。
水着とはいえ、元々少女体型で、その上いつも改造メイド服を着ていたから、水着でもあまり違和感がない。
おっさんは少女趣味などないので、サファイアは数少ない直視出来る相手だった。
「主様、あそこに
そう言ったのはルビーだ。ルビーもサファイアと色違いの水着を選ぶ辺り感性が同じだな。
遊ぶことよりも相変わらず献身最優先の
しかしおっさんは、この姉妹にも海で遊ぶ体験をしてほしい。
その為には一計を案じるか。
「俺より、学生たちに混じって遊んでこい」
「しかし主様……」
「どうしても遊ぶ気になれないなら、おっさんの代わりに皆を危険から守ってくれないか?」
「危険から?」「守る?」二人は交互に同じ顔で言う。
おっさんは頷くと、意味を理解した二人は共に頭を垂れ、子供達の下に向かった。
ご主人様至上主義みたいに構えているが、二人共根本的に優しい性格だからな。
言い方次第では、ああやっておっさんよりも優先事項を付けられるのはリサーチ済みだ。
「グラルは混ざらないのかい?」
そしてそれを全部見ていたであろうレイナ先生は皮肉めいて微笑む。
おっさんはそんな花柄パレオ姿の彼女に現実を吐露した。
「おっさんは体力ないの、子供達に付き合っていたら十分も持たない」
「あはは、体力もおっさんだねえ?」
かくいうレイナ先生はどうなんだ?
さっきからおっさんをイジってくるが、本人だって一番大人っぽい水着を選んでいながら、遊ぶ様子はない。
この人マジで目的が読めんのよな。
「いい加減今回の旅行を企てた理由、教えてくれません?」
おっさんは今は少しだけ真面目な顔をした。
子供たちは浜辺で、初めて見る波にはしゃぎながら、波を掛け合っている。微笑ましいそんな光景を眺めながら。
レイナ先生はしばし沈黙すると、やがて小さな声で。
「私ってさ、こういう性格でしょ? だから友達は多いんだけど、それ以上っていないんだよね」
それはレイナ先生の性格の吐露か?
レイナ先生は騒がしいという言葉がこれ程似合う人はいないという陽の性格の持ち主だ。
誰相手でも人懐っこくて、ワガママで、そして面倒見が良い。
考えてみればおっさんとは、かなり性格が違う。
本来なら全く反りが合わない相手だった筈だ。
今の関係はかなり強引にレイナ先生に引っ張られた結果だった。
「だから海行こうって誘ってもさ? なんだかんだ拒否されるの。貴方って見てる分には楽しいけれどってね?」
少しだけ泣きそうな顔をしてレイナ先生は言うんだな。
今度はおっさんが黙らされる番だった。そりゃおっさんがコールンさんに思っているのと同じといえば、同じだよな。
おっさんは事なかれ主義だ、積極的な人付き合いは特に拒否感がある。
特にコールンさんは割と表立って好意を寄せてくるから、おっさんはなるべく距離を取りたいのだ。
レイナ先生はキュッと小さな手を握った。
そしておっさんに寄り添う。
「甘えたい日だって、あると思わない?」
「……どう答えろと?」
おっさんはそれに同意も拒否も出来なかった。
レイナ先生はおっさんに甘えている。それはガーネットやコールンさんとは違ったアプローチだった。
強く跳ね除けるか? ――それは出来ない。
ただ、おっさんはやや震えた声でレイナ先生を拒否した。
「おっさんは、恋はしませんよ?」
レイナ先生が離れた、その表情はなんとも読めない。
ただ寂しげという感情が見据えていた。
「そっかそっか、やっぱり駄目かー?」
「おっさんはレイナ先生みたいな人は苦手なのです」
「ああっ、それ私の前で言うー?」
レイナ先生は当然プンスカ怒る。
おっさんもレイナ先生じゃなきゃ面と向かってよく言わない。
ある意味で友人としては信用している証だった。
「なんやなんや? 先生達揉めとんのか?」
「喧嘩なら止めないと!」
「むっ? グラルさーん!」
おっと、コールンさんが大声を出しながら駆け寄ってきた。
レイナ先生は「バイビー」と手を振ると海へと向かう。
入れ替わるようにコールンさんは、おっさんの目前まで来ると。
「こっちで一緒に遊びましょう?」
と、にこやかな笑顔でおっさんの腕を取った。
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