第155話 義妹は、本戦に挑む

 ついに本戦開始か。

 私はすぐに兄さんを探すと、サファイアの声が聞こえてそちらに振り向く。

 見つけた。兄さんはサファイアと一緒に立ち見席にいた。

 私は笑顔で手を振る。

 無様ぶざまは見せられない。兄さん見ててねっ!


 「これから本戦の説明を行います」


 競技場の前には予選で私の成績を見ていた男がいた。

 相変わらず面白くなさそうな顔で説明するわね。


 「本戦は、あのまとを十本の矢で射てもらいます」


 的は予選よりも遠い、目測でざっと60メートル位かしら。

 この弓では結構遠いわね、私なら問題ないけど。

 テティスさんは静かに挙手すると、質問した。


 「質問です。的に当てた数を競うのでしょうか」

 「いいえ、本戦では的の中心ほど高得点が与えられ、その点数で競います」

 「ふぅん……この弓で、か」


 お世辞せじに良い弓ではない競技用のそれは、正直真っ直ぐ放つのも少し難儀するかもしれない。

 強く弦を引きすぎると、ぷっつん切れるんじゃないかって不安もある。

 この辺りもきっと、この大会は考慮こうりょしているんでしょうね。


 「射撃は順番に行います。番号は若い順から」

 「私、から」


 番号順だと、アーチェさんから。

 私は最後ね。それじゃお手並み拝見よ。


 「それでは位置について」


 私達は指示された通り所定位置に着くと、まずはアーチェさんが弓を構えた。

 本戦まで問題なく来た技量、一体どれほどか。


 「……ふっ!」


 アーチェさんは弓を思いっきり引き絞ると、弓がぎりぎりとしなった。

 放たれた矢は放物線を描き、綺麗な軌道を通って、的に突き刺さった。


 「やったっ」


 アーチェさんは、的に当たったのを確認すると、笑顔で小さなガッツポーズした。

 的側にいた大会の実行委員は当たった矢を抜くと、その点数を計測した。


 「アーチェ選手、80点!」


 観客から歓声があがった。

 中心点が100点だから、かなりの高得点だ。

 決してエルフ族みたいな強弓ではないが、器用さは引けをとらないか。


 「次、いきます」


 次に構えたのはテティスさんだ。

 テティスさんの実力は把握しているつもりだ。

 彼女はエルフらしい綺麗さで、しかし決して非力ではない構えから、矢を解き放つ。

 矢が当然というように的に吸い込まれる様は、いっそ壮観そうかんね。

 さて、点数は?


 「……やるじゃない」

 「ふっ、この程度はエルフなら当然でしょう」


 私は自身の視力で、小さな的を見た。

 矢は間違いなく中心の赤い丸に刺さった。

 それは確認するまでもない、完璧な一射。

 私は思わず自分の手を強く握っていた、こりゃ気合いれないと。


 「テティス選手、100点!」


 いきなりの満点に、観客はさっき以上に歓声を湧き上げた。


 「いいぞテティスー! そのまま優勝だーっ!」


 一際ひときわ大きい応援の声、なんか聞き覚えあるわね。

 テティスさんも少しだけ恥じらいつつも、小さく声援に応えて手を振る。


 「もうロイドったら」


 あの熱血直情型戦士のロイド君か。

 よく見ると、隣にはグレース君の姿もあるわね。


 「なんだかんだ仲がいいわね」

 「初めて一党パーティを組んでから、腐れ縁で」


 テティスさんにとって、やっぱり良い仲間ね。

 私は一匹狼だけど、私だって最初は一党パーティ組んでたのよね。

 けれど、すぐに怪我人が出たり、意見がぶつかったり、結局すぐに一党パーティは解散だった。

 結局性に合わないのよね。


 「次、ガーネット選手、お願いします」

 「はぁい、それじゃ――」


 私は弓に矢をつがえて構えた。

 風向き。湿度。風速――計算する事はとにかく多い。

 けれど私は経験から最適な力加減、そして射角を割り出した。

 私は一気に弦を引き絞ると、矢を解き放つ。

 矢はテティスさんよりも力強く、風を切り裂き的を貫く。

 おしっ、流石さすが私!

 射抜かれた的ははっきり赤い円の内側だ。


 「ガーネット選手、100点!」


 わああああぁぁぁと観客から歓声が聞こえる。

 テティスさんとは違う射撃スタイルも、観客を沸かせた原因だろう。

 私はドヤっとテティスさんに振り向く。

 テティスさんは少しだけ顔をけわしくした。

 けれどすぐに彼女は微笑を浮かべる。

 無言だが、その顔はそれでこそガーネットさんです、と言外に語っていた。


 「どうよっ、兄さん!」


 私は直ぐに兄さんの方を振り返った。

 兄さんはうむりと、小さく頷いていた。

 うーん、どうもあの後方したり顔は兄さんには似合ってないわね。

 これで腕組みしていたら、格好つけ過ぎってツッコむところだったわ。

 とりあえず面目めんもくは保たれたでしょ。だからサファイアは兄さんから離れなさい!

 サファイアには今更だけど怨嗟えんさの視線を向けるが、サファイアは涼しい顔。

 あの子意外と鋭いから、分かっている筈だけど。


 「第二巡、アーチェ選手、お願いします」


 第二巡、アーチェさんは、緊張した面持ちで弓を構えた。

 さて、勝ってみせるわよ。

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