第98話 剣の精霊は、トラブルに巻き込まれるがこれは結果オーライ?
城下町、やや中央程高く、町の外側に広がるにつれ勾配が落ちる構造をしている。
私はそんな町を見下ろしながら、今王城のあった丘から飛び降りていた。
普通の人族なら大怪我じゃ済まないでしょうけど、生憎私は精霊だ。
姿を剣に戻すと、私は風に押されて、町の何処かに落下する。
流石のガーネット達も、こうなったら追いかけきれないでしょう。
私は地面とバウンドしながら転がると、再び精霊の姿に変化する。
ダメージは特にない、伝説の聖なる剣に欠けることなどありえないのよ!
「ふっふーん、これで私は自由! 全力で謳歌してやるわー!」
私はそう言うと走り出す。
とりあえずどこでもいい、
けれど、流石に前方不注意だった。私は目の前に人の姿を確認するも退避が遅れてしまう。
「あぶなーい! ギャフン!」
「まそっぷ!?」
私は背の高い冴えない中年の男性に正面衝突してしまった。
尻餅をついてしまうが、私はなんとか無事だ。剣の時はともかく、精霊の姿の時は外的要因の影響を受けやすいから注意がいるのよね。
「痛た……あれ? ちょっと、大丈夫?」
それよりもぶつかったおっさんが問題だ。
見るからに冴えないダサいおっさんは、腰を抑えて蹲っている。
まるで産まれたばかりの子鹿のようで滑稽ね。キモいわ。
私は流石に無視は良心が許さず、そんなキモいおっさんの下に駆け寄った。
「うぐぐ……腰をやったか」
「ちょっと立てる? 肩を貸すわよ?」
「す、すまない」
私は肩を貸すと、おっさんはふらふらと立ち上がった。
身なりを見るに、貴族って感じではないけれど、外で仕事をするタイプに見えないわね。
おっさんは腰が笑っているが、私から離れると歩き出す。
「ちょっとどこ行く気なのよ?」
「す、すぐそこだ、学校があるだろう?」
学校? 私はおっさんの指差した先を見ると、それらしき建物を発見する。
学校って、昔は貴族とかが通う一種の養成所だったわね。いつの間にか庶民が通うようになっていたの?
「あそこで良いのね?」
私はおっさんに肩を貸し補助すると、学校へと案内する。
それにしても学校ね、私は校門を潜ると少しだけワクワクする。
「ありがとう、おっさんの名前はグラルだ。ここで国語教師をしている」
「一人称がおっさんなんて変ねー、それに教師なんて」
「……それより君は? ドレスなんて着て」
おっと、私の格好はちょっと洒落ていて可愛過ぎたかしら?
私の純白のドレスはそれ自体がアバターのようなもの、実体はあくまで剣だもの。
悪目立ちする、私はそう思うとなんとか誤魔化すことに。
「お、オホホホホ! ちょっと訳ありですの」
「……まぁいい」
思いっきり怪しまれたかしら?
グラルは特に詮索する気はないらしく、そのままよろよろと校舎に向かった。
「ねえちょっと! やっぱり休んだ方がいいんじゃない?」
私は少しだけ不安になって、グラルの背中にそう叫ぶ。
グラルは振り返ると。
「そうもいかないのが社会人の辛いところだな」
そう言ってちょっと不気味な苦笑いをした。
私はそのまま行かせるのは不味い気がして、校舎へと踏み込んだ。
そしてそのままグラルの腕を引っ張る。
「医者はいないの? すぐ連れてく!」
「ちょ、引っ張らないで! おっさん身体強くないから!」
「い、一体どうしたのですか!」
騒いでいると校舎から、綺麗な女性が走ってきた。
スタイルがとても良くてスーツの良く似合う美女に、グラルは誤魔化すように手を振った。
「これは校長先生……これには事情がありまして」
「事情ですか?」
「このおっさん怪我してるの! だから医者に!」
私はグラルを行かせないように、しがみつき校長に説明した。
校長は「怪我!?」と驚くと、直ぐにグラルに駆け寄った。
ふらふら腰を抑えたグラルの姿は誰が見ても怪我人だ。
「すぐ保健室へ!」
「あの、これから国語の授業が」
「それよりも身体です! 身体を大事に!」
「……アッハイ」
うわ、グラル速攻で掌を返したわ!
私は長い物には巻かれろという言葉を思い出し、これが社会人なんだとドン引きする。
校長はグラルを支えると、そのまま保健室とやらへ向かう。
「えと、それであなたはどうしてグラル先生と?」
「いけない遅刻遅刻ーアーレー……てなことがありまして」
「はぁ……アーレーですか?」
私はジェスチャーも交えて状況を説明する。
だが怪我人の癖にグラルは盛大に突っ込んだ!
「嘘つけ! ただの正面衝突だろうが!」
校長は目をパチクリさせる。
とりあえず状況は理解出来たと思うけれど、少しだけ不審げに私を見る。
「なんとなく察しました……あなたは一体?」
「うー……えーと」
多分身分とかそういうのよね?
けれど私は聖なる剣ですと説明しても納得して貰えるだろうか?
名前はある……あるにはあるが、あの名前は出来れば使いたくない。
「その……実は記憶喪失でしてー」
「記憶喪失?」
私は苦笑いしながら、そう誤魔化す。
ちっぽけな嘘だが、やっぱり私は
だから嘘を貫こうと思った。
「なぜだけど追われているの! お願い
「……」
校長とグラルは沈黙した。
私は迫真の演技に心の中で「やったぜジャスティス!」とガッツポーズする。
どうよ? こんな可愛い女の子よ? 助けなきゃ人間じゃない!
「どう考えても嘘ですね」
「やはり? けれど証拠もありませんし」
「でも信用できます、あれ?」
「うーん?」
校長が首を傾げだした!
ガッデム! 全然騙されていない! 自信の演技だったのに!
私は何故騙せなかったのか分からないが、追われているのは確かだ。
今頃ガーネットは血眼になって探している可能性がある。
出来れば学校内に潜んでいたい。
「うるうるうる、こんな無防備な女の子を疑うの?」
「なんだその殺し文句は? 校長どうします?」
「事情が分からない内は、取り敢えず匿いましょう」
私はその言葉に拳を握った。
グラルは胡乱げに白眼視を向けるけれど、匿って貰えればこっちのものだ。
「取り敢えず見学者ということにしましょうか」
「それが良いでしょう……痛た」
「ああいけない! 急いで保健室へ!」
「便乗便乗ー」
私は笑顔で二人の後ろをついて行った。
さあ学校の赤裸裸なキャッキャウフフに期待しちゃうわよ?
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