第95話 義妹は、面倒な試練はスルーする
「う……痛ぇ」
マタンゴを倒した後、暫く休憩しているとロイド君が目を覚ました。
ロイド君は頭を抱えると、キョロキョロと周囲を伺う。
「目覚めましたか」
「あれ? マタンゴは?」
「もう倒したわよ」
私はすっかり灰となったマタンゴを指差した。
ロイド君はそれを見て、意気消沈した。
「……てことは、足引っ張ったのは俺か」
「感謝しなさい、ダルマギク様が適切な処置をしてくださなければ死んでいたわよ?」
「うげ……」
ロイド君に実感はないだろう。文字通りたった一撃で意識を刈り取られたのだ。
私はちょっとだけロイド君を茶化す。
「あーあ、貴重な
「エ、エクスポーション!?」
「あれ、一本で三千ゴールドもするのよねー?」
ロイド君はどんどん顔を青くする。
弁償ってなったら、依頼数回分が必要になるためロイド君も事態の不味さを理解したようね。
まあ、勿論冗談だ。私は弁償を求める気もないし、笑ってロイド君を許す。
「アハハ、エクスポーションのことは気にしないの、それよりも問題は迂闊な行動の方ね」
「うう、すみません」
「敵の分析が終わる前に、タンクが前に出るな。忠告よ、長生きしたいなら慎重になりなさい」
ロイド君は小さくなって落ち込むが、これも彼の為だ。
テティス君とグレース君にも了承をとっている。
彼らはもう中堅の入口に立つ冒険者だ、ギルドもそれなりにリスクのある依頼を出してくる頃である。
冒険者は極めて自由な職業なんて言われるけれど、それは危険も隣り合わせなのだ。
長生きしたいなら冒険者はもっとも向いていない職業だ、それが私の持論だ。
「冒険者は臆病なくらいが丁度良いのよ?」
「ダルマギクさんでも?」
「私も剣士君が思ってるよりも臆病よ」
私は負ける勝負はしない。
勝てると確信して初めて勝負する。
自分の実力を過信したことはない、故に竜殺しの異名はあまり好ましくないのだ。
「ドラゴンに殺されるなら本望なんて言う冒険者もいるけど、そんな死にたがりはドラゴン以前にそこらの魔物に殺されるのがオチよ」
私は少しだけ三人を怖がらせた。
死と隣り合わせの職に着くなら覚悟はしていると思うけど。
冒険者の死亡率の高さは群を抜いている。
それでも自由と冒険には夢と浪漫が溢れているから、冒険者は後を絶たない。
出来ることなら未熟者をちゃんと一人前にしてから冒険に出してほしいわね。
「さて、と。そろそろ出発しましょうか」
私が立ち上がると、三人も立ち上がった。
武器のストックもまだ大丈夫、私はマタンゴの後ろを見る。
ダンジョンはどこまで続くのかしら?
「ダルマギクさんって、やっぱりカッケーよな」
「そうね……ちょっと怖いくらい」
「あら? 私が怖いの?」
テティス君はビクンと耳を震わせた。
どうもテティス君は私をどう思っているのかしら?
エルフ故に同じエルフの私に並々ならぬ興味を持っているのは理解出来るけど。
逆にこっちからしたら不気味ったらありゃしない。
そもそも森エルフなんて興味ないしね。
「二人共、気を緩めないように」
グレース君が注意すると、二人は口を噤んだ。
ちょっと行動力に欠ける感じはするけど、グレース君は立派にリーダーしているわね。
私もなるべく口を噤むと、やがて大きな広場にも終わりが見えた。
広間の先には狭い通路が続いていた。
私は通路前で足を止める。
「……ま、蛇が出ようが鬼が出ようが」
私はこれから起きるであろう事態に、苦笑する。
ここまでの意地悪なダンジョンっぷりなら、次も相当の意地悪が待っているんでしょうね。
「行くわよ、皆」
「畏まりました」
私達は通路を進む。
さて、魔物が出てくるか、それとも悪質なトラップが仕掛けられているか。
だけど、待っていていたのはそのどちらでもなかった。
「道が無い……?」
私達は通路を抜けると、なんとそこで行き止まりだった。
いや、正確には部屋の奥に扉がある……のだけれど。
「ゆ、床が無い?」
流石にこれにはグレース君も困惑した。
そう、一歩でも踏み込めば、そこは奈落。私は底なしの穴を見て、「ごくり」と喉を鳴らした。
「他に道はあったか? なあ?」
ロイド君は周りを見渡した。
私は顎に手を当てると、これも試練なのではと、考察した。
恐らくだけど、勇気の試練といったところかしら?
「……ま、チャチと言えばチャチか」
「え? ダルマギク様?」
私は秘密兵器、
すると、私の身体は重力を無視して浮かび上がる。
それを見て、三人は唖然とした。
「と、飛んだ!?」
「それってエルフ族の失われた秘宝、
私は迷わず、部屋を飛ぶ。
何事もなく私は扉に辿り着いた。
このダンジョンを創った神様には申し訳ないわねー。
「皆、そこで待っててくれる?」
私は大声で、グレース君達には待ってもらうことにした。
恐らく解法は他にもあるんだろうけど、一々謎解きに時間を掛けたくない。
インテリのお仕事はグレース君に任せよう。
「畏まりました! どうかお気をつけを!」
「心配しなくても!」
私はそう言うと、扉を潜る。
扉には不思議な装飾が施されていたが、私は特に興味なかった。
扉を潜ると頭上から光りが零れていた。
光り? 私は不思議に思って見上げるも頭上は暗い。
「なんらか魔法的な光り?」
少なくとも太陽光ではない。
ホーリーライトの光りに似ているといえば似ているわね。
私は光り中を歩んで行く、周囲を伺うとこのエリアだけ植物が繁殖していた。
随分穏やかというか、明らかに雰囲気変わったわね。
「ここで終わり?」
私は足を止めた、目の前に岩に突き刺さった剣があったのだ。
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