第104話 おっさんは、ローズを助けたい
「はあ……」
「なによ溜め息なんて、
おっさんは恨めしく、隣に立つローズを睨みつけた。
王様に追われている……なんつー面倒事を抱えているんだ、こいつは。
おっさんも流石に権力には逆らえねえ……どうしたものか。
「とりあえず……一旦様子を見るべきか」
「様子って?」
「王様がなんでお前を探しているのか……それも知りたいしな」
「そりゃあなんてたって私は高貴で神々しく最高の剣だからよっ!」
おっさんは無言でローズの頭を叩いた。
「アデッ!」と痛がり、頭を両手で抑えたローズはぷるぷる震えながら睨んできた。
おっさんはもう一度溜め息をつく。
「その自意識過剰はともかく、精霊を従えようなんてちょっと穏やかじゃない」
精霊は人知に収まる存在じゃない。
人から見て、魔族以上に未知で幻想的な存在こそが精霊だ。
夏休みに訪れたブンガラヤで信仰されていた水の精霊ウンディーネのように、精霊とは最も神に近い存在だ。
希少性もそれだけ高く、まして剣の精霊なんて聞いたこともない。
このふざけたような少女でも、その神性は計り知れないのだ。
「しかし精霊なら、お前だけでも王様くらい突っぱねられるんじゃないのか?」
精霊は怒らせたら、一国一夜で滅んだなんて伝説もあるくらい、本来は不可侵の存在だ。
畏れつつも敬われるのが精霊なのだから。
しかしローズは胸元を抑えると、小さく不安げに呟く。
「無理よ……私は特別だから」
「……そうか」
おっさんには精霊の事情は計り知れない。
無理強いをしても仕方がないし、この少女が本当に訳ありで深刻なのは理解した。
後は、彼女の意思なんだよな。
「ローズ、お前はどうしたいんだ?」
「私? 私はただ自由が欲しいだけ」
「自由か、ある意味でこの世界で最も困難な目的だな」
「困難? どうして?」
「この世界に本当の意味で自由なんてあるかね? おっさんも社会の歯車だ、自由とはいえないし、ローズも追われる身だ」
ローズは真剣な目でおっさんの言葉を聞いていた。
おっさんはちょっと臭いかなと思いながらも、彼女に講説を続ける。
「自由とはなにか……人間誰もが、なにかに縛られている。例えドラゴンでさえ、この世の
「けれど、自由と思う意思は? それは誰にも縛れないわ」
「そうだ、しかしそのままに行動すれば、それは自由ではない、無法だ。人が自由と無法を履き違えれば、この世界は混沌世界と化すだろう」
自由を謳うのは良い、だが何が自由なのかは見極めないといけない。
自由が他人の主権を脅かすなら、それは混沌そのものだろう。
「一先ず移動しよう、おっさんの住処にくるか?」
「えっ? 私を手籠にしようっての? 人の弱みに漬け込んで拒否出来ないのをいいことに、イケナイコトを私に!」
ローズは顔を真っ赤にすると、頬を手で抑えた。
おっさんはイラッとするが、今は我慢する。
「ウチはシェアハウスだ」
「なら安心ね」
ローズは貞操の危機がないと分かると、ニッコリ微笑んだ。
とりあえず自分の魅力は鏡を見てから言えと思う。
ローズの自意識過剰さは精霊故なのだろうか、少なくともそんなに偉いようにも思えないが。
「けれど……迷惑じゃないかしら」
「迷惑だと思うなら、他の選択肢は思い浮かぶか?」
「……分からないわ」
ローズは真剣に沈思黙考した末に首を横に振った。
彼女の真剣な思いは、本当に深刻に考えているのだな。
出来る限り尊重はしてやりたいが、手段は考えないとな。
「後は聖教会なら訳ありだろうと受け入れてくれると思うが」
学園直ぐ側に聖教会の大聖堂がある。
聖教会の教義に従えば、ローズであっても保護を優先すると思うが。
しかしローズはそれを嫌がった。首を横にブンブン振るうとその理由を述べる。
「教会は駄目、タクラサウムの息が掛かった組織とか信用できない!」
「王様でも教会を自由には出来ないと思うがな……?」
聖教会はかつて王国の法に真っ向から立ち向かった組織だ。
人族優先法を違憲だと支持し、王国の法律を変えた程、聖教会自体は独立した組織の筈だ。
まあ独立し過ぎてて、ちょっと怪しい組織でもあるが。
「グラルに従う……グラルは信用できるもの」
「過大評価どうも」
おっさんは少し照れる。なんだかんだ信頼されてたのか。
ローズはこれまで出会ったこともない奇妙奇天烈な少女だが、おっさんの中ではあくまで少女だ。
剣の精霊だとか御大層なことを言っても、おっさんの目の前にいるのは不安に押し潰されかけている少女である。
ならおっさんもその信頼に値する行動で示さないとな。
「兎に角移動しよう」
「うん、わかったわ」
兎に角学園を出よう、まだローズの居場所が判明していないなら、拠点移動は早い程良い。
とはいえ相手は王様か……後先考えるとげんなりするな。
長いものには巻かれろ、おっさんの人生経験でもあるが、なるべく穏便にはいきたいな。
「……っ」
おっさん達は黙って歩く、時折ローズの様子を見るが、やはり彼女は不安そうだ。
よっぽど嫌なんだなというのが分かる……だが、おっさんに何をしてやれるだろう。
余計なお世話はあまり良い結果を生まないのを知っている、これは過保護という奴か?
「不安なら……手を繋ぐか?」
「えっ?」
おっさんは不器用にもローズの手を優しく握る。
ローズはビクッと身を震わせるが、やがて受け入れるように握り返してきた。
「ありがとう……グラル」
「ん、気にするな」
おっさんはローズの手をしっかり握ると、彼女を導くように学園の外に向かう。
だが……玄関の前でおっさんの見知った女性が立っていた。
「ちょっとすいませーん」
「あ……」
金髪碧眼の女エルフが凛とした声を発した。
それを見てローズは顔面を蒼白に染めあげる。
まるで出会ってはいけない相手だと説明するように。
そしてその女エルフ……ガーネットはこちらに振り返った。
「あら……兄さん奇遇ね……て、あら?」
それは最悪の
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