間章 義妹は、独りごちる
ガーネット・ダルマギク。まるで花咲くような美しい金糸の髪、宝石のような翠眼、透き通るような白い肌。やや切れ長な目で、そして大きな尖った耳を持つエルフだ。
そんな私が産まれたのは戦争の時代だった。
どこかで魔王が世界征服を決行し、それを人類は一丸となって立ち向かった……らしい。
らしいというのは、それが私にとって昔過ぎて、全然覚えていないという事だ。
両親は……知らない、生きてるのか死んでるのかさえ。でも私は全然気にしてない、どうせ捨て子だし。
それに私は運が良かった。優しいダルマギク家に拾われたのだから。
気難しい職人気質の親父殿、病弱だけど誰よりも優しかったお袋殿、そして物静かだけど優しい兄さんに囲まれ、私は幸せに成長した。
戦争は私が三歳位の頃には終わったらしい。正直あんまり実感はない。
そして魔王は勇者に討ち滅ぼされ、世界に平和が来ると、待っていたのは復興の時代だ。
親父殿は職人という事もあり仕事にありつけたが、兄さんはそうもいかなかった。
その原因を私は知っている―――けれど、あれは仕方なかった。
兄さんは優秀な魔法使いだった。お袋殿によく
けれど戦争終結から翌年お袋殿が亡くなった。それから親父殿と兄さんは大喧嘩。
結局兄さんが追い出されるように、家を出て行ってしまった。
私はまだその頃は幼く無力だった。ただ才能があったのか、弓を扱うのだけは上手だったと思う。
魔王軍の残党やら魔物やらがまだまだ多かったものね。気がつけば私は冒険者になり、あれよあれよと戦果を上げた。
特に辺境に出現したレッドドラゴンをなんとか討伐した事で、私は十六歳で第三位の赤の等級冒険者に昇格した。
私は強くなった。もう兄さんを守れる位に、そう確信した私は、兄さんの住んでいる家に無理矢理上がりこんだ。
兄さんはその時困った顔してたけど、本心は絶対嬉しかったに決まってる。だってちょっと口角がニヤけてたもん。
兄さんは気がつけば学校という施設の教師になっていた。
元々兄さんは聡明だったから、文字の読み書きとか算数とか、色々教える事が出来るから学校側は重宝したみたい。
私も兄さんに教えてもらってなんとか、文字を書けるようになったし、まだまだ国の
でもちょっと
身内
まあ痛いのは嫌だからって言って、攻撃魔法全然見たことないけど。
すっかりおっさんなんて周りからは呼ばれる兄さん、たしかにちょっと親父殿に似てきたなと、私は苦笑する。
でも兄さん、性格的に気弱だし、義妹としては放っておけない。
そして無駄に人が良い、というかはっきり言って善良過ぎて逆に不安な位。
――だからね? 兄さんって結構
これは百パーセント私怨よ、コールン・イキシアって剣術科の教師がいるんだけど、なんなのよアイツ?
いっつも、いっつも兄さんに纏わりついて、いつも兄さんがアイツを家に送ってる!
はあ、私も早くお酒飲める年齢になりたいなぁ……そしたら兄さんに介抱してもらえるのに――……て。
なし! やっぱり今のなし!
ああもう!? 何考えるのよ私!?
馬鹿じゃないの! 馬鹿よね! ね!?
……はあ、兎に角私はコールン・イキシアが嫌いだ。
いっつも兄さんに担がれるとか、羨まけしからん事しやがって。
いつか後ろから撃つ、スナイパーを敵にする恐怖を教えてやるんだから。
………これじゃ駄目ね。
義妹の辛い所は、微妙に兄さんに対して踏み込めない点だ。だからこそコールン・イキシアに嫉妬してしまうのだけれど。
だからさ、だからこそ兄さんと
ふふっ、兄さんと首都ブリンセルに行く間、私はずっと頬が緩みっぱなしだった。
兄さんに気持ち悪いなんて言われたから、思わず頭を引っ叩いたけど、久々の小旅行なんだもん。
そうでもなければ、何故あのクソ貴族のセクハラに甘んじてまで、嫌な相手の依頼を受けるものか。
私は今回の依頼主の顔を思い出すと、眉を
兄さんはビクッと肩を震わせた。相変わらず
ブリンセルには貴族って呼ばれる無駄に権力を握った無能どもがいる。
その中でもオークみたいに
セクハラは流石に手を払う程度に抵抗するけど、基本的には依頼はいつも手紙で断る相手だ。
兄さんとデート旅行じゃなければ、絶対会いになんて行かないんだから。
無駄に羽振りは良いんだけど、どうせ身体目当てだからウザいのよね。
まあ適当に理由をつけて依頼は拒否して、兄さんと観光旅行でも楽しみましょ。
そう思うと、私は今日もやる気が上がる。今ならドラゴンも秒殺出来るような気分だ。
「ふふ、兄さんと
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