14 子離れ
「離されたって……」
ダルが何をどこまで話していいのか考え考え話す。
「さっき言ったけど俺もまだ何がなんだか分からないし、戻って聞かせてもらっても本当の意味で分かるかどうかも分からないんだ。ただな、今、この国にとってものすごく大変なことが起こってるんだよ。それだけは分かる」
「この国に、かい……」
「うん」
ダルが素直にうなずく。
ダルは祖母のそばまで歩いて行ってその隣に座った。
いつも祖母の隣に座るように、あぐらをかいて気楽な様子で。
「トーヤはそのために呼ばれたんだ。だから、トーヤは今すごく大変なんだよ……俺はトーヤを助けてやりたい。正直言ってな、国がどうとかは俺にはいまひとつ……なんて言うのかなあ、分かるのは分かるんだよ? 国がどうかなったら大変だってこと。それは分かっちゃいるんだが、俺にとっちゃトーヤの方が大事なんだよ」
「正直だねえ」
ディナが笑う。
「お前の立場、月虹兵だっけ? その立場だったら誰より国が大事って言うもんじゃないのかね?」
「だってなあ、ばあちゃんにいい格好してもしょうがねえだろ?」
「そりゃそうか」
祖母と孫が笑い合う。
「国が大事じゃないってわけじゃねえんだよ、ちょっとの差だけどトーヤの方が大事だってだけなんだ。だから、その国のため、シャンタルのため、そしてそこでシャンタルのために世界のためにこらえてらっしゃるラーラ様のために俺もがんばるつもりでいる。それをばあちゃんに知ってもらいたい、手伝ってもらいたいと思ったから聞いてほしいんだ」
「そうかい。それなら、おまえがそう思うのなら聞くよ」
「うん。それで、そのことを言って何か災いがあるようならそれを受ける、その覚悟で言ってる」
「それじゃあ私はおまえに災いがあるようならそれを私が受ける覚悟で聞くよ」
「ありがとうな」
ダルがにっこり笑って祖母に言う。
「その方な、先々代のシャンタルなんだよ」
「え!」
さすがに驚くディナにダルが続ける。
「今起きてることのために侍女になって宮に残られたんだそうだ。それほどのことが起こってるんだよ、今」
「それで……」
それならばシャンタルと特別のつながりがあったとしても不思議ではない。
「うん。でもな、今はどうしてもその方とシャンタルを切り離さないといけないんだ。だから、何があっても返事をさせないでほしい。もしも答えてしまったら、今がんばってるみんなの努力が無駄になる。この国もシャンタルもトーヤも、そしてもしかしたら世界もだめになるかもしんないんだよ。ずっとずっとシャンタルのお母様としてそばにいらっしゃった方らしいんだ。見てて分かった、本当にシャンタルを大事に大事に思ってらっしゃるんだって。だからばあちゃん、本当に頼む。お願いします」
ダルが祖母に深く頭を下げた。
「それはおまえ、月虹兵としての頼みなのかい?」
「え?」
「孫としてばあちゃんに頼んでるのか、それとも国を助ける兵として頼んでいるのか」
「え……」
ダルが少しだけ考えて言った。
「月虹兵であるばあちゃんの孫として、かな」
「欲張りだねえ」
ぷっと笑って祖母が言う。
「じゃあ私も月虹兵である孫の婆として頼まれてあげるよ。まかしときな」
「うん、頼むな」
「この国の民として、そしておまえの祖母としてできる限りのことをするよ。この方にどうやっても返事はさせない」
ディナはラーラ様を振り返って言う。
「あんた……ラーラ様、先々代のシャンタルかい……大変な運命を背負って生まれてこられたものだ……この国のために生きてきてくださってありがとうございます、この国の民として感謝いたします」
そう言うとラーラ様の手を取る。
「だけどね、それは今までのことだ。ここから先はあんたと同じ、1人の母親としてあんたに言うよ。あんたは子どもから離れないといけない」
「え……」
ディナが続ける。
「あんたはね、子どもがかわいくて、そして自分も同じ道を進んできたからそれがかわいそうで目がくらんでる。本当に子どものためを思うなら、そろそろ子離れしなくちゃいけない」
「子離れ……」
「そう、子供が育ってきたらその子はもうあんたとは別の人間だと分かって手を放してあげるんだよ。つらいかも知れない、さびしいかも知れない。でもね、それも親の役目さ」
「手を、放す……」
「そう。たった10歳で今度はマユリアにおなりになるシャンタルをかわいそうだと思う気持ちも分かる。でもね、そういう運命に生まれてこられた方なんだ、手を放して送り出してあげないとね」
ディナはシャンタルが交代でマユリアになるとしか思ってはいないのでそう続けた。
「かわいそうと言うのも思うのも簡単だ。だけどそれだけじゃ子どもはいつまでたっても大人になれない。突き放すのも親の愛情なんだよ。つらいだろうけど乗り越えなきゃね。そのための手伝いならなんだってするよ、がんばりなさい」
ラーラ様がディナに手を取られてうなずいた。
「分かりました、ありがとうございます……」
ずいぶんと落ち着かれた姿を見てダルはやっと少し安心できた。
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