7 ニつの託宣

 呼ばれたのはやはりマユリアの客室であった。


 部屋に入るとすでにソファにはシャンタルが座り、その向かって右にはラーラ様が、その後ろに従うように初めて見るやや年配の侍女が2人控えていた。おそらく、あれが秘密を知るという2人の侍女なのだろう。


 後から入ってきたのはルギ、トーヤ、ミーヤ、ダルの4人。この部屋の主であるマユリアとその隣に控えるキリエを入れて10人であるが客間といってもかなり広いので狭いという感じはしない。


「勢揃いだな……おはつの方もいらっしゃる」


 トーヤが部屋を見渡してそう言うと、ラーラ様の後ろの侍女が2人軽く頭を下げた。

 トーヤの遠慮のない口調にも顔色一つ変えないのは、すでにトーヤのことをよく聞いて知っているのか、


(もしくは曲者だな、このおばはんらも)


 そうトーヤは思った。


「お待たせしましたね、やっと全てが整ったようです」

「あんたも忙しいのに大変だな。いよいよ秘密の御開帳ごかいちょうか? そんで、この中でそれをを知ってるのはマユリアと、キリエさんと、それからラーラ様と後ろのお二人だな」

「そうなりますね」

 

 トーヤの中では「秘密」は2つである。おそらく、その全てを知るのはラーラ様だけだ。


「そんじゃ教えてもらおうかな、それでやっと準備の続きができる。もう何もしなくていいならそれはそれでいいし」

「秘密の前にまだ話さねばならないことがあります」

「まだあるのかよ~まあ、それも秘密っちゃ秘密か」

「ええ、そうなりますね」


 相変わらず咲き誇るような笑顔でいつもと変わらぬ顔でマユリアが笑う。


「恐れ入るよな、そんな大変なこと暴露する時までお茶飲む時と変わんねえときてる」

「それは、褒められたのでしょうか?」


 そう言ってマユリアがまたほころぶように笑う。


「まあいいや、なんでもいいからとっととやってくれよ」

「そうですね、では始めましょうか。長くなると思いますからみんなも座って下さい」


 そう言うと自分はシャンタルの向かって左にある椅子に座り、さらに左の椅子をキリエに勧める。


「いえ、私は……」

「お座りなさい」


 マユリアに言われてキリエが隣の椅子に腰をかける。


「あなたたちも」


 ラーラ様に言われて後ろの2人もそこにある椅子に続けて座った。


 トーヤたちはいつものようにテーブルのところにある4つの椅子に、マユリア側のすぐ前にトーヤ、その隣にミーヤ、トーヤの向かい側にダル、隣にルギの形で座った。


「その前に2つの託宣から話さねばなりません」

「2つの託宣?」

「ええ、古い古い千年前の託宣と、十年前にわたくしがおこなった託宣です」


 例の千年前のやつだな、とトーヤは思った。


「まずは古い託宣から。これはマユリアだけに語り継がれておりました。ですから、ラーラ様とわたくししか知りません。侍女頭であるキリエにはほんの一部だけ伝えてあります。そしてトーヤにもラーラ様から少し話がありましたよね?」

「ああ聞いた、おおよその話ってことだけどな」


 それを聞いてミーヤもダルも驚いた。


 ミーヤにはラーラ様と会ったことは話したがその内容まで話していない。ルギは自分が言いだしたことなのでなんとなく察してはいたが、それ以後その話はしていないので内容までは知ってはいない。そしてダルにいたってはラーラ様自体が分からない。


「あの……」


 おずおずとダルが手を上げた。


「ラーラ様って……」

「ああ、そうでしたね、ダルにはまだ紹介していませんでしたね」


 マユリアがシャンタルの向かって右に座る優しそうな女性を左手でそっと示す。


「こちらがラーラ様です。わたくしの先代のマユリア、つまり先々代のシャンタルです」

「ええっ!」


 ダルがびっくりして立ち上がり、急いで座り直す。

 ミーヤは多分この方だろうとの推測がついていたが、ダルにはまさかそんな方がいるなど想像もつかない。ルギは何度か顔を見てはいる。


「悪かったな、話していいかどうか分かんねえから今まで言えなかったんだ」

「いや、それはいいんだけど先々代シャンタル……」


 ダルが目の前に並ぶ3人の女神に今更気後れしたように身を固くする。


「そんなに緊張しないでよろしいのですよ。もう何回もお話したではありませんか」


 マユリアがそう言って優しく笑う。


「それはそうなんですが……」


 これはいつもの「お茶会」とは違う。自分の前で大変なことが起ころうとしているのではないかとダルは震えた。


「あの、俺なんかがここに、こんな場所にいていいんでしょうか……」

「ダルはトーヤの親友でその手伝いをしてくれる月虹兵でしょう? これもそのお務めの一つですよ」

「あ、あ、そうなんですか……はい……」


 なんとか自分を納得させるようにしてもう一度座り直した。


「後ろの2人も紹介しておかなければなりませんでしたね。2人ともわたくしが生まれる前からずっとシャンタル付きをしてくれています。ラーラ様のすぐ後ろがネイ、そしてその向こうがタリアです」


 マユリアの紹介に合わせるように順番に頭を下げた。


「ではまず第一の託宣から……古い古い託宣です、千年前のシャンタルが行った託宣です。代々マユリアを受け継ぐ時にひっそりと伝えられてきました」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る