24 忘れ物
「あの……」
ミーヤが思わず何か言おうとして口を開くが、何も思い浮かばずそこで口をつぐんでしまう。
「あっ!」
そして何かを思い出したようにあらためて、
「あの、フェイ、フェイにも挨拶を」
そう言いながら、急いで上着の隠しからお友達を取り出そうとするが、手が震えていてうまく取り出せない。
「あ!」
かしゃーんと音がして、小さな袋が床に落ちた。
「おい、今の音!」
トーヤが荷物を放り出し、急いで小袋に手を伸ばす。
「あの、大丈夫です!」
ミーヤが急いで拾おうと手を伸ばすが、トーヤの方が早かった。
「なんか変な音したぞ、割れたんじゃねえだろうな」
「大丈夫です!」
慌ててそう言って手を伸ばすのをよけ、トーヤが袋を開けてみる。
「あれ、こりゃなんだよ」
小袋から出てきたのは小銭であった。確かにいつもミーヤがお友達を入れている袋と同じだが、中身が違う。ミーヤが自分で縫ったという、前にも見た覚えのある模様の生地の小袋なので、ミーヤの物には間違いはないだろうが。
「これ、この金額」
それは、トーヤがフェイに買ってやったあのお友達、青いガラスの小鳥の値段と同じ額の小銭であった。
「袋に入れたって言ってなかったか?」
あの時、やっと自分で稼いだ金で買ってやれると、ミーヤにトーヤ用として預けられた金袋に入れてくれるようにと渡したはずだ。
「あの……」
ミーヤが下を向き、もじもじと手を揉みしだきながら、
「あの、同じ額を、私の手持ちから入れておきました。だから、それは大丈夫です……」
そう言う。
「同じ額を?」
トーヤは意味が分からず理由を聞く。
「金なんてどれも同じじゃねえかよ、なんでわざわざ?」
「あの……」
ミーヤがそう言って少し言いにくそうにしていたが、
「同じでは、ないですから……」
そう言う。
「なんでそんなめんどくさいことしたんだ?」
考えてもさっぱり理由が分からない。
「あの……」
ミーヤは相変わらずもじもじとしていたが、思い切るように、
「同じではないのです……」
そう言う。
「金は金だろ? 分かんねえな」
トーヤがまだ首を捻るのに、
「それは、あの、トーヤが渡してくれたものだから、あの、だから違うのです……」
そう言い切ると真っ赤になって下を向いてしまった。
少し考えてやっと意味が分かったようで、小銭を握ったままトーヤも真っ赤になった。
ミーヤが言っている意味はこうだ。
トーヤが渡してくれた小銭だから、だ。
トーヤの手を通ってきた小銭だから、だ。
トーヤの手が触れたから特別な小銭なのだ、と。
「そ、そうか、俺が渡したからか……」
「はい……」
ミーヤは渡された小銭を預かった金袋に入れようとした。だが入れられなかった。入れてしまえばトーヤの手から渡された小銭は他の小銭と混じって分からなくなってしまう。それでどうしても入れられず、考えた挙げ句にそうして自分の手持ちと入れ替えて、受け取ったのはこうして持っていたのだ。
「そうか……」
「はい……」
しばらく2人で真っ赤になったまま下を向いていたが、そんなことをしている時間はないとトーヤが思い切る。首の後ろに両手を回すと、何かごそごそしてからミーヤに近づいてきた。
「これ!」
そう言って、さっきの小銭と一緒にミーヤの手に押し付けたのは、例の、あちらのミーヤの形見の指輪を革紐に2つつけたものであった。トーヤの唯一の持ち物といっていい、あの大事な。
「あの、でもこれはミーヤさんの」
「形見じゃねえからな!」
ミーヤの言葉を遮って言う。
「それは俺の忘れ物だ、今度会う時までちゃんと預かっといてくれよな!」
「忘れ物……」
「そうだ、だからなくしたらただじゃおかねえからな!」
そう言って、ぷいっと横を向いてしまった。
まだ頬が真っ赤だった。
「忘れ物……」
「そうだって言ってるだろ!」
そのまま背中を向いたまま荷物の方へ足を進め、
「それからな、フェイな!」
「は、はい」
「持ち歩いて割れたらかわいそうだろうが、もう持ち歩くな。さっきのと一緒にどこかにしまっとけ!」
そう言ってもう一度荷物を担ぐ。
「さっきの金もな! 大事なもんは全部どっかに大事にしまっとけ! 持ち歩くな!」
「は、はい!」
ずっとお友達を連れ歩いていたのは、今にして思えばシャンタルにフェイの気持ちを届けるためだった気がする。だとしたら、今はゆっくり、トーヤとシャンタルが戻ってくる時まで休ませてやるのがいいのかも知れない。
「はい、貴重品を入れる箱に入れておきます」
「なんだよ、そんなのがあるんなら最初から入れとけよな!」
「分かりました」
ようやくミーヤがクスッと笑った。
「なんだよ!」
「今まではなんだかどちらも離せなくて持ち歩いていたんですが、確かにガラスは割れることもありますよね。今度会う時まで休んでもらっておきます。もう一つの袋も。落としたくない、なくしたくないものはみんな一緒に大事にしまっておきます」
「お、おう、そうしろ!」
「そして、さびしい時には取り出して、そうしてトーヤのことを一緒に話します」
トーヤがくるっと振り向いてミーヤを見た。
「だから、大丈夫ですから、きっと戻ってきてください、元気で、待ってますから」
そう言って笑顔のままで泣いていた。
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