16 初めての出会い
「ど、ど、ど、どう思った? 初めてそうして目の前でシャンタルを見てさ」
ベルがごくりと唾を飲み込んだ。
「やっぱりクソガキかな」
「く~
またベルがガクッと頭を落とす。
「マジでな、見た途端に憎しみが湧いてきたんだよ。こいつが俺をこんなところに引き入れたのかって思ったらな」
「ちょ、トーヤ」
ベルが気をつかったようにシャンタルをちらっと見る。
「大丈夫、平気だよ」
シャンタルがクスッと笑った。
「確かにその頃の私はクソガキだったと思うしね」
「おいーありがたみねえな、かみさまー!」
たはーと額から目にかけてを片手で押さえてベルが空を仰いだ。
「それで、トーヤの方はそんなもんだったとして、シャンタルの方はどうだったんだ?」
アランが聞く。
「特に何も」
シャンタルがさらっと答えた。
「何も? 何もってどういうことだ?」
「文字通り何も感じなかった」
「うっそだろーこんな
「おい、おまえ」
アランがもう一度何かを言う間もなくひっさらうようにしてベルが口をはさみ、トーヤが咎める。
常とあらざる話だというのに、まるでいつもと同じお約束なやり取り。
「やっぱりベルはいいな」
クスクスと楽しそうにシャンタルが笑う。
「私は、何度ベルに救われてきたか分からないよ」
「え、え、そう、そうなの?」
照れくさそうにベルが頭をかく。
「本当だよ。そうして何があろうともいつも変わらずにいてくれる」
シャンタルは薄く笑みを浮かべながら続けた。
「私はね、その頃までほとんど物を考えるということがなかったんだ」
「どういう意味?」
「文字通りだよ。自分で何かを考えるということをしたことがなかった」
「よく、わかんねえんだが……」
ベルもアランも意味を掴みかねる。
「だからトーヤが目の前に連れてこられた時も、誰かが来たことしか認識してなかったんだ。そしてそれはいつものことだったからね。輿に乗せて連れて行かれた先でじっとしてたらすべてが終わる、それがいつものことだったから」
「そんなあ……」
ベルが絶句した。
「だから、正確にはトーヤと初めて会った時のことも何も感じなかったというより、あまり記憶にないと言った方がいいのかも」
「多分本当だぜ、マユリアと話してる間もこいつはびくとも動かねえでいて、終わったらとっとと連れてかれたしな」
「そんなあ……」
同じ言葉をベルが重ねた。
トーヤは壇上の子供をじっと見上げた。
こいつか、このガキが俺をこんな訳の分かんねえ状況に追い込んだのか。
そう思った途端に怒りが込み上げ、シャンタルを見つめる目が朱に染まるようだった。
シャンタルはトーヤを見ているのか見ていないのかも分からない。
深い深い緑はゆらめくこともない。
トーヤが視線をきつくぶつけてもシャンタルの反応はない。
一方的なにらみ合いがしばらく続いた。
「あなたをこちらにお呼びしたのは頼みたいことがあるからです」
凍った時間を動かしたのはマユリアだった。
トーヤははっとして少し左に視線を移動した。
「人払いを」
マユリアがそう言うと、布を引いた少女2人が片膝をついて跪き、一礼をしてから立ち上がって部屋から出ていった。さきほどトーヤたちが入ってきた大きな扉ではなく、向かって右手にも出入りする扉があるようだった。
「ミーヤはそのままで」
同じように出て行こうとしたミーヤにマユリアが声をかけ、ミーヤがはっとしたように顔を上げると急いで元のようにトーヤの少し右後ろに並んで立った。
「キリエもお下がりなさい」
今まで気づかなかったが、侍女頭の女も部屋の左手にいたらしい。同じように一礼すると、トーヤの前を通り過ぎ、少女たちと同じ右手の扉から出ていった。
部屋の中にはシャンタル、マユリア、そしてトーヤとミーヤの4人だけになった。
マユリアがシャンタルのそばから離れ、壇上から降りてきた。
下の段に降ろされた足元から音もしない。
まるで本当に存在していないような、重さすらないような、人間ではないような動きで段を降り切るとゆっくりと進んでくる。
そしてトーヤの前で止まるとじっとトーヤを見つめた。
「な、なんだよ……」
トーヤはごくりと唾を飲み込むが、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます