5 唯一の方
「黒のシャンタルって何?」
シャンタルが困ったような顔をしてキリエとミーヤに聞く。
昨日、あの後で2人で色々と話し合った。鏡の廊下でどのようにするか、その後で何をどの程度、どのように話すかを。
その形で正しいのかどうかは分からない。だが、この機会にある程度のことは話しておいた方がよいのではないか、との結論に達した。
さきほど廊下で使ったのと同じ姿見を1枚だけ応接に持ってきて、危なくないように台座に立ててある。それをシャンタルが座っているソファの前に持ってきた。
「この鏡に映っていらっしゃるのはどなたでしょう?」
キリエが優しく話しかける。
シャンタルが少し首を傾げて考え、じっと見て、手を伸ばして鏡の中の人物が同じように動くのを見てから、戸惑うように、その答えでいいのかのようにおずおずと答えた。
「シャンタル?」
「そうでございますよ」
キリエが優しく
「お美しい方でいらっしゃいますでしょう? 本当におきれいな方です」
隣からミーヤも言葉を
「きれいなの?」
「はい、おきれいです、マユリアと同じぐらいおきれいですよ。この国で一番美しいお二人だと思います」
「マユリアと同じぐらい?」
そう言われてシャンタルがにっこりとする。マユリアが美しいと思っていらっしゃるようだ。
「はい、同じぐらいに。そしてよく見てください、ラーラ様と同じぐらいお優しい」
「ラーラ様と同じぐらい?」
またにっこりとする。ラーラ様の優しさを一番知るのはシャンタルであろうから。
「はい。ラーラ様と同じぐらいお優しく、マユリアと同じぐらいお美しい、それがシャンタルでございますよ。鏡の中にいらっしゃるご自分をよくご覧になってくださいね」
言われて身を乗り出し、鏡に映る自分をじっと見たり、鏡の表面を触ってみたりする。
「これがシャンタルなの? この鏡の中の人が?」
「はい、そうでございます」
「そうなの!?」
そう言って子供らしく笑う。最近少しずつ表情が出てきてはいたが、これほどはっきりと笑ったのは初めてだった。
「なんとお可愛らしい笑顔なのでしょう」
「本当に」
思わずキリエが口にするとミーヤも同意する。
「そうなの?」
もう一度そう言ってまたにっこりと笑う。本当に美しく可愛らしい笑顔であった。
「はい、お美しくてお可愛らしくて、ミーヤは本当にシャンタルが大好きでございます」
「キリエもですよ」
「そうなの?」
恥ずかしそうに
「ですが、シャンタルとキリエ様、ミーヤ、どこか違うところがありますが、お分かりになりますか?」
「違う?」
「はい、ラーラ様やマユリア、その
「違う……」
じっと見て、
「小さい?」
そう言うのに思わず2人共笑みがこぼれる。
「それも確かに。ですがそれはシャンタルがまだ子どもでいらっしゃるから、もう少し大きくなられたらキリエたちと同じぐらいの大きさになりますよ」
「そうなの?」
「はい。ですが、他にまだ違いがあるのです。シャンタルのお髪、とてもきれいな銀色をしてらっしゃいますよね」
「あ、色が違う?」
「はい、そうなのです」
「顔の色も違う?」
「はい」
「目も違う?」
ゲームのように楽しそうに次々と2人と違うところを見つけ出す。
「はい、髪と目と肌の色が違います」
「どうして?」
「それが黒のシャンタルだからです」
「黒のシャンタル……」
「はい、シャンタルが黒のシャンタルだからです」
「髪と目と肌の色が違うと黒のシャンタルなの?」
「そのようです」
キリエが正直に言う。
「シャンタルがお生まれになることはずっと昔の
「ずっと昔?」
「はい、ずっとずっと昔に」
「ずっとずっと昔?」
「はい。今、ここにいるみんな、誰もまだ生まれていなかった頃のお話です」
「生まれてない?」
「はい、まだ誰も。長く生きているこのキリエもまだこの世にいないぐらい昔のことです」
「この世にいない……」
シャンタルが首を傾げると鏡の中のシャンタルも首を傾げた。
「この国の方で銀色の髪の方はシャンタルお一人なのです」
「シャンタルだけ?」
「はい。その髪と肌と目を持ってお生まれになったので古い託宣にあるその方だと分かりました」
「託宣の人……」
「はい」
「シャンタルは託宣の人なの?」
「はい、そうです。シャンタルとお呼ばれになる方はたくさんいらっしゃいましたが、黒のシャンタルはシャンタルお一人なのです」
「他のシャンタルはどうしたの?」
「シャンタルの前のシャンタルはマユリアなのですよ」
「え?」
シャンタルが驚いて丸い目をする。
「前のシャンタルがマユリアで、その前のシャンタルがラーラ様なのですよ」
「ええっ!」
丸い目をもっと丸くする。
「シャンタルがお生まれになったのでマユリアがシャンタルからマユリアにおなりになりました。その前にはマユリアがお生まれになったのでラーラ様がマユリアにおなりになり、次にマユリアをお
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