14 慣れる
「そんじゃまあ、あんたとはまた機会があったらな」
「ええ、その時にはぜひ」
そう言ってまた楽しそうに笑う。
「そんで、慣れるってなあ、まず何をすりゃいいんだ?」
「普通はどういうことをするものなのですか?」
「そうだなあ……相手によるかな。まず、きれいなお姉ちゃんだったら」
「おい!」
驚いてダルが止める。
「なんだよダル」
「いや、さすがにそれは、いや」
またマユリアが楽しそうに笑い、
「シャンタル、今のがトーヤの親友のダルですよ。この度、
マユリアの言葉にダルとリルが急いで頭を下げる。
「頭をお上げなさい」
やさしくそう言われ、顔を覚えてもらわなくてはいけないのだ、と2人とも恐る恐る顔を上げる。
「ルギはわたくしのそば付きの
文字通り1人1人を丁寧に紹介していく。
リルはなんのためにそんなことを、とうろたえているようだが、トーヤがこれからこなす「仕事」のこをと知っているミーヤとダルはこれも必要な手順なのかと動揺を押さえるようにする。
ルギは何を思っているのか分からない。
「そんじゃまあ、ダチの場合だったら」
「ダチ?」
「ああ、友達だよ、俺とダルみたいな」
「ああ、そのように呼ぶこともあるということですか」
「まあな」
「いや、覚えなくていいです!」
慌ててダルが止める。
「そうなのですか? では、友達とはどのように慣れていくものなのですか? トーヤはどうやってダルと親しくなりました?」
「って、あらためて言われてもなあ、うーん……」
「いや、無理だろ……」
言えるはずがない。利用するつもりで近づいて、気づけば仲良くなっていた、とは。
「ミーヤが俺に慣れた時ってのもなあ、なかなか説明しにくい」
「しなくてよろしいですよ」
ミーヤが慌てて言う。まさか脅されて襲われそうになった、とは言えない。
「ルギ隊長とは……」
「慣れたつもりもない」
「だよなあ……リルさんは……まだそれほど慣れてくれてないしな」
「…………」
はあっとトーヤがため息をつく。
全く、よく考えてみたら誰ともろくな馴染み方をしていない。
「案外難しいものなのですね、慣れるというのは」
「ですねえ……」
ダルがマユリアに応える。
「あ、フェイは!」
思い出したようにミーヤが言った。
「トーヤがフェイに色々と話を聞いていました。そしてフェイもそれに答えていくうちに馴染んでいったかと」
「話を色々と、ですか」
「はい、それは優しく聞いてあげていました。フェイは、あまり人に馴染むような子ではありませんでしたが、少しずつ慣れていったように思います。ですが、一番大きいのはあれでしょうか、リュセルスでトーヤがフェイを抱っこして街を歩きました。あの時からフェイがトーヤになついたように思います」
「抱っこか……」
言うなりトーヤがさっと近づいてシャンタルを抱き上げた。
「ああっ!」
誰のかは分からない。もしかしたらマユリア以外の全員のかも知れない声が上がった。
「よ、ちび、これでおまえも少しは俺に慣れてくれるのかな? まあこうなったら仕方ねえ、仲良くやろうぜ」
いきなり抱き上げられたシャンタルは驚きもしないで同じ表情のまま、それでも微かに首をトーヤの方に向けて見たような気がする。
あまりに反応がないので抱き上げたもののトーヤも困ったなと少しだけ思った。
「まあ、あれだ、いきなりでもな」
そう言ってまた元の場所に座らせる。
「とにかく、一緒にいる時間を増やすってことかな? フェイは毎日そばにいたしな」
「そうでしたね」
ミーヤが懐かしそうに言う。
「では、今日から時間を取るようにいたしましょう。毎回謁見の間も少しばかり広いですから、わたくしの客室に来るようにしてください」
トーヤをのぞく3名が丁寧に頭を下げる。
「今日はこのままトーヤとミーヤ、一緒に来てください」
「あ、はい」
急いでミーヤが立ち上がる。
「残りのものは各自の部屋に戻ってください。ご苦労さまでした」
トーヤとミーヤを残し、例のトーヤがぶつかりそうになった扉から出ていく。
「ちっ、誰もぶつからねえんだな」
「当たり前です」
小さい声でやり取りする。
それが耳に入っていたようでマユリアがクスリと笑った。
「ではまいりましょうか」
鈴を鳴らして侍女を呼び、シャンタルを伴って廊下へと出ていく。
シャンタルはそこから輿に乗り、マユリアの客室へと運ばれていった。
「え、目と鼻の先じゃねえかよ、そんでも輿に乗るのか?」
「シャンタルはお部屋から出られる時はいつも輿にお乗りです」
「おいおいおいおい……」
そんなのを連れて俺は旅をしなくちゃなんねえのか?
トーヤは少しばかり頭が痛くなった。
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