16 もう一つの予定表
そうしてダルをからかいながら祝福していたら、本日3人目の客がトーヤの部屋を訪れた。
「もう、ダルさん、いつまで待たせるんですか?」
ぷりぷりしながらリルが部屋へ入ってきた。
「あ、ごめんごめん、つい話し込んじゃって」
「まったくもう呆れます」
やれやれという風に腰に手を当てて首を振り、
「ちゃんと言ったんですね?」
「あ、うん、言ったよ」
「本当に呆れます」
本日2回目の呆れるを口にする。
「もうとっくに報告してたと思ってたのに、さっき実はまだ言ってないって聞いてどれだけ呆れたか」
3回目。
「さ、じゃあキリエ様に報告に行きますよ」
「う、うん……」
またダルがもじもじとするのを、つかつかと近寄ってきて、
「お邪魔しました」
と、ダルの腕を引っ張って部屋の外へ連れ出した。
「まるでかあちゃんだな……」
「ええ、本当に……」
トーヤとミーヤがそう言ってしばらく笑った。
リルとダルはこれからキリエにオーサ商会の申し出と、ダルの結婚のことを報告に行くのだ。そうしてシャンタルにもキノスからは船に乗るとお伝えしてもらう。
「そうか、キノスから向こうはどうしようかと色々考えてたんだが、これでまた一つ楽になった。おかげであいつが男だってことも俺が言わずに済んだしな」
「まあ……」
それを聞いてミーヤが笑う。
「後は、明日のお出ましが終わってから、だな」
「ええ……」
空気が固くなる。
明日からの公式の予定表はこうなっている。
交代の当日、日の出と共に神殿では交代のための様々な祈りの儀式が行われる。
次代様が先に神殿にお入りになり、そこにマユリアとご一緒にシャンタルがお出ましになり、次代様の額に触れられて当代と次代の継承の儀式は終了する。
マユリアによるとそれは、
「当代と次代の間に糸をつなぐようなこと」
なのだそうだ。
シャンタルの力は大きく、次代様は無垢ではあってもまだ弱い存在である。一度に力を移すことはできない。そのために次代様の中で「糸を
継承の儀式の後、マユリア、シャンタル、次代様がバルコニーにお出ましになり、継承が無事に終わったことを民に報告になられる。
午後の半ばあたりに最後のお出ましが終わると、次代様は初めてシャンタルが赤子から幼子に成長されるまで過ごされる私室にお入りになられる。当代の時にはラーラ様が乳母代わりとしてお付きになられたが、今回はラーラ様以外にも定例通りに選ばれた乳母数名が控えることになった。
マユリアとシャンタルはマユリアが人に戻られる最後の時をゆっくりと過ごされる。お出ましの後、ここは決まりがあるわけではないが、自室でお食事をとられたり、お話しをされたりして、マユリアが人に戻る時をお迎えになることとなる。お別れのための一時だ。
マユリアには自室もあるが、今回はシャンタルの寝室で共に朝まで過ごされるということになった。
交代の翌朝、マユリアと当代がシャンタルの私室から出られて神殿へと
「これは今度はマユリアという糸を当代にお渡しするようなことです。真名を知った瞬間に糸の端が手から離れ、
ラーラ様は少しさびしそうにそうおっしゃっていた。
そうしてマユリアの糸を受け取ってシャンタルの糸に
「そのようにして糸をつなぐ儀式、それが交代の儀です」
マユリアとラーラ様がそうおっしゃっていた。
だが今回はもう一つの予定表がある。
最後のお出ましを終えると私室での食事会の前にシャンタルは丸一日仮死状態になる薬を飲む。食事会へとお迎えに行ったキリエがそれを発見し、奥宮へ侍医を呼びシャンタル死亡を確認させる。
その夜を迎える前に、まだリュセルスに祝いのために集まっているだろう民にそれを発表し、服喪の期間へと入る。
翌日の午後の半ばあたり、シャンタルが亡くなられたと同じぐらいの時刻に「託宣にあることと」して黒い棺に入れたシャンタルの身体を「聖なる湖」に沈める。
それを湖のそばの森で待機していたトーヤ、ダル、ルギが助け上げ、着替えさせた後でトーヤとダルの2人がシャンタルをお連れして洞窟を「マユリアの海」の向こうへ抜け、そこから海を渡ってキノスへ行き、翌日オーサ商会の船で西の端の港「サガン」まで行き、そこから「
数年後、成長したシャンタルを連れてシャンタリオへ戻り、シャンタルから完全に女神シャンタルを抜いて次代様へお渡しし、マユリアから継いだマユリアもお渡しし、真名を知って人に戻る。
「壮大な作戦だよなあ……」
あらためて流れを振り返りトーヤがふうっと息をついた。
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