4 敵か味方か

 午前中にマユリアへの謁見が終わり、リルもほどほどにダルに付くという話に落ち着いたので、午後からトーヤは1人である人に会いに行くことにした。


「よう、ちっと時間あるかな、隊長」


 あの日、謁見の間で別れたままのルギを尋ねた。


 シャンタル宮第一警護隊の隊長室へ入ると、執務机しつむづくえの椅子にルギが座り、数名の衛士がそこかしこに控えていた。


 ルギはあごに白い布をあてがって押さえるように頭から顔まで包帯を巻かれている。

 黙ってギロリとトーヤを睨む。


「えっと、傷の具合、どうだ?」

「少しばかりったが大したことはない」

「あ、そうなの?そんじゃあよかった」

 

 トーヤはいやあ、と手を頭に当てながら軽い感じでさらに聞いた。


「それと、ナイフ刺さった人と蹴られた人は大丈夫かな?」

「そちらも大したことはなかった」

「そうか、そりゃよかった。いやあ、あの時は慌ててあんまりきちんと狙ったりできなかったもんでな、どうなったかなと気にしてたんだよ、いやあ、よかったよかった」


 そう言うが、ルギの周囲にいる数名の衛士が厳しい目でこちらを見ているのには気付いていて居心地が悪そうな顔になる。


「えっとな、そんで、隊長」

「なんだ」

「あの、ちっと2人で話せねえかなあ」

「なんの用だ、ここでは話せない話か」

「う~ん、ちょっと人払いするとか移動するとかしてもらえると助かるかな~と」


 ルギはちらっとトーヤを見ると、


「おまえたち、しばらく下がれ」


 そう言って衛士たちを退室させた。


「それで、どういう話だ」 

 

 トーヤはすすめられもしてないのにソファにどっかりと座る。


「とりあえず、悪かったな」

「何がだ」

「いや、その傷だよ」

「謝られるようなことではない」

「んーでもなあ、下手するとっちゃってたからなあ」


 またルギが睨む。


「おっと、そういうことじゃねえんだよ。いや、ダルに言われて気がついたんだ、俺が一方的に斬りつけたってな。だからそれはすまなかった」

「気持ちが悪いな」


 ルギが無表情のままで言う。


「でもなあ、あんたも悪いぜ?あんなやり方したら俺だって危険を感じるってもんだ、違うか?」

「それはそうかも知れんな」


 ルギが素直に認める。


「そっちこそ気持ち悪いなあ。まあ、そういうことでこの件は手打ちにしてもらっていいかな?」

「そもそも揉めていたつもりもない」

「つれねえなあ」


 ほっと一つため息をついて続ける。


「まあな、俺も今更あんたに好かれようという気もねえし、好こうって気もねえんだが、それでもその上で聞かせてもらえると助かる」

「だから何をだ、聞きたいことがあるならさっさと聞け」

「あんた、マユリアに何を命令されてた?」

「供をしろとのご命令だった」

「それから?」

「おまえが湖からあの洞窟に行けるか、そしてもう一つ下のあの出入り口まで行けるかを見ているようにとのことだった」

「それから?」

「あの出入り口まで着いたらそこから宮に戻って人目につかないように謁見の間まで連れてくるように」

「それから?」

「それだけだ」

「そうか……」


 やはり思った通りに一時期姿が見えなかったのはマユリアの命のようだが、それはトーヤがあの洞窟の入り口に行くのを見張っていたためだと分かった。


「さきほどから一体何が聞きたいのだ」


 ルギがじっとトーヤを見て言う。


「いや、いやな……」


 あんまり言いたくないよなーと思いながら言うしかないので言う。


「あんたが俺の敵か味方か考えてた」

「おまえの味方でなどあるはずがない」

「だよなー」

「だが敵であるとも思っていない」

「つまりはマユリアの命令次第ってことだな」


 一瞬、ルギはトーヤの言い方に顔をしかめたが、


「まあ、そういうことになるな」


 と認めた。


「じゃあさ、仲直りしようぜ、ほら」


 トーヤがそう言って右手を差し出す。


「断る。先程も言った通りに揉めていたつもりもない」

「そりゃまそうだろうが、そんでもこんだけこじれたんだし、一応形だけでも握手、ほれ」


 しつこく手を突き出す。


 ルギはじっとその手を見て、それからトーヤの顔を見ると大きく一つため息をつき、


「それでおまえが消えてくれるというのならそれでいい」


 と、ぎゅっと一瞬だけトーヤの手を持ってさっと離す。


「ありがとな」


 トーヤはそう言ってニカッと笑うと真面目な顔になり、


「さて、ここからが真面目な話だ」


 そう言ったのでルギは心底しんそこ嫌そうな顔をした。

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