20 些細なこと
「リル!」
ミーヤがリルを支えて軽くゆさぶる。
「あ……」
ミーヤにゆさぶられてすぐに意識を取り戻した。
「えっと、何が……」
「リル……」
ミーヤが気の毒そうにリルを見、リルが今聞いたことを思い出し、
「え、え、ええー!!」
マユリアの
「え、ええっ?う、嘘でしょ?」
そうミーヤに聞くが、ミーヤが返事に困って黙り込む。
「え、だって、だって……あんなにお美しくて、どこから見ても女性……って、え、えー!どうしましょう!私、私、大変なことを申し上げてしまったわ!」
「ええ、でも知らなかったのですもの、あれは仕方がないわ……」
ミーヤもその場にいたので何のことを言っているのか分かっている。
「なんのことだよ?」
「それが……」
と、ミーヤがシャンタルが結婚について聞いた時にリルが説明したことを聞き、大爆笑する。
「はあ~そりゃしょうがねえ、リルはいっこも悪くねえ。けど笑える~!」
「笑いごとではないんですよ?」
ミーヤにキッと睨まれる。
「で、それはどういうことにするんだ?ってか、今でも俺もほんとかって思ってるんだが、あいつ、本当に男なのか?」
「え、えと、それは……」
ミーヤが顔を赤くして下を向くのに、
「見たのか?」
と、愉快そうに聞くと、ミーヤが一層赤くなって頷く。
「そうか、見たか、そうか、本当に男だったか」
そう言ってなおも笑うのに、
「もう!!」
と、どう言っていいのか分からないようにしながら怒る。
「それは重大なことなのでしょうか?」
マユリアがいきなり言う。
「それは、重大なことではないかと」
リルが思わず答える。
「そうなのですか……シャンタルのお命が失われぬ、それが一番大切なことと思っていたもので些細なことのように思っていました」
「些細なこと……」
リルがどう思っていいのか分からぬように繰り返した。
「まあ、そうかもな。シャンタルだのマユリアだのって役目さえなけりゃ、どっちでもいいよな」
そう言って愉快でたまらないように笑い、またミーヤに睨まれた。
「いや、だってそうじゃねえか?なんか問題あるか?」
「それは……」
言われてミーヤが考え込む。
「なんにしろ、この国の人間はみんなあいつが女だと思ってる。だからもしも怪しまれて調べられても逆に助かるな」
「それはそうなんですが……」
ミーヤが黙り込む。
「では、シャンタルに男性であるとお伝えするのはあちらに渡ってからトーヤの仕事、ということになりますね」
「え?」
いきなりリルが言う。
突然「様」抜きで呼び捨てされてトーヤが二重にびっくりする。
「だって、そうでしょう?こちらで教えないということは、あちらに行ってからお教えするということになります。そのままずっと教えないというわけにはいかないし、そうしたらそれはトーヤの仕事になりますよ」
「え?」
トーヤがそれは考えてなかったというように驚く。
「私は知らずに女性だと申し上げてしまいましたが、それもよろしく」
そうにっこりと笑われ、
「おい、いや、ちょ、待てって」
トーヤが慌てだした。
言われてみればそうだが、自分がそんなことを伝えなければいけないのか、とんでもない!
「あら、でも問題ないんですよね?だから」
「いや、悪かった、問題ある、大ありだ!だからこっちで頼む!」
口ではリルに分があるようだ。
「では、どうすればいいか一緒に考えてくださいね」
ぐうの音も出ない。
「どうって言われても……やっぱり実際に見せて教えるのがいちば」
「リル、やっぱり私たちで考えましょう!」
トーヤが言いかけたことを察して急いで遮る。
「トーヤが考えると大変なことを言い出しそうです」
「おい」
マユリアが2人を見て笑う。
「トーヤとミーヤは本当に楽しいですね……」
「え、私もですか?」
ミーヤが一緒にされて驚く。
「知らねえのか?あんた結構面白いぜ」
「まあ!」
そう言って笑うトーヤに怒った顔を見せる。
「ああ、こうして笑えるのは本当に幸せです」
マユリアがそういう一言の重さに思わず4人が黙る。
昨日の今頃、まだシャンタルの答えを聞く前で大変な緊張の中にいただろうマユリアが、今はこうして楽しそうに笑っている。その事実の重さ……
「あの……」
リルが言う。
「私が知らぬとはいえ一度は女性と申し上げてしまったので訂正しても構わないのですが、ですが、シャンタルはお知りになって大丈夫でしょうか?」
「ええ、それと、交代の日まで他の方に知られてしまうことがないか、この2つが心配です」
ミーヤも言う。
「俺はやっぱりお教えする方がいいと思います。その上で大事なことなので話すなと申し上げたらシャンタルはきっとお分かりくださいます」
ダルは考えていた結論を口にする。
「それと、トーヤに任せたら大変だと俺も思いますので」
それを聞いてまたマユリアが楽しそうに笑った。
「では、やはり今のうち、そうですね、今日のうちに誰かがお伝えするのがよいかも知れませんね。多分シャンタルは大丈夫でしょう。そんな気がいたします」
そう言われてすぐにリルがお伝えしに行ったのだが、
「そうなの」
と言うだけで驚くほどあっさりと事実を受け入れた。
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