21 拍子抜け
「なーんか拍子抜けだな。一体どんな言い方してどういう返事したんだ?」
戻ってきたリルとミーヤにもう少し詳しく教えろと言う。
「ええ……」
リルとミーヤは大変な緊張をしてシャンタルの私室へと向かった。
「大切な話がございます」
応接でラーラ様と共にソファに座りながらシャンタルが聞く。
「何?」
「あの……」
リルが思い切ったように言う。
「以前、ここで結婚についてお話ししたことがございました。覚えていらっしゃいますか?」
「男の人と女の人が家族になる結婚?」
「はい」
「リルのお兄さんが結婚が決まったという話よね」
「あら、それはおめでたいことですね」
シャンタルの横に座ったラーラ様がやさしい笑顔でそう言う。
「そうなの、おめでたいのですって」
シャンタルもラーラ様に答える。
「はい、それはそうなのですが、それでですね……あの……」
リルが言いにくそうに言う。
「その時に、シャンタルは女の方なので女の方とは結婚できないと申し上げました」
「うん、そう言ってた」
そう言いながらがっかりとした顔をする。
「あのね、ラーラ様もマユリアも女の方なのでシャンタルはお二人とは結婚できないんですって。結婚して家族になりたいと思ったのに……」
「まあ、シャンタル……」
ため息をつくシャンタルに感激してラーラ様が涙を浮かべる。
「大丈夫でございますよ。ラーラは何があってもずっとシャンタルの家族でございます」
「本当?」
「ええ」
「あの!」
違うのだ、そういう話ではないのだ。
リルが話を元に戻す。
「違うのです、そうではなくてですね」
「うん?」
シャンタルがリルをじっと見て何が言いたいのかという顔になる。
「あのですね……あの、あの時は私は知らなくて、それで間違えて言ってしまったことが……」
「間違えて?」
「はい……」
「何を間違えたの?」
「あの……」
いざ言おうと思うとなかなか言葉が出ない。
「何?」
「あの、はい……」
「どうしたの?」
「あ、はい……」
リルが思い切って口にする。
「あの時、シャンタルは女の方とはご結婚できないと申し上げたのですが、その、そうではありませんでした」
「え?」
シャンタルがきょとんとした顔をする。
「じゃあシャンタルはラーラ様とマユリアと結婚できるの?あ、でも一番好きな人1人としかできないのよね……」
そう言ってがっかりするのに、
「シャンタル……なんとお可愛らしい……」
ラーラ様がまた感激して涙を浮かべる。
違うのだ、そういうことではないのだ。このままではいつまでたっても話が進まない。
「いえ、そうではないのです!シャンタルは男の方、男性だからです!」
思い切ってリルが言ってしまう。
「え?」
シャンタルがびっくりした顔をする。
「あの時はシャンタルが女の方、女性だと思っていたのでああ言ってしまったのですが、シャンタルが男の方だとこの
言うだけ言って思い切り頭を下げる。
ミーヤも一緒になって下げる。
「へえ、そうなの」
シャンタルは少しだけ驚いた風にそう言うと、
「じゃあ、シャンタルは大きくなったらラーラ様やマユリアのようにではなく、ルギみたいになるの?」
なんだかがっかりしたようにそう言う。
「いえ、あの、それは、あの、どう……でしょうか……」
どう返事をしていいのか分からない。そもそもがっかりしているツボも分からない。
「ルギかあ……うーん」
どうやらルギになるのが残念なようなので、
「あ、あの、多分シャンタルはルギのようにはなられないかと」
「どうして?男の方はああなるんでしょ?」
「いえ、男の方にも色々ございまして、例えばダルやトーヤも男性でございますよ」
「あ、そうか」
言われてちょっとホッとしたようになる。
「うーん、ダルやトーヤだったらまだいいかなあ。でもできたらシャンタルはラーラ様やマユリアみたいになりたかった」
「まあ、シャンタル……」
だめだ、ラーラ様はシャンタルが何をおっしゃってもこうだ、自分がなんとかお伝えしなければ。リルはその責任感で思い切って言う。
「あの、おそらくですが、シャンタルは今のままきっと美しい男の方になられるかと思います。女の方でもシャンタルと同じぐらいお美しいのはマユリアぐらいですから、大人の男の方になられてもきっとそうだと。そうであっていただきたいですし!!」
最後はもう自分の希望的観測をぶつけてしまう。
「え、そうなの?」
シャンタルの顔がパアッと明るくなる。
「だったらシャンタルは男の方でもいい」
「そ、そうなのですか?」
「うん。そうすると結婚する相手は女の方になるのよね?それでいいのよね?」
「あ、はい」
「分かった、そうするね」
屈託なくにっこりとそう言う。
「それでお話はそれだけでいいの?」
「あ、はい」
「そう、ありがとう」
そう言われてそのまま帰ってきたらしい。
聞いてトーヤが大爆笑し、ダルはちょっと困ったなという顔になる。
「まあまあ、いいじゃねえかよ。まだガキにはそんなもんだって」
そうしてトーヤは自分の仕事が一つ減ったことにホッとし、そしてルギよりいいと言われたことにざまあみろと思って笑い続けた。
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